もうすぐ9月23日……。


「ウフフフフ……」


 その日は特別な日……

 そう!


「私の愛する可憐の誕生日ッ!!」


 この一大イベントを機に私と可憐の距離を一気に縮め、あわよくば可憐ちゃんの恋人と言う栄冠を……。


「よっしゃぁぁーーーっ!! 気合入れて行くわよーーーーっ!!」


    ピンポ〜ン


「って、なによ!? 人が折角気合入れてるってのに……!」


 そうぶつぶつ文句を言いながらインターホンの前まで歩いていく。
 家のインターホンはカメラが付いてるから、それで誰が来たのかすぐに分かるようになっている。
 そしてそのカメラには鈴凛ちゃんの姿が写っていた。


「……? 鈴凛ちゃんが……なんでうちに?」


 そう疑問に思いながらもインターホンの受話器を取る。


「鈴凛ちゃん、どうしたの? なんか用でも……」

『あ、咲耶様』


 咲耶……"様"?


「ってメカ鈴凛ちゃん!?」











 

ライバルは機械な妹













「すみません、咲耶様。突然お邪魔してしまって」

「そんな、別に気にしていないわ」


 頭を下げて、ぺこりとお辞儀をするメカ鈴凛ちゃん。
 トレードマークの頭の赤い玉が揺れていた。

 メカ鈴凛ちゃんは鈴凛ちゃんが鈴凛ちゃん自身をモデルして作った鈴凛ちゃんそっくりの機械。
 機械といってもその完成度は高く、ほとんど人間と変わらないようにも思える。
 ただ、作った鈴凛ちゃんから見てみればまだまだらしいけど、私はそういうことに詳しくないのでよく分からない。
 鈴凛ちゃんとメカ鈴凛ちゃんの見た目の違いは全くと言っていいほど無い。
 ただ、メカ鈴凛ちゃんの方は頭に丸い玉がついている。
 だからそれで見分ける事ができる。
 さっきはその頭の赤い玉がカメラの写せていた範囲より上にあったため、鈴凛ちゃんかと思ってしまったのだ。


「どうしたの? ひとりで来るなんて珍しいじゃない」


 珍しい、と言うより初めてかもしれない。


「で、なにか私に用かしら」


 見た目も声も鈴凛ちゃんなのに、しゃべり方は本物とは正反対に丁寧で機械的。
 だから少し違和感を感じるけど……まあ、例え機械でもこの子は私の妹に違いはないわ。


「はい、実は相談したい事がありまして」

「相談?」


 機械な妹からの相談。
 一体どんなものかと内心ワクワクしていたが……


「もうすぐ可憐様の誕生日、と言うのは知っていますよね」

「……え? え、ええ……」

「実は、可憐様の為に何かお祝いをしたいと考えて―――」

「えええええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーッッ!!」

「何故そんなに驚くのですか?」


 それは、私にとって非常に好ましくない相談だった……。


「それで一体何をして差し上げたら良いのかと……」

「何もしない、それが一番よ!」

「それでは答えに……」

「っていうか寧ろなんもすんなっ!!」

「何故命令形なのですか?」


 それは当然、私と可憐の二人っきりのバースデーパーティーをこんな機械人形に邪魔される訳にはいかないからよッ!!


「咲耶様、何故そのような事を仰るのですか?」

「なんでって、そりゃあ……」

「私は咲耶様が、例え一緒に住んでいないとはいえ、
 近親者であり同性である可憐様を恋愛対象として愛していらっしゃる異常者であると言う事は、既に存じており―――」


    ズガンッ


「そういう言い方止めなさい!」


 思わずテーブルの上に置いてあった灰皿をメカ鈴凛ちゃんに投げてしまった。


「……痛いです」


 そうは言ってるがメカ鈴凛ちゃんの顔は平然としていて、いつもの表情ままである。


「ほんとに痛いの?」


 だから思わずそう聞いてしまった。
 ……って、そういえば鈴凛ちゃんが、メカ鈴凛ちゃんにはまだ表情を変える機能がないって言っていたっけ……。
 じゃあ表情が変わらないのはしょうがないってことなんだろうけど……。


「まあ、"痛い"と言っても実際には私には痛覚と言うものは存在しておりません。
 "痛み"と言うものは、身体における異常の在る箇所を感覚として知覚できれば十分なので、
 私にとっての痛みとはセンサーで認識した程度の―――」

「あー、そんな難しい事私に言わないで!」


 一応学校の成績はいい方だけど難しい話は苦手だ。
 とにかく痛い訳じゃなさそうだ。……じゃあもっとドツいたろか?


