「う〜ん・・・何にしようかなぁ・・・」

ラボの中、真っ白な設計図の目の前に腕を組みながら悩むアタシ。

アタシ達は今度、みんなで集まってパーティーをする事になったの。
姉妹なのに普段は会えないからたまにはこう言う事もやろう、って咲耶ちゃんが言い出して・・・・。

ところが、色々あって「折角だからみんなでそれぞれ出し物でもしよう」って話になっちゃったの・・・。

もちろんアタシは自作のメカを披露する。
そこまでは決まってるんだけど・・・何を作って何を披露するか・・・それが決まってないの。

「何かヒントになれば・・・」

今から取り掛かれば、ある程度のものなら十分間に合う。
だけど、何を作るかで悩んでる。

「う〜ん・・・」


    ピンポ〜ン


「・・・ん?」

そんな時、家のチャイムがなった。











 

Medicine KISS













「すみません、突然お邪魔して・・・」

玄関のチャイムを鳴らした我が家への来客者はぺこりと頭を軽く下げて会釈した。

「いや、別に良いよ。 それで、どうしたの鞠絵ちゃん?」

来客者こと鞠絵ちゃんは、細長い鞄をもってアタシの家までやって来た。
鞠絵ちゃんは普段は療養所に居て、あんまり会う事ができない。
でも、最近はかなり元気になって来たみたいで、外出許可が頻繁に出るようになったらしい。

「はい、実は鈴凛ちゃんにお願いしたい事がありまして」
「お願い?」
「えっと・・・どこから話せば・・・」

どうやらアタシにお願いがあってやって来たみたいだ。
でも、鞠絵ちゃんの居る療養所へはいちいちバスや電車などを使わなくちゃいけない距離にあるのに、何でわざわざ・・・。

(電話かメールで十分だと思うけど・・・)

なんて考えてたら鞠絵ちゃんはどこから話すかを決めたらしく、こう口を動かした。

「バッティングマシーンを作ってください」

意味不明。

「・・・は?」

思わずそう口から漏れた。

「あ、ここからだとちょっと分かり難いですよね。 えっと・・・」

再び鞠絵ちゃんが考えはじめた。
ちなみに全然“ちょっと”じゃなかった。

「鈴凛ちゃんはなにを作るか決めてるんですか?」
「・・・なにが?」
「あ・・・えっと・・・パーティーの出し物のメカです」

付け足すようにそう言った。

「いや、まだだけど・・・何でアタシがパーティーにメカを披露するって分かったの?」
「ワンパターンですから」

さり気に酷い事をサラリと言う。

・・・そ、そんなにワンパターンだったかな・・・?

「・・・え〜っと、それとバッティングマシーンとどう関係あるの?」

鞠絵ちゃんの言いたい事がいまいちよく分からなかった。
だから鞠絵ちゃんにそう質問する。

「鈴凛ちゃんは今度のパーティー、可憐ちゃんと亞里亞ちゃんがふたりで一緒の出し物をするって知っていますか?」
「・・・え! そうなの?」
「そうみたいなんです・・・」

何でも鞠絵ちゃんの話だと、可憐ちゃんはピアノの演奏を出し物にしようと思ってて、
それをたまたま亞里亞ちゃんに話したら、亞里亞ちゃんは亞里亞ちゃんで歌を披露しようと思ってたらしく、
どうせなら可憐ちゃんのピアノの演奏と亞里亞ちゃんの歌を一緒にやらないかって事になった、との事。

「出し物を一緒に・・・ねぇ」

それを聞いてアタシは、そう言う方法もあるなぁ、と感心してた。
しかし・・・、

「だからそれとバッティングマシーンと何の関係があるの?」

アタシにはさっぱり分からなかった。

「・・・わたくし、それを聞いて鈴凛ちゃんと一緒に出し物をしたいって思ったんです」
「ふんふん・・・」

まだ繋がらない。

「それで、鈴凛ちゃんの事だからきっと自作のメカを披露するんだろうな、って思って・・・」
「ふんふん・・・」

まだ繋がらない。

「ですから、もし、わたくしと一緒に出し物をしてみても良いと思ってくださったのなら、バッティングマシーンを作って頂きたいんです」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・へ?」

