その日、私はある人物に呼び出され、
 馴染みの喫茶店でその人物を待っていました。

 お店の中をぐるりと見回してみると、
 お店の中はほとんどお客さんが居ない為ガランとしている。

 私がここに来てから三十分以上も待っているけど
 私を呼び出した人は一向に来る気配はありませんでした。
 それもそのはず、私は約束の時間の一時間前からここに居るんだから。

 そんなに早く来たのはその人物と会うのがとても楽しみだったから。
 その人は私のクラスメート、そして私にとっての憧れの人。
 だから待っている時間も私にとっては楽しみな……

「小森さん!?」
「……え!?」

 ビックリした。
 その人が目の前に居たから。
 時計に目をやると時間までまだ三十分弱もある。
 一瞬待ち合わせの時間を間違えたかとも思った。

「え? なんでもう来てるの?
 あれ? もしかしてアタシ時間伝え間違えた?」
「違うんです 。私、約束の時間の一時間前からここに居たから……
 そう言うお姉さまこそなんで……?」
「…………」
「お姉さま?」
「その“お姉さま”って言うのは…………」

 私はこの人の事を“お姉さま”と呼んでいる。
 でも妹と言う訳ではない。

「……いや、もうどうでもいいや……」

 私はこの人、鈴凛と言う人物に憧れを抱いているから……。












私を変えた貴女だから















「ゴメンね、急に呼び出しちゃって」
「いえ、いいんです」
「なんかさ、落ち着かなくて……。だからお店で待ってた方が気が楽な気がしたから……」

 お姉さまは私に早く来た理由を話してくれた。

「小森さんは?」
「それは……」

 私は一拍おいた後、お姉さまに力一杯こう言った。

「折角のお姉さまのお誘いですもの!」

 これは私にとっては十分過ぎるほどの理由だ!

「それにデートって言うのは待っている時間も……」
「あ、いや……も、もういいから……」

 なぜかお姉さまは困り気味に私の話を中断させた。






「それで聞きたい事と言うのは?」

 私がそう聞くとお姉さまは窓の方を向いて黙ってしまった。
 そして場には少しの間沈黙が訪れる。

「お姉……」
「……どうしてアタシにあんな事言ったの?」

 心配になってお姉さまに呼び掛けようとした時、
 お姉さまの口からそんな言葉が出た。

「あんな……事?」
「『私のお姉さまになってください』って……」






 少し前までお姉さまとは特に深く接してはいなかった。
 ただのクラスメート、それだけの関係だった。

 でもある日、私はこの人にこう言った、「私のお姉さまになってください」と。
 この言葉に私の気持ちを全て込めた。
 今までの憧れていた気持ちを、尊敬していた気持ちを、
 それらの想いを込めてお姉さまにぶつけた。

 そのお陰で私はお姉さまに近づく事ができた。
 そしてその日から私はこの人の事を“お姉さま”と呼んでいる。






「そう言う事言うってのは……その……普通じゃ……無いよ……ね」

 お姉さまは少し言葉に詰まりながら話し始めた。
 私に聞きたい事と言うのはその事についてなんだ……。
 とても聞き難い事だ。
 だからお姉さまは慎重に言葉を選びながら話している。

「そんな事言ったらアタシに気持ち悪がられるかもしれない……
 ううん、その確率の方が圧倒的に高いのに……。
 それだけじゃない、もしアタシが言いふらしたりすれば……」

 お姉さまの言う通りだ。
 もしそうなれば私は大変な事になる。
 いや、普通はそうなる方が十分ありえる。

「なのに……なんであんな事……」

 お姉さまは私のした事に疑問を抱いている。
 それはそうだろう、だってそれは“普通”ではないから。

「お姉さま、お姉さまは私の事をどう言う風に見ているんですか?」
「え……?」

 でも私はその質問には答えずに質問で返した。

「あの、小森さ……」
「答えてください!」
「……う……」

 私はちょっと強めの口調でお姉さまの言葉を抑える。

「…………そうだなぁ……大人しそうで……物静かで清楚な子」

 結局お姉さまは先に私の質問に答えてくれた。

「引っ込み思案で、ちょっと消極的で……クラスでも一番大人しい……」
「お姉さま、“大人しい”を二回言っています」
「え? あ、ああ……ゴメン」
「いえ、謝らなくても……」