「とにかく、咲耶様がそういう異常な恋愛基準である事は重々承知の上なので、」

「喧嘩売ってんのか?」


 メカ鈴凛ちゃんが喋ってる最中に割り込んで言った。


「可能ならば可憐様と二人きりで過ごしたいと言う気持ちは分かります」


 無視すんな!


「ですが、姉妹の誕生日ならば祝うのが普通であると思うのです」

「……そりゃ普通の家庭ならそうかもしれないけど……」


 確かにメカ鈴凛ちゃんの言う事は一理ある。
 普通の家庭ならば……


「確かに、姉妹が全部で12人居て、それぞれが別々の家に住んでいるなんて特殊以外のなにものでもないですからね」

「ま、まあね……」


 それは私の所為じゃない。


「それに咲耶様の場合はなおさら特殊……というよりも異質……」

「だ・ま・れッ!」






「でもねぇ……。ほら、今年の4月4日と7月9日、その日みたいに……」

「……その日が……どうかしたのですか?」

「……え? 今年の4月4日と7月9日の事知らないの?」

「……? 存じません」

 どうやら本当に知らないみたいだ。
 その日は、メカ鈴凛ちゃん……というよりも、マスターである鈴凛ちゃんにとって非常に重要な日だったと言うのに。


「4月4日は鞠絵様の、7月9日はマスターの、それぞれの誕生日と記録されていますが……それがなにか?」

「なにか、って……思いっきりその事に関係してるんだって」

「私はその日、メンテナンスの為に機能を停止していました。ですから、その日の事は何も存じません」

「…………」


 それを聞いた私は一瞬言葉を失い、内心ちょっと笑ってしまった。
 ただ、笑ったのは目の前にいるメカ鈴凛ちゃんではなく、彼女の創作者である鈴凛ちゃんを。


「どうかなされましたか?」

「いえ、なんでも……。……それよりメカ鈴凛ちゃんは二人の事……」

「それは存じております。
 マスターも咲耶様同様、近親者であり同性である鞠絵様を恋愛対象として愛していらっしゃると言う、
 れっきとした異常者である事は―――」

「なに陰でアタシの悪口言っているのよ!」


 メカ鈴凛ちゃんの言葉を遮るように、全く同じ声で人間的な喋り方をする言葉が玄関の方から聞こえてきた。
 声の聞こえた方向をメカ鈴凛ちゃんと同時に振り向いた。


「鈴凛ちゃん」「マスター」


 そしてそこにいる人物を確認するなり同時に声を上げた。


「まったく……なんでアンタは咲耶ちゃんの家に来てる訳?」

「なんでアンタは家のチャイムを鳴らさない訳?」












「で、鈴凛ちゃんはなんでうちに?」


 鈴凛ちゃんを部屋に招待して(と言うか勝手に入ってきた)、家に来た理由を聞いた。


「書置きがあったの」

「書置き?」

「うん。はい、これ」


 そう言って一枚の紙切れを渡される。
 その紙には、掻い摘んでいえば、パソコンで印刷された様な文字で何か書かれていて、
 そこには私の家に可憐ちゃんの誕生日の事について相談しに行く、と言うような事が書かれていた。