サッパリです。

「・・・えっと、わたくしと一緒に出し物を・・・ダメでしょうか?」
「いやいやいや、ダメじゃない。 別にアタシは一緒にで構わないよ、構わないけど・・・」
「・・・けど?」
「だから、バッティングマシーンを作ってどうするのさ?」

鞠絵ちゃんと一緒に出し物をするのは別に構わない。
寧ろ喜んでやらせてもらう。
でも、そこから何故話がバッティングマシーンに飛ぶのかが分からなかった。

「もちろん打つんです」
「そりゃ、バッティングマシーンだからそうだろうけど・・・誰が?」
「わたくしが」

・・・・・・。

・・・なんだか聞き間違えたみたい。

「・・・誰が?」
「だからわたくしが・・・」

・・・・・・。

あははは、最近うるさいラボの中に居たから耳でも悪くなったかな・・・?

「・・・もっかい」
「わたくしが、です」

・・・・・・。

「・・・・・・はいっ!?」

・・・もしかして、聞き間違えじゃ・・・ない!?

「え? えっ!? ちょ、ちょっと待って! つまりこう言う事!?
 アタシと鞠絵ちゃんが一緒に出し物する。
 で、アタシがバッティングマシーンを作って、鞠絵ちゃんはそれを使ってバッティングを披露する、って・・・」
「はい、その通りです」

にっこりと笑ってハッキリとそう言う。

鞠絵ちゃんが・・・打つ?

「「・・・・・・」」

場を沈黙が支配した。

「は・・・はは・・・あはは・・・」

沈黙を先に破ったのはアタシの笑い声だった。

「ヤダなぁ、鞠絵ちゃんったら、冗談キツイよ・・・」
「冗談なんかじゃありません!」

真剣な顔と少しムッとしたような声でアタシの解釈を否定した。
そして得意気に、

「こう見えてもわたくし、得意なんですよ、打つの」
「・・・・・・」
「その目・・・疑ってるんですか・・・?」
「・・・うん」

正直に思った通り、首を縦に振る。

「だって鞠絵ちゃんってさ・・・」
「療養所で入院中だから・・・ですか?」
「うん。 そうでしょ?」

鞠絵ちゃんは病弱で、今も療養所に入院していて・・・最近は良くなってきたらしいけど・・・、
でもこう言う運動とは無縁のはず・・・。

「だから隠し芸として良いんじゃないですか。 みんなビックリして・・・」
「・・・・・・」
「信じてませんね」
「うん」

即答で返事を返したアタシに、鞠絵ちゃんはため息を吐いてから、静かにこう口から漏らした。

「分かりました・・・」
























「ねぇ、鞠絵ちゃん・・・もういいから、そう言う事にして置くから、だから意地張らないでさ・・・」
「嫌です!」

アタシは鞠絵ちゃんに連れられて近くのバッティングセンターまで連れて行かれているところだった。
アタシの家の近くには、ごく小さいものだけどたまたまバッティングセンターがあって、鞠絵ちゃんもその事を知っていた。

「でも鞠絵ちゃん、そんなに動いちゃダメなんじゃ・・・」
「ダメですよ」

ダメとかサラリと言わない!

「・・・でもね、鈴凛ちゃん」
「何?」
「バレなきゃ大丈夫ですよ」

・・・そう言う考え方っていけないと思います。

「それに発作が起きたらお薬を飲めばいいだけですし。 ・・・あ、はい、このお薬です」

そう言ってポケットから薬を取り出して言う。

「でもさぁ・・・」
「もう遅いですよ」
「へ?」

そうこう言ってるうちにバッティングセンターまで着いてしまった。
























「鈴凛ちゃん、お金貸してくれますか?」

カードを売っている自動販売機の前でそう言われた。

「寧ろアタシが資金援助して欲しい立場なんだけど・・・」

そう返す。

このバッティングセンターは自動販売機でカードを買い、そのカードをバッターボックスの横にある機械に差し込むと、
そのバッターボックスの正面にあるバッティングマシーンから球を飛ばしてくれる、と言う作りになっている。

