いつまでも幸せでいてくれ・・・。
私はそれで十分だから・・・。












ある姉妹のエピローグ














「手を組んで・・・・・・お祈りでもしているのかい?」
「あ、姉上様」
「早いものだな・・・・・・。 とうとう明日は・・・・・・君の結婚式か」
「・・・すみません」
「どうして謝るんだい・・・・・・? めでたい事だろう・・・」
「だって・・・姉上様を差し置いてわたくしの方が先に結婚してしまうから・・・」
「なんだ・・・・・・そんな事でかい? 別に私はそんな事・・・・・・気にしたりなんかしないよ・・・」
「でも・・・」
「とにかく・・・・・・お幸せに・・・」
「・・・はい・・・ありがとうございます」






「相手は・・・・・・機械工学の第一人者だったね」
「はい」
「フッ・・・・・・私とは正反対の人種だね・・・」
「確かにそうですけど・・・大丈夫ですよ」
「・・・なにがだい?」
「だからと言って姉上様の事が嫌いだと言う事ではありませんから」
「・・・・・・」
「寧ろわたくしは姉上様の事は大好きですから」
「・・・何を言いだすかと思えば・・・」
「でも、安心してくれたみたいで良かったです」
「? ・・・・・・どう言う事だい?」
「姉上様の顔・・・少し笑いがこぼれてましたから」
「!」
「うふふ・・・照れている姉上様なんて・・・わたくし、なにか珍しいものを見た様な気持ちになりました」
「・・・・・・からかわないでくれないか?」
「嫁入り前の餞別としてもらっておきますね」
「・・・まったく・・・」






「姉上様・・・」
「なんだい?」
「さっきわたくし姉上様の話してくれた事を思い出していたんです」
「君にはたくさん話をした記憶があるよ。 ・・・・・・一体どの話だい?」
「『妹を愛した姉の話』」
「・・・! ・・・・・・どうしてまた・・・?」
「解りません・・・ただなんとなく」
「嫁入り前に思い出すような話じゃないだろう?」
「ですよね・・・」
「・・・・・・」
「あの・・・よろしければもう一度話してくれますか?」
「・・・・・・嫁入り前に聞くような話じゃ・・・・・・ないだろう?」
「だったら嫁入り前の餞別として」
「それは・・・・・・さっき貰ったんじゃないのかい?」
「人生に一度だけなんですからその位のサービスはしても良いと思いますよ?」
「二度、三度と・・・・・・あるかもしれないだろう?」
「姉上様!!」
「冗談だよ・・・・・・そんなに怒らないでくれないか・・・」
「もう! ・・・それで話してくれるんですか?」
「はぁ・・・・・・仕方ないな・・・」












「・・・ある所に12人の姉妹が居た。
 ところがその中のひとり・・・、そうだな・・・仮に名前を『千影』・・・・・・としておこう。
 千影は・・・・・・自分の妹のひとりに特別な感情を抱いてしまったんだ。
 同性であり肉親である自分の妹に・・・―――」
「恋心を抱いた・・・ですよね?」
「・・・・・・その通り。 その妹の名は『鞠絵』・・・・・・としておこう」
「・・・前に話してくれた時と一緒ですね」
「千影は・・・・・・自分の気持ちが異常である事を知っていた。 そしてそれが叶わぬ願いだと言う事も・・・・・・。
 ・・・・・・だから千影は・・・―――」
「薬を使って自分の妹に自分を愛させた・・・」
「・・・・・・」
「・・・どうしたんですか?」
「君は・・・・・・この話を知っているんだろう? だったら・・・・・・別に話す必要はないと思うのだが・・・」
「わたくしは姉上様の口から聞きたいんです!」
「・・・・・・まったく・・・。 だったら・・・・・・あまり口出ししないでくれないかい?」
「・・・・・・」
「返事は・・・?」
「・・・・・・はい」






「鞠絵は体が弱かった・・・。 だから千影は・・・・・・鞠絵にはその薬は健康になる薬だと言って飲ませようとした。
 健康な身体になりたかった鞠絵は・・・・・・千影の言葉を信じ、薬を飲んだ。 それが・・・・・・一体どんな物なのかも知らずに・・・」

「千影の思惑通り・・・・・・鞠絵はだんだんと千影の事を愛し始めた・・・。
 始めは小さかったその気持ちも・・・・・・何度も薬を飲む度に蓄積されていき・・・・・・、鞠絵はとうとう・・・・・・その気持ちを抑えられなくなった。
 その時には鞠絵の身体も・・・・・・すっかり健康になっていた。 薬には・・・・・・確かに健康になる力もあったからね・・・」

「遂に愛し合うようになった千影と鞠絵は・・・・・・
 その後、自分達のその関係を続けるには家族達から離れ・・・・・・故郷を捨て・・・・・・ふたりきりで暮らすしかなくなったんだ。
 しかし、ふたりに迷いはなく・・・・・・ふたりはそれぞれ全てを捨ててでもお互いを求めた・・・・・・」

「ふたりは家族を捨て・・・・・・故郷を捨て・・・・・・ふたりだけの生活を始めた。
 ふたりは幸せだった・・・・・・お互い、相手さえ居ればそれで十分だった・・・・・・」

「しかしある日・・・・・・鞠絵が真実を知ってしまった・・・。 千影の日記を見て・・・・・・自分の想いが作り物である事を知ってしまった」

「そして・・・・・・その日から鞠絵は・・・・・・千影に激しい憎悪を抱き始めた・・・。
 自分の心を変えられてしまった事・・・・・・。
 自分からした事とは言え・・・・・・間接的に全てを奪われた事・・・・・・。
 それらの事に激しい憎悪を抱き始めた・・・」