「まったく……なんでアンタは咲耶ちゃんの家に……」


 鈴凛ちゃんは手を腰に当て、呆れたように自分と同じ顔のメカ鈴凛ちゃんに質問した。


「その紙に書き残した通り、可憐様の誕生日のお祝いについてご相談に……」

「でも何でよりによって咲耶ちゃんなのよ? ……はぁ、やっぱりそういうところがまだまだなのね」


 何が"よりによって"かは知らないけど、鈴凛ちゃんはメカ鈴凛ちゃんを見てため息を吐いた。
 やっぱり鈴凛ちゃんから見たらメカ鈴凛ちゃんは完全じゃないのね……。


「それより、鈴凛ちゃん……聞いたわよ」


 今度は私が微かに笑いながら鈴凛ちゃんに質問した。


「ん? 何を?」

「今年の4月4日と7月9日、メカ鈴凛ちゃんをメンテとか言って機能停止にしてたって?」

「えッ!? い、いや、その……あは、あははは……」


 鈴凛ちゃんは私の質問に苦笑で返す。


「そんな手を使ってまで鞠絵ちゃんと二人っきりのバースデーにしたかった訳ぇ?」

「だ、だってメカ鈴凛って融通きかないから……」

「『二人っきりのバースデー』?」


 メカ鈴凛ちゃんがそこの部分を疑問に思うように強調して言った。
 やっぱり、鈴凛ちゃんはその事については話していなんだろう。


「マスター……それは一体どう言う事でしょうか?」

「そうよ、メカ鈴凛ちゃんにきちんと説明してげるべきよ」


 鈴凛ちゃんは、あはは、と苦笑した後、ため息を吐いて説明を始めた。


「つまりね……アタシ達は12人姉妹でしょ?」

「はい」

「って事は、自分以外の誕生日を全部祝うとなると……プレゼント代がバカにならない訳よ」

「マスターは常に金欠病ですけどね」

「うるさい!」


 ……同じ顔で同じ声の二人の漫才が始まった。
 なんとも不思議な光景だ……。


「それに、鞠絵ちゃんは体調の所為もあって全部に出席するのは結構無理があるでしょ?」

「確かに、マスターの愛しの鞠絵様に何かあったら大変ですからね」

「冷やかしか?」


 冷やかされるだけ恵まれてんだぞ、コルァ!
 ああ……私も可憐ちゃん関係で冷やかされたい……。


「それで、なるべくみんな、誕生日は祝わない様にしてるの。
 それぞれの家庭で祝うからとか、別に誕生日なんてやらなくていいとか言って自主的に辞退したりしてね」

「でもマスターは愛しの鞠絵様の誕生日は祝いましたよね」

「だから"なるべく"なのよ……。あとその"愛しの"ってつけるの止めなさい!」

「…………」


 メカ鈴凛ちゃんは多少……どころかかなり納得のいかないって感じだった。あ、もちろん前者の方にね。
 しかし、この子表情変わらないから気持ちを読み取るの難しいわ……。


「まぁ、理由はもう一つあるんだけどね……」


 納得いかないメカ鈴凛ちゃんを見てか、鈴凛ちゃんが付け足すようにそう言った。


「もう一つ?」


 そう、そのもう一つが私にとって重要なことなのだ!


「とにかく! 4月4日も7月9日も私は鈴凛ちゃんの邪魔しなかったんだから鈴凛ちゃんも9月23日は邪魔しないで!」


 私は割り込む様にそう主張した。
 なんとしても私と可憐ちゃんとの二人っきりのバースデーを邪魔される訳には行かない!
 だから多少無理矢理にでもこっちのペースで話を進めないと……!
 ……まぁ、何をするかはまだ思いついていないけど……。


「ちょっと待ってよ! これはメカ鈴凛の独断でアタシは関係ないじゃない!」


 と、主張する鈴凛ちゃん。


「メカ鈴凛ちゃんはアンタの所有物でしょ!」

「所有物って……咲耶ちゃん酷いよ! メカ鈴凛だってアタシ達の立派な姉妹だよ!」


 そう言われて、確かに酷い事を言ったかもしれない、と思った。
 でも、かかっているのが『可憐ちゃんとの二人っきりのバースデー』なんだから別に言い過ぎてないわ!


「メカ鈴凛だって……ほら、そんな事言われて泣いているじゃない……」
「……え?」


 そう言われメカ鈴凛ちゃんに視線を移した。
 私の視界に映った機械であるはずの彼女は、その目からは雫を流れ落としてた……。


    ドバドバドバドバ……


 …………まさに滝の様に……。


「って、うわぁーーーッ!! 流し過ぎだよーーー!」

「床、ちゃんと拭いとくのよ……!」












「う〜ん……どこの設定間違えたのかなぁ……」


 鈴凛ちゃんは、メカ鈴凛ちゃんの涙(?)で濡れた床を拭きながらそう呟く。


「『メカにだって涙は在るんだ作戦』、失敗ですね、マスター」


 そ、そんな作戦だったのね……。
 ……まあ、実際上手くいってたら結構心に響くかもしれないけど……、


「大方、それで小遣いでもせびろうとしたんでしょ?」


 鈴凛ちゃんの場合、使い方に問題が在るわ。


「ちょっと! アタシを金だけのヤツだと思わないでよ!」

「違うの?」

「でも、本来の使用方法はそれでしたよね、マスター」


 メカ鈴凛ちゃんのツッコミが入る。
 やっぱ金だけのヤツか……。
 鞠絵ちゃんもなんでこんなのが好きなんだか……。
 ……で、なんでこんなヤツの恋は両想いなのよ!
 私の恋は片想いだって言うのに……ッ!!