つまりここでカードを買わなくてはボールを飛ばしてくれないと言う訳だ。

「お願いします、ちょっと持ち合わせが・・・」

苦笑しながらアタシを見る。

「・・・分かった、奢ってあげるよ・・・」
「え? 良いんですか!?」

アタシはため息ひとつついて自動販売機に千円札を差し込んだ。
・・・鞠絵ちゃんとは滅多に会えないんだし、こう言うサービスくらい、たまになら良いかって思ったから。

(まぁ・・・数球打てば気が済むんだろうし・・・)

それに、バッティングマシーンの動きなんて滅多に見ないし、良い研究代と思えば・・・


    ごそごそ・・・


「・・・ん?」

カードを買っていたアタシの後ろで、鞠絵ちゃんが持ってきた鞄を開けて中を探ってた。
そして中から長い何かを取り出した。

「・・・・・・・・・何それ?」
「マイバットです。 きっと言うだけじゃ信じないと思っていましたので」
「ま、マイバットぉ〜・・・?」

バットにはしっかり『斬艦刀』とマジックで書かれていた。

「その名前はヤバくない?」
「わたくしのバットですから、別になんて名づけても良いと思うんですけど」
「いや、そうかもしれないけど・・・」

呆れ顔でバットをじっと見た。

「・・・ところで、そのバット、一体何回改名されたの?」
「・・・え?」

ちなみにバットの別のところには、薄くなって見づらいが、
斬鉄剣、塵地螺鈿飾剣(ちりじらでんかざりつるぎ)、ミョルニル、アルテマウェポン、エクスカリバー2号、などなど・・・、マジックで書かれた後があった。
呆れ顔が更に呆れた顔になったと思った。

「そうですね・・・このバットになってから5、6回って所でしょうか・・・」
「このバットに・・・って事は・・・」
「これ、4本目なんです」
「4本目ぇ!?」
「はい、このバットには1号さん、グングニルさん、村雨さんの力が・・・みんなの力が宿ってるんです」

歴代マイバットの名前に何かコメントしたいアタシを余所に、鞠絵ちゃんはバットをじっと見つめ、目をキラキラさせながら、しみじみとそう言う。

「受け継がれる遺志です・・・」

最後にそう付け足して恍惚の表情を浮かべてた。

・・・アタシは今、間違いなく貴重な映像を見ている。

「ところで、1号って、エクスカリバーの1号の事?」
「え? あ、はい、そうです。 よく分かりましたね」
「・・・・・・」
























少し寂びれて古ぼけているプラスチックのベンチの上に座るアタシと、それがそのまま扉と壁になっている金網のネットを挟んだ向こうの空間、


    カキィーーンッ


「・・・・・・」

そこにあるバッターボックスから気持ちの良いくらい爽快な音が響いていた。


    カキィーーンッ


そしてその音を作り出していたのは、

「・・・・・・うそ・・・」


    カキィーーンッ


「・・・今のはライト前、でしょうか?」

療養所に入院しているはずの病弱な女の子だった。


    カキィーーンッ


「今日も調子がいいですね、ミョル・・・いえ、斬艦刀」

・・・ああ、どうやらマイバットのひとつ前の名前はミョルニルだったみたいだ・・・。
・・・ってそんな事に感心してる場合じゃない!

「ななな、なんでぇーっ!?」

鞠絵ちゃんは、自分のマイバットで向かってくるボールを全て打ち返していたのだった!
しかも一本足打法で!

「・・・昔、まだ病気になる前、ちょっとバッティングにッ―――」


    カキィーーンッ


「―――興味があって、それでやってみた事があったんです」


    カキィーーンッ


「でもその時、一回もバットにかすりもしなくて・・・」


    カキィーーンッ


「そして、それが悔しくて・・・だから猛練習した事がッ―――」


    カキィーーンッ


「―――あったんです・・・」

・・・意外だ・・・って言うかビックリした・・・って言うか・・・ああ、もう言いきれないくらい色んな感情が沸いてでてきた。
まさか鞠絵ちゃんにこんな特技があったなんて・・・。


    カキィーーンッ


「す、凄いよ鞠絵ちゃん!」

球速はそんなに早くしていないけど、でも鞠絵ちゃんはボールを一度も外さず、全て打ち返してる。
まさに隠し芸だ!

