目を開けたら視界に入って来たのは見慣れた天井。
そこはわたくしがいつも使っている療養所のベッドの上でした。

「鞠絵ちゃん!」

横から普段は聞き慣れない声がわたくしの名前を呼ぶのが聞こえた。

「よかった・・・やっと目が覚めたんだ・・・」
「鈴凛ちゃん・・・」

わたくしは声の主を確認するとその名前を口にした。

「どうして・・・ここに?」

普段は居ないはずの彼女がここに居る事を疑問に思いそう尋ねる。

「だって、鞠絵ちゃんが倒れたって聞いたから・・・」

“倒れた”?
ああ、そうだった。
突然目眩がして・・・わたくしはそのまま意識を・・・

「よかった・・・目が覚めて・・・。
 鞠絵ちゃん二日間も眠り続けてたから・・・」
「えっ!? 二日!?」

鈴凛ちゃんの言葉に驚きを隠せなかった。

「あの、わたくしは二日も眠っていたんですか!?」

わたくしは目が覚めたばかりでまだだるい身体を無理矢理起こしてその事を聞きました。

「あ、無理しないで・・・」

そんなわたくしの身体を気づかって鈴凛ちゃんが言いました。
正直、身体はまだだるくて、もう一度眠りにつきたい感じだった。
でもわたくしにそんな事を気にしている余裕はなかった。
だからわたくしは起こした身体をまた横にしてもう一度聞きました。

