Chapter 16


「亞里亞さま・・・ただいま戻りました・・・」

女は少女の下に帰ってきた。
しかし、少女は目を瞑ったまま、彼女に返事を返すことはなかった。

「白雪さまにお願いしましたから、きっと美味しいお菓子を持って亞里亞さまの下に来てくれますよ」

女は少女の頭をなでながら優しく語りかけた。

「亞里亞さま・・・私は頑張りました・・・・・・だから、ご褒美をください・・・」

女はそう言って少女の唇に自分の唇を重ねた。











 

Pure Heart Revenger and Broken Heart Revenger













Chapter 1


山道を二人の少女が歩いていた。

「ほら、しっかり白雪ちゃん」

前を歩いていたボーイッシュな少女が、自分の後ろから遅れて歩いてくる少女にそう声をかける。

「衛ちゃん、待ってですの〜」

白雪と呼ばれた少女は、ボーイッシュな少女にそう言葉を返した。

「も〜、しょうがないなぁ〜・・・」

衛と呼ばれたボーイッシュな少女は、顔をしかめながらそう言うと、しぶしぶ足を止めた。

「姫は・・・・はぁ・・・・体力がないから・・・・はぁ・・・・ハイキングなんて・・・」
「あ、もしかして嫌だった?」
「いえ・・・・・そうでは・・・・ないんですの・・・」

白雪は、胸に手を当て、少し時間をかけて息を整えた。

「姫もこういう所で食べた方が美味しいと思っていましたから・・・衛ちゃんのお誘いは嬉しいんですの」

そこで一旦言葉を止め、俯きながら元気のない声で言葉を紡ぐ。

「ただ・・・姫は体力がないですから、今みたいに衛ちゃんに迷惑を掛けちゃって・・・それが嫌だったんですの・・・」
「あ、ごめん・・・。 でもボク迷惑だなんて思ってないよ。 ただすごく楽しみで・・・」
「なにが・・・ですの?」
「いっぱい歩いて、いっぱいお腹空かせて、それで山の頂上で食べる白雪ちゃんのお弁当。
 きっとすっごくおいしいはずだよ。 だってただでさえすっごくおいしいんだから。
 ボク、それが今からとっても楽しみなんだ」
「もう、そんなに褒めないでくださいですの。 姫、照れちゃいます」
「ボクはただホントの事を言ってるだけだよ」