 別に悪い事を言われた訳じゃないし。

「大体は伝わりました……。
 やっぱりそう言う風に見られたんですね……」

 私は一拍おいてお姉さまにこう言う。

「……そう言う自分を変えたかったんです」
「え?」

 お姉さまは少し驚き気味にそんな声を漏らした。

「自分から何かを起こすような事を今までして来なかった……
 そんな自分を変えたかったんです」
「え! だからあんな事言ったの!?」
「はい」
「なんだ、そう言う事か」

 お姉さまは何か安心した様な顔になってそう言った。

「じゃあ、あれは自分を変える為に言った事で、
 小森さんは別にそう言う趣味って訳じゃないのね」

 ホッと一息のお姉さま。

「でも自分を変えたいならもっと他の方法で……」
「いいえ、あの気持ちは本当です」
「ぅえぇッ!!?」

 でも私はお姉さまの思い違いを正してあげた。
 お姉さまはあまりに驚いた為か
 目を丸くしてちょっとヘンな声を出してしまってました。

「私と違って積極的で、クラスでもみんなと仲良く接して行ってる。
 自分から進んで色々な事にチャレンジして、失敗なんて全然怖がらない……」

 お姉さまは将来……と言ってもそう遠くない未来にだけど……留学する事を決めている。
 いつか私に話してくれた。

「私に無いもの持っている……そんなお姉さまに……私は憧れたんです」

 留学の事を聞いた時私は思った……自分にはそんな度胸は無い……って。

「あれは私にとって自分を変える為の……、
 自分の本当の気持ちを伝える為の……、
 人生最大の挑戦だったんです……」
「小森さん……」
「それにお姉さまは言いふらしたりする様な人じゃない、
 そう確信を持っていましたから……」

 憧れてからずっと見て来たから……確信が持てた。

「……じゃあどうして? どうしてその事を伝えようとしたの……?」
「え?」
「隠していけばそのままの関係を続けていけるのに……。
 言ったらもう……元の関係には戻れないのに……」