「・・・それで二日寝てたというのは・・・本当ですか?」
「本当だよ・・・」

鈴凛ちゃんの口から出た言葉にわたくしはただ愕然とし、
ただ「そうですか」と呟くだけでした。

時計を見てみると五時半を少し過ぎたくらいの時間という事が解り、
それでわたくしはますます気を落とすのでした。

今日は大切な日だったのに・・・。

「じゃあ今日は・・・7月9日・・・なんですね・・・」
「うん・・・」

鈴凛ちゃんの・・・誕生日だったのに・・・。










間に合わなかったプレゼント












「先生がね・・・最近無理でもしてたみたいだから倒れたんじゃないかって・・・」

鈴凛ちゃんはわたくしに倒れた理由を話してくれた。

「そう・・・ですか・・・」

心当たりはある・・・。
その為に頑張っていたのに・・・その所為で結局間に合わなくなるなんて・・・

「それよりも鈴凛ちゃん」
「なに?」
「誕生日パーティーは・・・どうしたんですか?」

鈴凛ちゃんは今日、本当ならみんなに祝ってもらうはずだった。
でも鈴凛ちゃんはここに居る。
だからわたくしは疑問に思い鈴凛ちゃんにその事を聞いてみた。

「・・・中止にしてもらった・・・」
「・・・!」
「だって鞠絵ちゃんが倒れたって・・・そんな状況でパーティーなんて・・・」

確かに鈴凛ちゃんの言う通り、
身内が倒れたと聞いてそれでもパーティーをする様な人はまずいない。

「・・・すみません・・・・・・わたくしの所為で・・・」

わたくしは鈴凛ちゃんの誕生日をダメにしてしまったんだ・・・。

「気にしなくていいよ・・・」

鈴凛ちゃんはそう言ってくれました。
けど、そんな事・・・できそうにありませんでした・・・。





「・・・アタシの所為?」
「え?」

鈴凛ちゃんが不安そうな顔で聞いてきました。

「鞠絵ちゃんが倒れたの・・・」
「そんな事ありません・・・」
「ウソ・・・」

そう言うと鈴凛ちゃんはわたくしのベッドの脇にあった紙袋を持ち上げて
わたくしの目の前に出してきました。

「咲耶ちゃんから聞いた・・・って言うか口を滑らせてた・・・」

紙袋の中には細目の毛糸と編み棒、
そして編み掛けのサマーセーターが入っていました。

「これ、アタシの誕生日に間に合うようにって頑張ったから・・・
 無理したから・・・だから鞠絵ちゃん・・・」

そう、それは鈴凛ちゃんの誕生日プレゼントにと
わたくしが編んでいたサマーセーターでした。












鈴凛ちゃんの誕生日に特別な物を贈りたい、そう咲耶ちゃんに相談した所。

「手編みの物なんてどう?
 鞠絵ちゃん確かそう言うの得意だったでしょ?」
「編み物・・・ですか?」

確かに得意だった・・・と言うよりあまり動く事ができない為、
そう言う事をするしかなかったから自然と上手くなった、
と言った方が正しいかもしれない。

「でも鈴凛ちゃんの誕生日は夏ですよ?
 編み物なんて・・・」
「鞠絵ちゃんサマーセーターって知らないの?」
「あ・・・!」
「そう言うのにすれば?
 編み物なんて夏でもいっぱいあるもんよ」



咲耶ちゃんからアドバイスを受けて早速サマーセーターを編み始めた。
時間的には鈴凛ちゃんの誕生日にはそれなりに余裕で間に合うと思っていました。
でも、そう言う時に限って体調が優れなかった日が多く、
セーター作りは思う様には進みませんでした。

間に合わないかもしれない、
そう言う焦りが出てきて多少は無理をしたかもしれない。
でもセーターはあと一日あれば完成できた。
できたのに・・・。

結局無理がたかってわたくしは二日も眠ってしまった。












「すみません・・・鈴凛ちゃん。
 プレゼント・・・渡せなくなってしまいました」
「仕方ないよ・・・」

謝るわたくしに鈴凛ちゃんは仕方ないと言った。
それはわたくしは身体が弱いから・・・

「セーター・・・遅れてもアタシは全然構わないからさ」
「でも! でもわたくしは、今日・・・渡したかったんです・・・」

今日という日に。
鈴凛ちゃんの誕生日に。

「鞠絵ちゃんは・・・身体が弱いんだから・・・」
「・・・・・・」
「あんまり無理しないで」

自分の身体が弱い事は解っている。
でもその事に甘えたくは無かった・・・。

「それにさ、今日、目が覚めたじゃない!
 身体が元気になった証拠だよ!
 アタシには鞠絵ちゃんが元気な事が一番のプレゼントだよ・・・」
「・・・そう・・・ですか?」
「うん!」

鈴凛ちゃんはそう言ってくれた。
でも・・・

「わたくしは・・・そう言われるのが一番辛いです・・・」
「え・・・?」

“元気な事が一番のプレゼント”、
普通の人なら当たり前の事が贈り物として成立してしまう。
そんな自分の身体の弱さが・・・とても嫌になった。

「ゴメン・・・」

鈴凛ちゃんはそう言われるのが辛いと言ったわたくしに謝ってきました。

「謝らないでください・・・。
 わたくしがいけないんです・・・わたくしの身体が弱いから・・・」

でも、今日ほどその事が嫌になった事は無い・・・。











時計を見てみると針はもう六時少し過ぎを指していた。

この療養所は面会時間は七時まで。
だけど鈴凛ちゃんが居るのはあと三十分くらいだと思う。
この療養所には、行くにしろ来るにしろここから少し離れた所にあるバス停を使うしかない。
そしてそのバス停にはあと三十分ぐらい次のバスが着く。
しかし、もしそのバスを逃してしまえばその次のバスは一時間以上しないとやって来ない。
だから鈴凛ちゃんはあと三十分ぐらいしか居られない事になる。

「すみません・・・」

わたくしはもう一度鈴凛ちゃんに謝った。

「折角の誕生日を・・・私の所為で・・・」
「いいよ、そんな事」
「でも・・・本当ならみんなでパーティをして・・・
 みんなが鈴凛ちゃんをお祝いしてくれるはずだったのに・・・」

それがわたくしの所為で。

「・・・いいの、鞠絵ちゃんの事の方が大事だったから・・・」
「どうしてわたくしなんかの為に・・・。
 わたくしの事なんて気にしないで
 鈴凛ちゃんは鈴凛ちゃんで楽しんで欲しかった・・・。
 わたくしはその方が・・・」
「そんな事できる訳無いじゃない!!」