衛が笑顔でそう言うと、白雪はほんの少しだけ顔を赤く染めた。

「・・・でも、今日は姫、張り切ってお弁当作りましたの。 ハッキリ言って自信作ですの。 ムフン」

白雪は胸を張り自信満々といった感じでそう言った。

「え! ホント! じゃあ、早く頂上についてお弁当食べようよ!」

白雪の言葉に、衛は心を躍らせ、楽しみの余り駆け足で山頂に向かった。

「あっ、衛ちゃん、だから待ってって・・・きゃっ!」
「・・・え? あ! 白雪ちゃんッ!!」

短い悲鳴の後、足を滑らせた少女が、そのまま1、2m程の高さを落ちていった。












Chapter 2


家のチャイムが鳴った。
白雪は玄関まで行き、玄関のドアを開けた。
ドアを開けた向こう側には、フランス人形のように可愛らしい女の子がひとり立っていた。

「こんにちは・・・白雪ちゃん」
「亞里亞ちゃん・・・」

白雪は、ドアを開けそこに立っていた人物を確認すると、その名前を呟いた。

「白雪ちゃん・・・亞里亞、約束どおりひとりで遊びに来たの」

亞里亞と呼ばれた少女はニコニコと笑いながらそう言った。
しかし、白雪はその表情とは正反対に悲しい顔をしてこう返した。

「ごめんなさい、亞里亞ちゃん・・・。 姫、約束守れなくなっちゃったんですの・・・」
「・・・え?」

亞里亞の笑顔が一瞬にして消えた。












Chapter 6

「うわぁッ!!」

突然の背後からの衝撃で衛は1メートル程の高さから突き落とされた。
衛は、さっきまで自分の立っていた場所を見上げた。

「亞里亞・・ちゃん・・・・・なん、で・・?」

そして自分に代わりそこにいた人物の名前を口にした。

「衛ちゃんは悪い子なの」

亞里亞は、衛を見下ろしながらそう言った。

「衛ちゃんが白雪ちゃんをケガさせたの・・・。 だから衛ちゃんも同じ目にあうの」

そして、くすくすと笑い、こう続けた。

「悪い子にはお仕置きなの・・・」

瞬間、亞里亞の前を大きな影が覆った。












Chapter 3


「・・・・・・白雪ちゃん・・・どうしたの? ぐるぐるなの・・・」

白雪の利き腕に包帯が巻かれている事に気づくと、そのことについて質問した。

「これは・・・この間、衛ちゃんとハイキングに行った時に・・・」

白雪の手の骨は、足を滑らせて下に落ちた時の衝撃で折れてしまっていた。

「亞里亞ちゃんには、お菓子を作ってあげれなくなっちゃいましたの」

最後に付け足すようにごめんなさいと、言った。

「おかし・・・・・・食べれないの?」

亞里亞の顔はさっきまでの笑顔とは正反対、白雪と同じくとても悲しい顔になっていた。

「ごめんなさいですの・・・」

白雪はもう一度そう言った。
白雪は約束を果たせない事から、亞里亞は一生懸命頑張ったご褒美が貰えない事を知った事から、
それぞれその表情と同じ心境となっていた。



しかし、この時、白雪は気づかなかった。

「衛ちゃんの・・・衛ちゃんのせいなの・・・」

亞里亞がそう呟いていた事を・・・。












Chapter 7


物凄い音が響いた。
亞里亞は言葉を失った。
所々から悲鳴が聞こえた。
亞里亞が今まで見ていた空間には大きな壁がそびえ立っていた。
それは壁ではなく、ちょうどこの駅にやって来た電車だった。
























Chapter 10


家のチャイムが鳴った。
白雪は玄関まで行き、玄関のドアを開けた。
ドアを開けた向こう側には、メイドの格好をした大人の女性が立っていた。

「じいやさん・・・? どうしたんですの?」
「実は、白雪さまにお願いがありまして・・・」

じいやと呼ばれた女性は白雪にそう言った。

「お願い・・・ですの?」
「はい、亞里亞さまの為に今度こそお菓子を作って欲しいんです」
























Chapter 4


『亞里亞さま、白雪さまの家には無事に着けましたか?』
「くすんくすんくすん・・・」
『・・・! 亞里亞さま・・・どうかなされたのですか!?』
「あのね・・・白雪ちゃんね、おかし作れないの・・・。 手が包帯ぐるぐるで・・・亞里亞、おかしを作ってもらえないの・・・くすん」
『・・・・・・』
「衛ちゃんの・・・衛ちゃんのせいなの・・・・・・くすんくすんくすん」
『亞里亞さま・・・』