    ぽかっ


「ぃだっ!」


 思わず八つ当たりしてしまった。






「で、話は逸れたけど、私は邪魔しなかったんだから9月23日はメカ鈴凛ちゃんも邪魔しないこと! またメンテナンスでもしてて!」


 メカ鈴凛ちゃんを指差しビシィッ、っと言ってやった。


「お断りします」


 拒否された。


「鈴凛ちゃん!!」

「なんでアタシに怒るの!? アタシ、メカ鈴凛の意見はなるべく尊重したいんだけど……」

「自分の時はメンテナンスとかいって邪魔にならない様にしたくせに?」

「そ、それは……その……。……で、でも、これはメカ鈴凛が自分からしたいって言い出した事だし……。
 だ、だから学習機能の成長にひじょ〜に有効で……」


 なんだかんだ言ってるが私には言い訳にしか聞こえない。


「鈴凛ちゃん、まさか自分だけ二人っきりのらぶらぶムードでバースデーを迎えておいて私の時は邪魔する気!」

「…………」

「何とか言いなさいよ!」


 突然黙り込んだ鈴凛ちゃんに、多少怒り気味に言い放った。


「…………かった……」

「え?」

「……ふたりっきりなんか……なれなかった……」

「そんなはず……!」

「7月9日は……鞠絵ちゃんの体調不良で中止……」

「…………」


 今度は私が黙り込んでしまった。


「4月4日は……春歌ちゃんが来たの……」

「…………」


 なんにも言えなくなった。


「……二人っきりなんか……なれなかったのよ…………ぅふふふ……」

「う゛……」


 普段明るい鈴凛ちゃんがこの上なく鬱になっている……。
 聞いてはいけない事だった……。
 この様子だと、鞠絵ちゃんの誕生日の時には、かなり春歌ちゃんに邪魔されたな……。
 春歌ちゃんも鞠絵ちゃんの事好きだからなぁ……。
 春歌ちゃん、「まだハッキリとお二人が付き合ってる訳ではありませんわ!」とか言って、あの子も未練ったらしいったら……


「……あの?」

「ん?」


 私の思考を中断する様に何かを尋ねるような言葉が聞こえてきた。
 その声の聞こえた方向に居たは、メカ鈴凛ちゃんの方だった。
 鈴凛ちゃんもメカ鈴凛ちゃんも声が一緒だから一瞬どっちか分からなくなるのよね……。


「どうやらお話を聞いていると……特に好意を寄せている相手の誕生日なら参加可能、と言う事みたいですね」


 どうやらデータとして春歌ちゃんが鞠絵ちゃんの事を好きだという事も入っているようだ。


「そう、それがもう一つの理由なのよ」


 私の代わりに鈴凛ちゃんが答える。


「春歌ちゃんが邪魔しに来たのもそれが理由だし……」


 で、肩を落としながら小さな声で追加するようにそう呟く。
 なぜか私達姉妹は、全員ではないが姉妹で愛し合う傾向にある。
 なのでいつの間にかそれが暗黙の了解になっていた。
 そしてそれがもう一つの理由なのだ。
 全員が私や鈴凛ちゃんみたいに……その…姉妹にラブ、って訳じゃあないから、全員がそれを分かってる訳じゃないけど。


「そうよ、だから今回は可憐を愛している私が祝ってあげるのよ!」


 そして二人っきりのバースデーに―――


「じゃあ、私にも参加資格は在る訳ですね」

「なに言ってるの!? きちんと話聞いてなかったの?」

「聞いていました。ですからそういう結論に達しました」

「どうしてよ!?」


 どうしてメカ鈴凛ちゃんはよりによって可憐ちゃんの誕生日に限って、普通は姉妹だから祝う事だって事にこだわるの―――


「ですから、私は可憐様を愛しています」


 ……………………。


「はぁッッ!!?」


 一瞬、時が止まった。


「え? えっ!? 可憐ちゃんを……なんだって?」


 聞き違えたかと思ったので、困惑しそうになりながらも確認した。


「愛しています」


 しかし、返ってきた答えはさっきと同じ信じられない言葉だった。
 機械的な口調ではあったものの、これだけハッキリ言われたら聞き違いは無さそうだ。

 メカ鈴凛ちゃんも……可憐ちゃんが好き!?