わたくしの言葉を遮って鈴凛ちゃんは大声でそう言った。

「アタシの誕生日なんだよ!
 アタシが楽しめなきゃダメだって言うなら・・・
 鞠絵ちゃんが居なきゃ結局ダメだよ!
 だってアタシは・・・鞠絵ちゃんに居て欲しかった・・・。
 他の誰と一緒でも・・・鞠絵ちゃんに何かあったら・・・ダメなんだよ・・・」
「鈴凛ちゃん・・・」
「鞠絵ちゃんが倒れたって聞いてアタシすごく心配した・・・、
 すごく不安だった・・・・・・、怖かった・・・」

そう話す鈴凛ちゃんの声は少し震えていました。

「アタシの為に何かしてそれで倒れたって言うならアタシはどうすれば良いの?
 アタシの所為で鞠絵ちゃんが・・・。
 アタシの為なら・・・・・・お願い・・・無理しないで・・・」

そう言い終るのと同時に鈴凛ちゃんの目から涙がこぼれ落ちて来ました。
それを見たわたくしは結局また「すみません」と謝るしかないのでした。






再び時計を見てみると鈴凛ちゃんはもうすぐここを出ないと
次のバスの時間に間に合わなくなる時間を指していました。

「もう・・・そろそろ時間ですね」

そしてもう一度「すみません」謝るのでした。
わたくしの身体が弱いばかりにプレゼントは贈れない、
そればかりか鈴凛ちゃんの誕生日パーティーまでダメにしてしまった。
わたくしは今日ほど・・・今ほど自分の身体の弱さが嫌になった事は無かった・・・。

「なにか鈴凛ちゃんにプレゼントしたかったです・・・」
「それは遅れても構わないって・・・」
「でも・・・わたくしは今日中にプレゼントしたかったんです・・・」

今日と言う日だから、誕生日という特別な日だったから・・・。
でも今日の鈴凛ちゃんとの時間もあと数分で終わる。
何かを贈りたくてもわたくしには何も無い・・・。

「・・・・・・」

「鈴凛ちゃん・・・」
「なに?」
「一つだけ・・・贈れる物が見つかりました・・・」



「・・・“恋人”・・・なんてどうです?」



何故かそんな事を言ってしまった。

「え・・・!?」

わたくしの言葉に驚きを隠せない鈴凛ちゃん。
でもわたくしは、構わずこう言葉を続けた。

「身体が弱くて・・・なにもできなくて・・・
 いつでも側に居れる訳じゃない・・・迷惑を掛ける事しかできません・・・。
 その上・・・目も悪くて・・・普段は本を読むぐらいしか楽しみが無い・・・
 しかも・・・女の子ですけど・・・」

多分わたくしはヘンな事を言っているのだろう

「けれど・・・いつも鈴凛ちゃんの事を想っています・・・。
 いつも貴女の事を・・・」

でもこの気持ちは・・・嘘じゃない・・・。

「こんな誕生日のプレゼントは・・・どうでしょうか・・・?」

わたくしはそう言いながら鈴凛ちゃんの方向を向いた。

「今のわたくしには・・・これくらいしか―――」

・・・突然、わたくしの目の前に何かが覆いかぶさってきました。

それが鈴凛ちゃんの顔だと気づくのに数秒・・・
そして・・・、何かやわらかくて温かいものがわたくしの唇に触れている事に気づくのに・・・更に数秒掛かりました。
少しして鈴凛ちゃんの顔がゆっくりを離れるのと同時にわたくしの唇に触れていた何かも離れるのが解りました。

「・・・え?」

わたくしは一体何が起こったのかよく解らずそんな声を漏らしました。

「今のが・・・アタシの返事・・・」

そして鈴凛ちゃんが顔を真っ赤にしたのを見て自分が一体何をされたのかを理解しました。

「り、鈴凛ちゃん・・・!?」

それと同時にわたくしは自分の顔も鈴凛ちゃんと同じ様に
真っ赤になっていくのが解りました。
わたくしは片手で唇を覆いながらただ鈴凛ちゃんを見つめていました。
そして、鈴凛ちゃんはわたくしから顔を逸らし、目だけをこちらに向けてました。