「ただの昔取った杵柄ですよッ―――」


    カキィーーンッ


「―――・・・でも、やっぱり、少し衰えてます・・・」

でもこれは隠し芸として十分過ぎるほどだ。
病弱な鞠絵ちゃんがここまでのバッティングを・・・


    ・・・ガッシャーンッ


「・・・あ」

突然、今まで一定の間隔で鳴り響いていた爽快な音が別の音に変わった。
代わりに鳴り響いたのは金網に衝撃を加えた時のあの音だ。

鞠絵ちゃんのバットが空を切ったからだ。

やっぱり一回も外さないっていうのはさすがに―――

「・・・え?」

その時アタシの視界に入ってきたものは、バッターボックスの中でバットを地面について屈んでいる鞠絵ちゃんの姿だった。

「鞠絵・・・ちゃん?」
「・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・」

鞠絵ちゃんの息づかいが荒い。

「ちょっと・・・・はしゃぎ・・・過ぎた・・・みた・・・・・です・・・・」

そこでアタシはある事を思い出した。
いや、単純な事を忘れていた。
鞠絵ちゃんが病弱だったって事を・・・。

鞠絵ちゃんの華麗なバッティングのせいですっかり忘れていた・・・。

「鞠絵ちゃん!!」

アタシは急いで金網のドアを開け鞠絵ちゃんのところに向かった。
着くと、すぐにバッターボックスの横の機械からカードを取り出し、バッティングマシーンを止めた。
これ以上飛んでくる球で鞠絵ちゃんがケガでもしたら大変だと思ったからだ。

「大丈夫、鞠絵ちゃん!?」
「発作・・・・っ・・・みた・・・・です・・・はぁ・・・・お薬・・・・・」
「薬? あ! うん、分かった!」

アタシは、鞠絵ちゃんを楽な姿勢にしてから、
鞠絵ちゃんの服のポケットに手を入れ、手探りでさっき見せてもらった薬を探した。

「あ、あった! え、えっと・・・い、いくつ!?」
「・・・2じょ・・・・っぁ・・・・・・です・・・」
「2錠? 2錠ね! ちょっと待ってて!」

薬を2錠、手の平に乗せて鞠絵ちゃんの口に放り込む。

「ほら、薬・・・」
「おみ・・・ず・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「水? え!? み、水なんて・・・」
「鞄に・・・・はぁ・・・・・ペットボトル・・・ぅッ・・・ぁ・・」

鞠絵ちゃんはとても苦しそうだった。
一刻の猶予もない・・・そんな気がした。

「か、鞄にあるの!? ちょっと待って!」

鞠絵ちゃんをその場に寝かせてから、アタシは金網のドアをくぐり、向こう側にあった鞠絵ちゃんの鞄を開けた。
開けてすぐ、目に見える位置にペットボトルが1本。
中には透き通った水が入っていた。
アタシはそれを掴んで、再び金網のドアをくぐり鞠絵ちゃんが倒れているバッターボックスに向かった。

「・・・はぁ・・・はぁ・・・ぅっ・・・ぁ・・・はぁ・・・」

ペットボトルのフタを捻る。
そして、開いた口を鞠絵ちゃんの口に添えて、中の水を流し込んだ。

「はい、お水・・・」

でも、流し込んだ水は鞠絵ちゃんの口からこぼれ出てしまった。

「飲んでよ・・・ねぇ、お願いだから・・・」

もう鞠絵ちゃんには水を呑み込む余裕も残ってないの?

「飲んでって・・・! お願い・・・お願いだから・・・っ!」

薬は口の中、だからあと少し・・・あと少しなのに・・・。

「ヤダよ・・・ヤダよ、アタシ・・・こんな・・・」

折角良くなってきたっていうのに・・・!
もうすぐみんなといつでも会えるようになれるかもしれないのに・・・!