少女は、携帯電話に自分が悲しんでいる理由を話し続けた。
電話の向こう側の人物は、少女に見つからない位置から少女の泣き顔を見ていた。
























Chapter 12


目が覚めると、辺りは真っ暗だった。

「ここ、は・・・?」

白雪には状況が分からなかった。

肌寒い空気が自分を包み、草や土のにおいがした。
そのことから自分が屋外に居るのだろうと言うことが分かった。

とにかく体勢を起こそうとしたが、体の自由が利かない。
全身が痺れているような感じがした。

「目が覚めましたか? 白雪さま・・・」

不意に、自分に語りかけてくる声が耳に入ってきた。

「・・・じいや・・・さん?」

白雪は真っ暗で何も見えなかったが、声からそこに居る人物が誰なのかを理解できた。

「・・・!!」

そこで、白雪は自分の身に一体何が起こったのかを思い出した。












Chapter 11

「・・・それは・・・無理ですの」

じいやの願いに対する白雪の答えはこうだった。

「だって亞里亞ちゃんは・・・もう・・・」

白雪は、そこまで言って言葉を止めた。
頭では分かっていても、認めたくなかったから。

「・・・ですから作りに行って差し上げてください」
「・・・え?」

言葉の意味がよく分からなかった。

「それはどういう―――」

聞き返そうとしたのと同時に、口を布のような物で押さえられた。
何か薬品の匂いがした。

白雪の意識はそこで途絶えた。












Chapter 13


「どうし―――」
「貴女がいけないのですよ!」

白雪が何が起こってるかを聞こうとすると、じいやの憎しみのこもった様な声で遮られた。

「亞里亞さまは、自分の手を血で染めて・・・そしてその所為で・・・覚めない眠りについてしまった」

じいやの淡々とした声が、白雪に耐え難い恐怖を与えた。
白雪は、その恐怖の余り何も喋れなくなってしまっていた。

「衛さまだけではありません。 貴女にも責任があるのです・・・」

だんだんと目が慣れてきて、まわりが見えるようになってきた。
そこにいたじいやは、冷たい瞳で白雪を見下ろしていた。

「貴女は・・・悪い子です。 悪い子にはお仕置きしなくては・・・」

慣れてきた目で辺りを見回すと白雪は自分の置かれている状況を理解した。

「貴女も・・・亞里亞さまと同じ様にして差し上げます・・・」

恐ろしく冷たい声だった。
























Chapter 5


自分の家に帰るために亞里亞は駅に来ていた。
彼女は、いつも車で送り迎えをして貰っているのだが、この日は一人で行きたいと言った。
理由は少し前に白雪との約束。
その約束とは、白雪の家にひとりで来る事ができれば、そのご褒美として白雪がお菓子を作ってあげる、と言うものだった。

そうする事で大人になった自分を褒めて貰うはずだった。
そしてそのご褒美として白雪にお菓子を作って貰うはずだった。
そう思って白雪の家に一人で向かったのだった。
しかし、楽しみにしていたお菓子を食べれなくなり、亞里亞は悲しい思いをしながら自分の家に向かうのだった。
その時、