「鈴凛ちゃん!!」

「だからなんでアタシに!?」


 とりあえず鈴凛ちゃんに怒鳴ってみたがそんな事に意味は無い。


「……なんか……そうみたいなの」


 鈴凛ちゃんも苦笑しながらそう答えてた。


「だ、だってメカ鈴凛ちゃんは……」


 "機械"なんだ。


「どうやら適当にやっていたら上手くいってたみたいで……アタシもよく分かんないんだけど……」

「て、適当にやって上手くいくモンなの!?」


 なのにその機械な妹は奇怪にも人間に恋心を抱いていると言う……。


「アタシがやった、って言うよりもメカ鈴凛自身が、なの……。アタシがやったのは学習機能の基本プログラムを組んだだけで……」


 ビックリした。


「だからメカ鈴凛自身が自分で学習して、その結果、可憐ちゃんに……って事らしくて……」


 し、しかもよりによって可憐ちゃんに……!?
 ああ……さっきの「よりによって咲耶ちゃんに」って言うのはこう言う事なのね……。


「もっとも、そのプログラムには実はバグがありまして、偶然にもそのバグのお陰でここまでのものになってしまったらしいのですが」

「偶然でもなんでも、それって凄いことじゃないの!?」

「うん、凄いことだよ。でも偶然だからアタシにもよく分かんない」


 ……本当に適当ねぇ……。


「マスター、何故私を男性として作っては下さらなかったんですか?」


 私がメカ鈴凛ちゃんの事についてビックリしつつ呆れていると、突然のメカ鈴凛ちゃんから鈴凛ちゃんへの抗議が耳に入った。


「そりゃアタシをモデルに作ったんだから……。でも、アンタも女の子として生まれたんだから、女としての人生をまっとうしなさいよ」

「マスターは女性として生まれたのに女性とお付き合いなんかして、女性としての人生をまっとうしてませんよ」

「い、いいでしょ、別に!! あ、アタシの人生……なん…だから……」


 鈴凛ちゃんはかなり恥ずかしいのか、顔を赤くしながらだんだんとしぼむ様な声で返す。


「如何してマスターは男性として生まれなかったんでしょうか?」

「それ言わないでよ……、アタシだってそう思ってるんだから……」

「鞠絵様絡みですか?」

「ええ、そうよっ! 鞠絵ちゃんがらみよっ!!」


 そして更に赤くしながら半ばヤケクソに怒鳴る。


「まあ、男性として生まれたとしても、鞠絵様とは近親なので結局結ばれませんけどね」

「じゃあ結局女でも一緒じゃないのっ! だったら別にいいでしょっ!!」


 ああ、とうとう開き直っちゃった……。


「マスター……」

「なによ!?」

「カルシウム分が不足している様で……」

解体バラすわよ!!」

「……失礼しました」


 鈴凛ちゃんは強硬手段でメカ鈴凛ちゃんを黙らせた。


「にしてもよ、メカ鈴凛ちゃんは鈴凛ちゃんをモデルに作ったんでしょ? じゃあ、なんて鞠絵ちゃんじゃなくて可憐ちゃんなわけ!?」

「私は確かにマスターをモデルとして作られていますが、あくまでも、私とマスターは別の存在であり―――」

「あー、なんかまた難しくなりそうだから鈴凛ちゃん答えて」


 頭を抱えながらそういう。


「要するに、双子の兄弟が同じ人生を辿る訳じゃない、って事」


 ……分かったような、分からんような……。


「でも、咲耶様に比べれば私の方が数段相応しいと思いますけど」

「ちょっ……ど、どこがよっ!? 機械人形の癖に生意気言うんじゃないわよっ!!」

「そうですね……」

「……え?」


 てっきり、いつものように淡々とした口調で返してくるものと思っていたのに、
 実際に返ってきたメカ鈴凛ちゃんの言葉は、なんだかとても寂さを含んだものに感じた。
 鈴凛ちゃんも、「咲耶ちゃん!」なんて、何かを注意するように私の名前を言っていた。