なのにこんな・・・こんな事で・・・

「・・・・はぁ・・・はぁ・・・・ぁぅッ・・・ぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

このままじゃ・・・このままじゃ鞠絵ちゃんが・・・

「鞠絵ちゃんっ! お願いだから・・・水飲んでよぉっ!!」






・・・・・・・・・・・・



・・・・・・
















































・・・・・・



・・・・・・・・・・・・






「・・・ん」
「鞠絵ちゃん!」
「鈴凛・・・ちゃん? ・・・ここは?」
「まだバッティングセンターだよ」

鞠絵ちゃんが目を覚ました。

「良かった・・・ほんとに良かった・・・」

アタシは、鞠絵ちゃんに何とか薬を飲ませて、容態が落ち着くまでベンチの上に寝かせておいた。
薬を飲ませてからは、それまでの様子がまるで嘘のように、すぐに容態が良くなっていった。

「すみません・・・わたくし、少し調子に乗ってしまったみたいで・・・」
「ううん、いいの・・・。 鞠絵ちゃんが無事だったんだから・・・」
「・・・鈴凛ちゃん」
「なに?」
「ありがとうございます・・・」

横になった姿勢のままお礼を言う。

「何言ってるの、助けるのは当然でしょ」
「それと・・・すみません・・・」
「いいんだよ迷惑かけたなんて思ってないから・・・」
「・・・違います・・・」
「・・・え?」
「その・・・気を失う前の事・・・」
「・・・あ゛」

“気を失う前の事”

そう聞いて思い当たる事はひとつしかなかった。

「ひょっとして・・・覚えて・・・?」
「はい、しっかりと・・・」
「あ、あは・・・ははは・・・」

アタシは笑った。
顔を真っ赤にして・・・照れ笑い・・・。
もう笑うしかなかった。












 発作が起き、自分で薬を飲む余裕すらなくなっていた鞠絵ちゃん。


「あの時、気がついたら鈴凛ちゃんの顔が物凄く近くにあって・・・」


 その鞠絵ちゃんを助けたい一心だった。


「わたくしの口の中に水が流れ込んできて」


 だからアタシは・・・


「その時、唇に・・・不思議な感触があることに気がついて・・・それで分かったんです・・・」


 鞠絵ちゃんの口に添えていたペットボトルの口を、自分の口へと移して・・・、


「その・・・鈴凛ちゃんが・・・お水を・・・自分の口に含んで・・・」


 そのまま躊躇なく水を含んだ自分の口を、


「・・・口移しで・・・飲ませてくれたって・・・」


 鞠絵ちゃんの唇に重ねて、流し込んだ・・・。












「ゴメン!!」

手のひらを重ねて思いっきり頭を下げて謝った。
だってアタシは、仕方なかったとは言え、鞠絵ちゃんから唇を奪っちゃったんだから・・・。

「あ、謝るのはわたくしの方です。 鈴凛ちゃん・・・その、女の子相手に・・・そんな事・・・嫌だったに、決まってるのに・・・」
「・・・それが・・・全然抵抗なんてなかったの・・・」
「・・・え!?」
「って言うかそこまで考えてる余裕なかった」

アタシはそれくらい切羽詰った状況だと感じてた。

「それにアタシは、後悔してないから・・・」
「・・・・・・」

鞠絵ちゃんを助ける事ができたんだから・・・女の子同士でのキスくらい・・・。

「それよりも鞠絵ちゃんの事がアタシなんかにキスされて嫌じゃなかったか、って方が・・・」
「・・・だったら大丈夫です・・・」
「・・・え?」
「わたくしを助けるために・・・わたくしのためにしてくれたことなんですから・・・。
 だから・・・鈴凛ちゃんの気持ちがたっぷりこもってたんですよ。 ・・・嫌だなんて思えるはずありません」
「鞠絵ちゃん・・・」

鞠絵ちゃんは、女の子に・・・アタシなんかにキスされたって言うのに、
・・・なのに、本当に嬉しそうな顔を・・・

「寧ろ、そこまでわたくしの事を想ってしてくれたんですから・・・嬉しいって感じています・・・」

まぶしいくらい素敵な笑顔をアタシに向けてくれた。

「・・・変、でしょうか? そんな風に思ってるなんて・・・」
「ううん、そんな事ない・・・と思うよ」

・・・だって、アタシも嬉しいって感じてるんだから。


 良かった・・・この笑顔を守れて・・・。
























夕焼けで、赤く染まった道をふたりで歩く。
今、アタシは、鞠絵ちゃんを駅まで送ってあげてるところ。

「あのさ・・・やっぱりパーティーの出し物、鞠絵ちゃんは違うのにした方が・・・」
「いいえ、一緒にやりましょう・・・ううん、一緒にやりたいんです」
「でも・・・」
「体の調子が良い時になら、10球までなら大丈夫ですから」