 上手く行くにしろ失敗するにしろ状況は変わる。
 告白とはそう言うものだ。
 私の場合は上手く行った方だ。

 もっとも、“クラスメート”が“友達”になっただけだけど……。

「なのにどうして……?」

 私はお姉さまの疑問にその時自分の思っていた気持ちを正直に話した。

「伝えたかったんです……自分の本当の気持ちを……」

 私は私が貴女の事をどう思っているか知って欲しかったから……。

「どんなにひっそりと思っていても……言葉に出さなければ伝わらない。
 そんな事ができる程……人は通じ合ってはいないから……
 だから言ったんです……」

 例えおかしく思われても……自分の気持ちを伝えたかったから……。






 私は自分の気持ちを話し終えるとお姉さまの方を見た。

「小森さんは……凄いね……」

 しかし、お姉さまはなぜか俯いてしまっていた。

「お姉さま?」

 不思議に思った私はお姉さまに呼びかけてみた。

「小森さん……アタシ……」

 俯いたまま開かれたお姉さまの口から出た声は震えていた。

「小森さんの思ってる様な人間じゃないよ……」

 お姉さまの顔から雫が落ちた。
 私はそれが涙だった事に気が付く。

「アタシだって……失敗する事が怖くない訳じゃない……。
 それどころか……今、その事に凄く怯えているの……」

 お姉さまは先程とはまるで正反対に、
 まるで何かに怯える様な、そんな感じに話してました。

「小森さん……アタシって酷いヤツだよ……。
 そんな事言ってくれた小森さんに……小森さんがアタシの事どう思ってるか知っているのに……」



「――――――」



「……え?」

 その時お姉さまの口から紡がれた言葉……、
 それは意外としか言えないものだった……。

「……アハ……ハハハ……」

 お姉さまは笑った。
 でも、そんな態度とは裏腹に、その笑いからは先程から全く変わらない、
 何かに怯える様な……そんなお姉さまの心しか伝わって来ませんでした。

「こんな気持ち……どうすれば良いか分からなくて……、
 でもこんな事……誰にも相談できなくて……、とにかくどうにかしたかった……」

 お姉さまは眼から涙を流しながら震える声で話し続ける。

「それで小森さんの事思い出したの……。
 小森さんもアタシと同じだって思ったから……、
 だから話を聞けば少しは楽になれるって思って…………」

 声だけじゃない……身体まで震えさせて……。

「でもアタシに比べたら……小森さんは全然ヘンなんかじゃないよ……」

 初めて見た……
 こんなに弱々しく……まるで小動物の様に怯えるお姉さまを……



 『アタシ、自分の姉妹に恋したの……』



 さっきお姉さまの口から紡がれた言葉……
 今のお姉さまの状態はその事がウソや冗談ではないと言う何よりの証拠だ。

「アタシの場合は姉妹だよ……。
 女の子同士ってだけじゃない……血だって繋がっているんだよ……」

 いつものお姉さまとは違う……

「小森さんの気持ち知ってて……でも、それでも自分の事だけ考えて……。
 アタシ自分の事しか考えれなかった……!」

 まるで別人の様に……こんなにも怯えきって……。

「お姉……さま……」

 そんなお姉さまを見て思わず声がこぼれる……。

「アタシって……最低だよぉ……」

 お姉さまは最後に絞り出したようにそう言った……。






 私はどうすれば良い?
 お姉さまも私と“同じ”だと言っていた。
 同性にそう言う気持ちを持てると……。

 だったら私の想いが叶う可能性だってある。
 今までは半ば諦めていたこの想いが……叶うかもしれない……。

 だったら私は……






「…………お姉さま……」

 私は……―――






























    カランカラン……

 喫茶店の入り口のドアに付いているベルが鳴る。
 私とお姉さまが喫茶店から出たからだ。
 しばらく私達の間にまた沈黙が訪れた。

「…………なんで……?」

 先に口を開いたのはお姉さまだ。

「なんでアタシに……、だって小森さんにとってそれは……」
「言わないでください」
「え……」

 私はお姉さまの言葉を遮る。

「お姉さま……ありがとうございます」

 そして代わりにお礼で返した。

「……なんでお礼なんか…………アタシは何もできないのに……」
「私を変えてくれたから……。きっかけをくれたから……」
「…………」
「だから……ありがとうございます……」
「……小森さん……」

 私は変わった……変わる事ができた。
 それも全てお姉さまに出会ったから……お姉さまと出会えたから……。

「アタシからも……ありがとう……」
「え……?」
「小森さんはアタシに勇気をくれた……」
「そんな……」
「気持ちは言わなきゃ伝わらない、か……」






























「…………お姉さま……」

 私は……―――

「……勇気を出してください!」
「!」

 ―――……私はお姉さまを助けたい!

「分かっています、どんなに不安だったか、どんなに怖かったか。
 その気持ちに押し潰されそうになる事がどんなものなのか」

 自分もそうだったから……。
 いや、お姉さまの“それ”は私のよりも重い……!
 でも……

「でも、私の知っているお姉さまはそんなんじゃないです!」
「小森……さん……?」
「私と違って積極的で、自分から進んで色々な事にチャレンジして……、 失敗なんてまるで怖がらない……。
 だからそんな気持ちに負けないで!」

 私はもう一度自分の気持ちをぶつけた。

「戻ってください……!
 どんなに挫けそうになってもまた立ち上がれる

 いつものお姉さまに戻って欲しい、その一心で。

「私の憧れた……―――」



 ―――……“憧れた”?