「私は……ただの『機械人形』です……」


 口調は依然変わってはいない、でも……なんとなく……。
 しまった、失言だった……。
 この子だって……きちんと生きてるんだ……。
 だからその事は凄く気にして……


「だから新しく作られた男性型のボディに記憶を移せばめでたく可憐様と―――」

「オイっ!」


 一瞬コケそうになった。っていうか鈴凛ちゃんはコケた。

 機械だからそういう精神的な攻撃は効かないの?
 さすが鈴凛ちゃんをモデルにしてるだけあってこう言う所は図太いって事?
 ああ、なんか感傷的になった自分がバカみたいだわ……。






「じゃあ聞くけど……メカ鈴凛ちゃんは私が可憐を好きだって事、知ってるんでしょ?」

「はい」

「じゃあなんで可憐ちゃんの事について私に相談しに来た訳よ? 私とメカ鈴凛ちゃんは言っちゃえばライバルなのよ。
 私自身が可憐ちゃんと結ばれたいと思っているのに、わざわざ可憐ちゃんを別の誰かとくっつける様な真似、すると思う?」


 私の質問にメカ鈴凛ちゃんはこう答えた。


「……思いません」


 そして一拍置いた後、静かにこう続ける。


「ですが……それが一番有効な方法だと判断致しました」

「……え?」

「咲耶様が最も可憐様の事について考え、そして可憐様の事を理解している。
 そう判断したからこそ、助言を承りたくここまで参りました。私では……可憐様の事について上手く考える事ができないので……」

「……? それってどう言う事……?」

「可憐様をどうの様にすれば喜ばす事が出来るか、そう考えただけでも……1だけで十分な事の筈なのに10も20も考えてしまうんです……」

「……!」


 メカ鈴凛ちゃんの言葉に私は驚きを感じた。


「失敗しない様に最善の方法を考えようとするのですが……どうしてもそれが見つからないんです。
 ほんのわずかな確率でも……失敗の可能性があるのなら……、
 その……人間で言う所の……『怖い』……その感情が働いて、何もできなくなるんです……」


 言葉を紡ぐ無表情なはずのこの子の顔は、不思議と照れているような姿で私の目に映っていた。


「いつの頃からか……ただ話をしているだけでも……他の人間よりも多くの情報を手に入れようとして。
 無駄な情報ばかりインプットして……結局、記憶容量を超えて肝心な事は分からなくて……。
 しかも、様々な情報がもつれて……なにも分からなく……いえ、寧ろ会う度に分からなくなっていくのです……。
 今ではもう……何が何処まで正しいのか……無駄な情報ばかりがメモリを埋め尽くしてしまって……全く分からないのです……」


 そして、その一言一言が、私にも覚えがあるものばかりだった。


「……なんだ……アンタもきちんと恋してるんじゃないの……」


 だから……思わず口からそうこぼれた。


「……え?」

「そういうもんよ……どうしていいかの分からなくなる。私だってそうなのよ……」

「そう……なのですか?」

「そうよ……。可憐ちゃんの事、いつも考えているのに……肝心なところで失敗してるし……」

「でも、咲耶様はいつも積極的にアプローチなさって……」

「可憐ちゃんの事は分かってるつもりだけど……でも合っているって自信は持てていないの……。
 特に恋愛では……ね。だからいつも……ある一線からは越えれないのよ……」