「わたくし・・・初めて・・・だったんですよ・・・」

わたくしは絞り出すような声でそう言いました。

「でも・・・もうアタシにプレゼントしたんじゃないの・・・?」
「そうですけど・・・」

確かに、今の事はわたくしが自分で言った様な事、だから反論はできませんでした。

でも反論はしようとしたけど嫌だった訳じゃない、突然の事で驚いたから・・・。

「鈴凛ちゃん・・・キズモノにしたんですから・・・」
「き、キズモノって・・・」
「・・・もう返品は利きませんよ」

わたくしは唇に当てていた手を一旦下ろし鈴凛ちゃんにそう話しました。

その時、わたくしは鈴凛ちゃんとは目を合わせられませんでした。
『合わさない』ではなく『合わせられない』。
だって・・・とても恥ずかしかったから・・・。

「関係無いよ・・・・・・返品する気、無いから・・・」

鈴凛ちゃんのその台詞にわたくしはただでさえ赤い顔がますます赤くなっていくのが解りました。

「それに・・・アタシだって・・・初めて・・・だったんだから・・・」

鈴凛ちゃんも恥ずかしそうにそう言うのを聞いて、
わたくしは鈴凛ちゃんの方向をもう一度向いてこう言いました。

「大丈夫です・・・わたくしも責任持って引き取りますから・・・」






『・・・“恋人”・・・なんてどうです?』

わたくしは自分がどうしてそんな事を言ったのか今解りました。

今までの鈴凛ちゃんとの会話で、
なんとなく・・・自惚れかもしれないけど・・・
鈴凛ちゃんがわたくしの事を好きでいると感じたから・・・。

だからこうすれば鈴凛ちゃんが喜んでくれると思った。
そして、わたくしも・・・そうなりたいと望んだ。

わたくしも・・・鈴凛ちゃんの事が・・好き・・だったから・・・。












「あ!」
「え! どうしたの!?」

わたくしが突然声を上げた事に鈴凛ちゃんは驚きながら何があったのかを聞いてきました。

「鈴凛ちゃん、バス・・・」
「バス? ああ・・・」

時間はもう走っても間に合わない時間を指していました。

「すみません・・・わたくしの所為でまた・・・」
「気にしないで、これは鞠絵ちゃんの所為じゃないよ。
 アタシ、始めから面会時間ギリギリまで居るつもりだったから」
「え!」
「少しでも長く・・・鞠絵ちゃんと一緒に居たかったから・・・
 だから、最初から次のには乗るつもりはなかったんだ」
「鈴凛ちゃん・・・」
「それにさ・・・折角、恋人になったんだから・・・もう少しゆっくりさせて・・・」

そう言って鈴凛ちゃんはわたくしを抱きしめてきました・・・

「り、鈴凛ちゃ・・・」

突然の事で驚きました、でもわたくしはそれが嫌じゃなかったから・・・
ううん、寧ろそうしてもらえて嬉しいから・・・
ただ黙って鈴凛ちゃんに身体を預けるのでした・・・。






鈴凛ちゃんに抱きしめられている時、
わたくしの視界に編み掛けのサマーセーターが入った紙袋が目に入りました。
誕生日プレゼントには結局間に合わなかった。
でも、そのお陰でわたくしは鈴凛ちゃんの・・・
その・・・“恋人”に・・・なってしまった・・・。

わたくしは、ふと「間に合わなくて良かった」と考え、つい笑いがこぼれてしまうのでした。


あとがき

この話はなんだか失敗した気がする鈴凛のBDSS第2弾です。
また誕生日側でない方視点の話を作ってしまった。
しかも誕生日側でない方が幸せそうな話を・・・
なりゅー初のBDSS『プレゼントの花とプレゼントの代わり』もそんな感じだった気がします。
もういっその事、今後BDSSはそう言うひねくれた作品を作り続けようかな・・・。
その前にそれまでに飽きn(削除)
とにかく、誕生日おめでとう鈴凛。



更新履歴
03年7月6日:完成
03年7月7日:修正
03年7月20日:また修正
03年8月6日:またまた修正

 

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