 ―――……違う!!

 ―――“憧れた”じゃない!






「―――……私の好きになった貴女に!!」



 言った……初めて“好き”と……。

「このまま想いが伝わらなくて良いんですか!?」

 でも、言った事でお姉さまは私から離れる事になる……

「例え同性でも……私は伝わって欲しいと思った!
 知っていて欲しいって思った!」

 構わない……この人の為なら……。

「お姉さま! お姉さまはどうなんですか!?」
「…………」
「お姉さま!!」
「…………いや……」
「!」
「……知って欲しい……。
 アタシが……アタシが好きだって事…………知って欲しい……!」
「お姉さま……!」






























「……もしふられたら……どうしようか?」

 お姉さまが私の前を歩きながらそう聞いてきた。

「その時は私がいます……」
「え……?」
「私が代わりに付き合います」

 少し図々しい事を冗談めかして言った。

「小森さん……変わったね」

 お姉さま振り向いてフフッ、と笑うように私の顔を見た。

「お姉さまが変えたんです……」

 私もそれに笑い返した。

「そんなお姉さまだから……幸せになって欲しい……」
「小森さん……」

 お姉さまは一歩前に出て私に後姿を見せながらこう話し始めた。

「アタシもさ、そこまで図太い神経持ってる訳じゃないからすぐにって言うのは無理だけど……
 でも……留学前には伝える…………伝えたいの」
「お姉さま……」
「ゴメンね小森さん…………ありがとう……」
「いいんです」



 私はお姉さまをいつもの……私の好きなお姉さまに戻そうとしたけど……
 どうやら失敗してしまった様だ……。






 ……だって、お姉さまは前よりも素敵になってしまったから……。


















 お姉さまは最後にもう一度、「 ありがとう」と言ってそのまま帰って行った。

「自分からお姉さまが離れていくようにするなんて……」

 小さくなって行くお姉さまの後姿を見ながら自分のお人好しさに呆れた。

「今度は男の人を好きになれるかな……?」

 そう自分に問いかける。
 なんだか予感がしたから。
 近いうちに私が失恋するって。

「明るくて……積極的で……自分から進んで色々な事にチャレンジする……、
 そう言う人だったら別に女の人でも良いかな。
 もう、一回女の人に告白しちゃったし……」






 私が失恋する、その時は……

「お姉さま……」

 私の憧れたお姉さまはもっと素敵になってくれるのかな?

「お姉さまはいつまでも私の素敵なお姉さまです」

 きっとそうだ……そうに決まってる……。

「だからいつまでもこう呼ばせてもらいますよ…………お姉さま……」

 だからこの失恋も私には素敵な思い出になるに決まっている……。
























 しばらくして私は竜崎って言う素敵な女性に出会うんだけど……
 ……それはまた……別のお話です……。








あとがき

自分で書いといてなんだけどなんだこの話は?(汗)
「小森さんが居るのに鈴凛が姉妹相手に百合に走ったらどうなるか?」
と言う考えの基でこの話を作りました。
しかし、小森さんってのはこんなので良いのでしょうか?
なりゅーは『レースのハンカチ』を読んだ事が無いです。
だから小森さんの情報は他のサイトとかでの
SSやらプロフィールやらで集めた程度しかないのでかなり不安。(汗)
ちなみに鈴凛が好きになった姉妹は鞠(削除)……あえて決めていません。
各人好きなキャラを入れましょう 。特に鞠(削除)
しかしこのオチは一体……?
居ないと思いますけど竜崎先輩×小森さんの「別のお話」は、
書く気はありませんから期待されても困ります、しないで下さい。
まあメールがいっぱい来たら考えない事もn(削除)
関係無いけどなりゅーは小森さんの“さん”は絶対必要だと思っています。


更新履歴

H15・7/16:完成
H15・7/20:修正
H15・8/6:また修正
H15・12/27:脱字修正
H16・12/6:脱字他大幅修正


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