 傷つくのを恐れ、なにもできなくなる。
 会って、もっと知ろうとしても、結局なんにも分からないまま。
 余計なことばかり考えて……頭の中がグシャグシャになる。


「……じゃなきゃ、もう告白して付き合ってるかフラれてるかしてるわ……」


 だから私は強気でいたかった。
 自分は彼女の事を分かってるんだ、って。
 まるで自分に言い聞かすように……。
 でも……心の中では……


「私も……あなたと同じよ……。あなたの気持ちは、痛いほど分かるわ……」


 結局、私もメカ鈴凛ちゃんと同じ……。












 鈴凛ちゃん……どこが完成までまだまだなのよ?
 この子はもう立派な"人間"じゃない。






 ―――もう……立派に恋をしてるんだから……。












「今回だけ……だからね」


 大きくため息を吐いてから、そう一言口にした。


「……! それでは……」

「一緒に可憐ちゃんに最高のバースデーをプレゼントしましょ!」

「咲耶様……。ありがとうございます」


 それに……大切な"妹"の恋だもの……。
 一回くらいは応援してあげなきゃ。
 でも次からは"ライバル"の恋だから……もう協力しないからね。


「でも今言ったみたいに具体的に何していいか私も……」


 そこまで言って、ある事を思い出し視線を鈴凛ちゃんに移した。


「……へ? ちょっ……な、なんでふたりしてアタシを見るの!?」


 メカ鈴凛ちゃんも同じ考えに行きついたのか鈴凛ちゃんの方を見ていた。


「やっぱこういう時は……」

「……ですね」


 そしてメカ鈴凛ちゃんと口を揃えて、


「「経験者に聞くのが一番」」

「ええええぇぇっっ!!」


 突然話を振られたことに、驚きを隠せない鈴凛ちゃん。
 でも、そんなのこっちは知ったこっちゃない。


「さあ、白状しなさい! 一体鞠絵ちゃんになにプレゼントしたの!?」

「答えてください、マスター」

「そ、そんなの言える訳ないじゃない! は、恥ずかしいっ……」


 言えない事……?
 恥ずかしい事……?

 ……!!


「ま、まさか……もう……」

「え?」

「既にそこまで行われていたのですね……」

「え? え!? ちょ、二人ともなに考えて……?」

「ですから、マスターは、鞠絵様の誕生日プレゼントに自分の体を―――」

「待って待って待ってそこまでやってない! キスだけだって!」

「「キス?」」

「あ゛」


 鈴凛ちゃんはうっかり口を滑らせ、しまったと言うような表情をしてた。


「いや……その……アタシ、ちょっとした小型のメカ……っていうかオモチャをプレゼントしたんだけど……
 は、春歌ちゃんが乱入してきて……それでその……すごっく素敵な手作り和服なんかプレゼントしたり……。
 お料理も……おいしいものいっぱい作ったりって……アタシよりも断然凄い事しちゃったから……それでアタシ落ち込んじゃって……。
 そしたらその……鞠絵ちゃんが『鈴凛ちゃんからはどうしても欲しいものがあるんです』って……そのまま…………され、ちゃっ…た……」


 真っ赤に照れながら、途切れ途切れに事の次第を説明する。
 ……う、羨ましい展開だわ……。
 しかし、鞠絵ちゃんからの要求か…………こりゃ春歌ちゃんの失恋は決定的ね……。


「でも、キスなんて……そんな事、まだ私ができる訳ないじゃないの……」

「ええ、必要最低条件としては可憐様が愛してくれていないと喜ばせることは不可能ですから……」


 私は可憐と付き合ってる訳じゃない、それどころか私を好きになってくれるかも……ううん、これから私を好きにさせるのよ!
 ……でも、どっちにしろ今は無理ね……。


「ったく、参考にならないわね……」

「その通りです」

「ちょっと! じゃあアタシはただ恥ずかしい思いしただけなの!?」

「役に立たないアンタが悪い!」

「酷ッ!!」


 指をビシッと突き出して、鈴凛ちゃんに言い放つ。
 まったく、そんなノロケ話なら聞いて逆に損したわ!


「もっとも、咲耶様の場合"まだ"と言うより"一生"できる訳ありませんけどね」

「な、なぁんですってぇーーッ!?」

「だって可憐様は最終的に私を……」

「機械人形のくせになに寝言抜かしてるのよ!?」

「同性に恋愛感情を抱く人間の方が異常ですよ」

「アンタだって似たようなモンでしょッ!?」

「私の場合間違って女性型として生まれてきただけです。それに私には性別なんて関係ありませんから」

「女性として生まれたんなら女性として育つのが普通でしょッ!?」

「では、正真正銘の女性として生まれた咲耶様はやはり変態という事に……」

「黙れ機械人形」

「それはこっちの台詞です、変質者」

すわよ」

「いもむしにしますよ」

「……ふたりで最高のバースデーをプレゼントするんじゃなかったの?」












 ……そして、多少の(?)言い争いがあったものの、私達はとうとう可憐ちゃんの誕生日を迎えた。


「……もうすぐ着くわね」


 私達は今、バスに乗って可憐ちゃんの家に向かっている。
 結局、私達はプレゼントはそれぞれ用意する事にして、二人で協力して素敵なパーティーを開いてあげると言う事にした。
 メカ鈴凛ちゃんが何を用意したかは知らないけど、私は香水をプレゼントしようと思う。

 また、パーティー会場は主役である可憐ちゃんの家。
 私の家にするか鈴凛ちゃんの家にするかでもめたけど、
 鈴凛ちゃんが「いっそ可憐ちゃんの家にしたら?」と言ったら二人してそれに賛成してしまった。
 だって可憐ちゃんの家に行きたかったんだもん!