「・・・!」

一瞬、見覚えのある顔が亞里亞の視界に飛び込んだ。
そして確認するようにその方向を見ると、亞里亞はこの駅のホームに、衛が居る事に気がついた。

「衛ちゃん・・・」

衛を見た瞬間、白雪の手の事を思い出した。
楽しみにしていたお菓子が食べれなくなったのも、白雪に怪我をさせたのも全て衛の所為だ。

「衛ちゃんは・・・・・・悪い子・・・!」

そう口に出して、亞里亞は衛の方向へ思いっきり走った。

体全体を衛にぶつけ、衛をホームから突き落とした。
亞里亞の足は決して速いとは言えないかもしれないが、それは衛を突き落とすには十分な衝撃だった。
























Chapter 14


「亞里亞ちゃんと・・・同じ・・・?」

白雪の顔が恐怖に青ざめた。

「い、嫌・・・」

搾り出すようにやっと出せた言葉はそれだった。
同時に白雪の耳に遠くから電車が近づいてくる音が聞こえた。

「た、たすけて! いやぁ! いやですのっ!」

白雪の悲痛の叫びを、まるで耳に入っていないかのように
じいやは白雪の方を見ずに、だんだんと遠ざかっていった。












Chapter 8


出来事は一瞬だった。
だが、今、目の前で起きた事を亞里亞はしっかりと見ていた。
見てしまっていた。

衛が、たった今自分が線路に突き落とした少女が、
猛スピードでやって来た電車に跳ね飛ばされ・・・バラバラになる瞬間を。

「あ、亞里亞は・・・・・・そんな・・・」

そこまでするつもりは無かった。
ただ、白雪と同じ様に高い所から下に落ちて、同じ様に痛い目を見てくれれば、それで十分だった。

「まも・・・る、ちゃ・・・」

名前を呼ばれた少女は虚ろな瞳で亞里亞を見ていた。
首から下がなくなった、頭だけの状態で。

「・・・ひ・・・っ・・・」

恐怖でそんな声を漏らす亞里亞。
衛はいまだ虚ろな瞳で亞里亞を見続けていた。

「ありあの・・・せい・・・・・・ありあの・・・」

少女は自分のやってしまった事の重さにその心を押し潰されていた。

「ありあはわるいこなの・・・」

うわごとの様にそう言いながら後ずさる。
反対車線からガタンゴトンと電車が来る音が聞こえた。

「わるいこにはおしおきなの・・・」

少女の体が宙に舞った。
激しい轟音と共に電車と線路が反対車線と同じ様に紅く染まった。












Chapter 15

白雪の体が光に包まれた、同時に激しいブレーキ音が鳴る。

「いやあああぁぁあぁぁああ―――」

電車のブレーキ音にかき消され、ほとんど聞き取る事ができない白雪の言葉が途絶えた。
同時に激しい轟音が辺りに響いた。
辺りが紅く染まった。
























Chapter 9


二人の少女が同じ場所で、同じ様に電車に跳ねられ、バラバラになって、死んだ。

その場にはひとりの女がいた。
女はある邸に仕えていた。
そしてその邸の一人の少女に仕え、尽くしていた。

この可愛らしい少女に、立派な大人になって欲しい、そう思ったからこそ厳しくした。
それも全て少女のためだった。

だけど少女の事を何よりも優先して考えていた。
今日もその少女が心配で、少女に見つからないようにこっそりと少女の様子を見守っていた。



その少女が目の前でバラバラに砕けた。



女は、自分の仕えていた少女を見下ろした。
そしてバラバラになった少女の、胴体から切り離された頭を持って、どこかに消えた。
その時、その事に誰も気がつかなかった。

女は、その瞬間から悲しみと憎悪の塊と化した。
























Chapter 17


そこには女が居た。

女はある邸に仕えていた。
そしてその邸の一人の少女に仕え、尽くしていた。

女は知っていた。
少女への想いがいつの間にか禁忌へと変わっていた事を。
少女に抱いてはいけない感情を抱いてしまった事を。

女はその少女を愛してしまっていた。



そこには女が居た。
目の前で愛した人間を失った一人の女が。
冷たくなった少女の首から上だけを大事に抱き締める、心の壊れた一人の女が・・・。


あとがき

やべぇッ!! この上なく失敗した!!
・・・いきなり失礼しましたが心底そう思います・・・(汗)
・・・タイトルも適当につけたものだし・・・。
このSSは、桜館さんと『同じ題材を違う人が違うキャラで書いてみよう企画』で、テーマは『復讐』という事で作ってみました。
しかも今回はなりゅー初の三人称でやってみました。
内容からその方が都合が良かったので。
その内容ですが・・・見ての通り順番がバラバラですね。
これは、時間的に最初の方の事柄を後に、最後の方の事柄を先に持っていきたいな、って思ったところがありまして。
「じゃあ、いっその事時間を滅茶苦茶にしよう」とトンデモナイものの考えでやってみたら、思いっきり失敗した気がします。
一旦全部作った後、順番を入れ換えてみたんですが、これがまた予想していたものよりも大変で大変で・・・。
・・・そこまで苦労した割にこの上なく失敗したと思う作品です・・・(鬱)
多分、普通の順番で読んでみようって人、居ると思います。(だってなりゅーもそうするから)
なので普通の順番にしたものをここから見れる様にしておきました。
最後に、あにぃ、にいさま、兄や、兄やさまの方々、ごめんなさい・・・。


更新履歴

H15・9/29:完成
H15・10/1:脱字修正


 

SSメニュートップページ

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送