夕暮れの道、ふたりきりの赤い道をそんな会話をしながら並んで歩いてた。

「それに・・・」
「・・・? それに・・・?」

隣の少女は自分の唇に人差し指を当てて、軽く微笑みながら、

「鈴凛ちゃんのキス・・・無駄にしたくないですから」

アタシは、その言葉に夕日のせいでただでさえ赤い自分の顔が熱くなるのを感じ、夕日のせい以外の理由で赤くなったのが分かった。

そんなアタシには気づかずに、鞠絵ちゃんは少し早歩きをしてアタシの数歩前に出る。
細長い鞄を背負ったオレンジ色の後ろ姿が目に入った。

「それにもし・・・また発作を起こしてしまったら・・・」

くるりと振り返って、にっこりとアタシの顔を見るその笑顔から出た言葉が、

「その時は、また鈴凛ちゃんがキスして助けてくれれば良いんですから」
「うえぇぇえぇえぇぇぇっっ?!!?!?」

更にアタシの顔を赤くさせた。

「冗談ですよ」

アタシを翻弄した少女は、うふふ・・・と笑ってもう一度振り返り、駅の方向へと足を進めた。

「も、もう、鞠絵ちゃんったらぁ!」

アタシは、数歩先を歩くそんな彼女を早歩きで追っかけた。


どうやらいつもの調子に・・・ううん、いつもより元気に見えた。
鞠絵ちゃん、もう大丈夫みたいだね。



・・・寧ろ、またそうなってくれたらって、不謹慎にもそう考えちゃったアタシの方がちょっとヤバイかもしれない・・・。


あとがき

この作品は、『お姉ちゃんとして』を書き上げた時あたりに思いついた、その作品の裏話です。
思いついたのはシスプリ2を買う前だったので、ちょっと小耳に挟んだ“小さい頃の鞠絵が野球をやっていた”と言う情報から、
『小さい頃の鞠絵が野球をやってた=実は密かに上手い』の方式を頭の中で立ててたためこんな話を思いつきました。
ですが、シスプリ2やってみて鞠絵が『野球はやったことはあるけどボールに一度も当たらなかった=下手だった』と言う事で、
ボツにしようとしたのですが、一身上の都合でまりりんを大量生産する事にしたので、それを無視して作りました(笑)
しかも、リクエスト、作りかけの作品がいっぱいあったって言うにも関わらず、書き始めて2日で完成(笑)
この事で、衝動的に書いたほうが進む事が判明(笑)
なんとなく、この話は非常に展開が読み易そうだと思いましたけど構わず書きました(苦笑)
分かる人は分かったかもしれませんけど実は『シス百合カノン』の影響を少し受けてます。
あのトンでも連載企画も、実はレベルアップに繋がってたんだなぁ・・・と、しみじみ感心しました。(でも実際、なりゅーはレベルアップしてるのか?)
鞠絵のバットの名前に出てきた名前は色んなものから取りました(笑)
斬鉄剣はFFやらルパンに出てますね。
アルテマウェポンもFFから、エクスカリバー、村雨もそんな感じですけど色んなゲームで見る気がします。
ちなみにエクスカリバーの1号、2号は鞠絵が勝手につけたものという事で(笑)
塵地螺鈿飾剣はFFTから取りましたけど、平安太刀で調べれば出てきます。
ミョルニル、グングニルは北欧神話の武具から。
ミョルニルは別名トールハンマー、グングニルは主神オーディンが持ってる槍だとか。
斬艦刀はスパロボのゼンガー少佐(通称“親分”らしい)の乗る機体の武器です。


更新履歴

H15・10/16:完成
H15・10/19:あとがき修正
H15・10/26:誤字脱字修正
H15・11/6:修正
H16・1/8:誤字修正


 

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