 まぁ、場所が場所なので可憐ちゃんにはあらかじめ事情を話してある。
 私達が可憐ちゃんの家に到着すると、可憐ちゃんには1、2時間程出掛けて貰い、その間にパーティーの準備を終えてしまおうと言う予定だ。


「いい? 協同戦線は今回だけだからね」


 バスの中で念を押すように隣の座席に座っているメカ鈴凛ちゃんにそう言った。


「分かってます」

「今日が終わったら……メカ鈴凛ちゃんとはもうライバルなんだから」

「返り討ちにします」

「なッ!」


 強気な反論にちょっとムッとした、けど……


「でも……ありがとうございます……」

「……え?」

「私を……認めてくださって……」


 それは彼女の人間らしい一面。


「何言ってるのよ……。アンタだって、私の大切な妹なんだから……」

「咲耶様……」

「ふたりで、最高のパーティーにしましょう……」

「はい!」


 この時だけは、いつものメカ鈴凛ちゃんの無機質で機械的な話し方とは違い、
 本当に感情のこもった声をして返事を返してくれた…………ような気がした。

 私から見たら、やっぱりこの子はもう人間ね。

 なんて考えてると、バスは可憐ちゃんの家の近くのバス停に到着したのだった。












 私達が可憐ちゃんの家に到着すると、予定通りに準備を終えて、


「咲耶ちゃん、メカ鈴凛ちゃん、今日は可憐のために素敵なパーティーをご用意してくれて、どうもありがとう!」


 私達"姉妹"の主催する可憐ちゃんのバースデーパーティーが始まったのだった。
























「……それと、千影ちゃんと雛子ちゃん、亞里亞ちゃんも、わざわざ可憐のお祝いに来てくれてありがとう」

「亞里亞……可憐ちゃんにおめでとう言いに来たの……」

「くししし……ヒナもだよ


「今日は…………特別な日、だからね…………」

「「…………」」


 ……招かれざる客を3名ほど迎えて。


「でも咲耶ちゃんも、メカ鈴凛ちゃんも、可憐ちゃんにパーティーを開いてあげるなんてすごいね


「咲耶君はともかく…………メカ鈴凛くんがそんな事するなんて…………意外だったよ」

「亞里亞……可憐ちゃんにおめでとう言いに来たの……」

「うふふっ……さぁ、どうせだったらみんなで楽しもう。
 可憐、そういうバースデーパーティーの方が好きだから。
 いいよね咲耶ちゃん、メカ鈴凛ちゃん」

「……え、ええ」

「可憐様がさえ良いのなら……」


 可憐ちゃんはどうやら私の気持ちどころか他の4人の気持ちにも気づいていないようだった。
 もっとも、雛子ちゃん、亞里亞ちゃんは微妙だけど……。


「……メカ鈴凛ちゃん」

「なんですか? 咲耶様……」

「協同戦線、今日までって言うの……あれ、延ばしちゃダメ?」

「奇遇ですね……私も同じ様な結論に達しています」

「まずはこの3人を何とかしましょう」

「了解しました」


 ……どうやら、この子がライバルになるのは少し先の話になりそうだ……。








あとがき

誕生日の当人より相手の方が主人公になるなりゅーのひねくれBDSS可憐編。
これはやり過ぎたくらい可憐がないがしろになりました。
お兄ちゃんの方々ごめんなさい(汗
まぁ、『あまいゆうわく』も似たような感じでしたので許してください(っていうかそっちの方が酷かった?
あと、欲望の赴くままに"まりりん"要素まで含んでしまいました。
その上、内容も出来も結構滅茶苦茶ですね……。
なりゅーのSSをきちんと全部読んでくれてるような、なんともありがたい人にはもうバレたかもしれませんけど(っていうか隠してませんけど)、
なりゅーの中ではメカ鈴凛は可憐とのカップリングが主となります。
どうしてそんな風になってしまったんでしょうね?(←聞くな!


更新履歴

H15・9/23:完成
H15・9/24:誤字脱字修正
H15・11/6:修正
H16・9/25:全体的に大幅修正
H17・6/26:書式等修正


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