「その日から・・・・・・鞠絵は千影を殺そうとし始めた・・・。 それ程の憎しみだった・・・・・・。
 だけど・・・・・・鞠絵にはそれが出来なかった・・・。
 彼女は千影を愛していたから・・・・・・鞠絵は千影と言う自分の姉に対し・・・・・・激しい愛情と憎悪・・・・・・この相反する感情を同時に抱いてしまった・・・・・・」

「殺したい程憎んでいるのに・・・・・・狂おしいほど愛している・・・・・・。 一体彼女は・・・・・・どんな気持ち・・・・・・だったんだろうか?」



「そして・・・・・・鞠絵はとうとう千影に対してこれ以上ない復讐を遂げた・・・。
 彼女は知っていた・・・・・・そして気づいた・・・・・・姉も自分の事をそれ程愛している事に・・・。
 だから鞠絵は・・・・・・千影の目の前で展望台から飛び降りた・・・。
 鞠絵は千影に対して・・・・・・愛する者に目の前で死なれると言う苦痛を与えると同時に・・・・・・鞠絵は千影の束縛から解放されたんだ・・・・・・」
「・・・それだけではないと思います・・・」
「・・・!」
「・・・相反するふたつの感情・・・それがもたらす苦痛からも逃れたかったとも思います・・・」
「興味深い話だね・・・・・・聞かせてくれないかい?」






「・・・愛する人を憎んでる自分が許せなかった・・・。
 それと同時に殺したいほど憎んでる相手を愛している自分が嫌になった・・・。
 日が経つにつれて大きくなる自己嫌悪・・・、狂いそうな程の精神的な苦痛・・・。
 彼女は・・・それからも逃れたかったんだと思います」
「・・・・・・なるほどね・・・」
「そしてもうひとつ・・・」
「・・・・・・?」
「自分の事を千影に忘れさせない為・・・、千影の中を自分の事でいっぱいにさせる為に・・・」
「・・・どう言う事だい?」
「目の前で死ぬ事によって自分の事をその人の中に留めて置きたかった・・・。
 常に自分の事を考える様に・・・自分の事だけを考える様に・・・。
 例えそれが・・・後悔だとしても・・・」
「何故・・・・・・そう思うんだ?」
「愛していたから・・・狂ってしまうほど・・・。 だから愛して欲しかった・・・」
「・・・・・・」
「彼女は既に狂ってしまってたんだと思います・・・」
「・・・どうして?」
「愛情と憎悪、その二つの感情を同時に抱いていたんです・・・。
 それぞれがそれぞれを大きくしていきとうとう『死』を選ぶまでに肥大した・・・」
「・・・・・・」
「大きすぎる愛は人を狂わせます・・・そして、大きすぎる憎しみも・・・」
「・・・・・・」
「すみません・・・話を止めてしまって」
「いや・・・・・・謝らなくてもいい・・・・・・。 なかなか・・・・・・面白い意見だったよ・・・」
「そうでしたか・・・? それなら良いのですが・・・。 あ、どうぞ続きを話して下さい」






「・・・愛する人に目の前で死なれた千影は絶望した・・・・・・それこそ鞠絵の思惑通りに・・・。
 千影は思った・・・・・・『君が私の全てだった、君が居なければ私は生きていけない』とね・・・。
 だから千影は・・・・・・鞠絵の後を追って自分も死のうとした・・・・・・」

「ところが・・・・・・千影は死ぬ事が怖くなったんだ・・・。
 これ以上生きている意味も無いのに・・・。
 しかし・・・・・・その時彼女はある事に気づいた」
 
「・・・その後千影の取った行動はこうだ・・・」

「千影は・・・・・・既に死んでしまった鞠絵の体を、自分の家に持ち帰った・・・。
 千影は・・・・・・死体でもいいから鞠絵を側に置いていたかったんだ。
 その時・・・・・・彼女は狂ってしまっていたんだろう・・・。
 ・・・いや・・・・・・鞠絵に薬を飲ませようとした時点で彼女は狂っていた」

「死体を自分の家に置き・・・・・・千影は、またいつも通りの生活を続けた・・・」

「しかし・・・・・・そんな事は長く続かなかった・・・」

「彼女のその行為は罪になる・・・・・・死体遺棄と言う犯罪にね・・・。
 だから・・・・・・警察が動き出した・・・」

「千影は・・・・・・鞠絵を取られたくない一心で反抗した・・・。
 結果、それを追い払う事は出来た・・・・・・。
 だが・・・・・・千影はその時深い傷を負ったんだ。
 そして・・・・・・千影はもう自分が助からない事も悟った。
 だから千影は・・・・・・自分の愛した鞠絵の元に行き・・・・・・そこで死のうと考えた・・・」

「鞠絵の元についた千影は・・・・・・鞠絵に話し始めた・・・。
 もう決して答えるはずの無い・・・・・・妹の死体に・・・」

「その時・・・・・・彼女が話してた内容は昔の事ばかりだった・・・。
 彼女は昔の事を幾つも思い出していたんだ・・・。
 走馬燈・・・・・・だったんだろう。
 そして全てが・・・・・・鞠絵との思い出だった。
 彼女と笑った時の記憶・・・・・・。
 彼女が泣いた時の記憶・・・・・・。
 彼女を怒らせてしまった時の記憶・・・・・・。
 そして・・・・・・彼女を好きになった時の記憶・・・。
 思い出す事は全て楽しかった事ばかりだった・・・・・・。
 色々な記憶が千影の脳裏に蘇った・・・・・・」

「でも・・・・・・鞠絵を手に入れてからの記憶は・・・・・・ただのひとつも思い出さなかったんだ・・・・・・」

「千影は死の直前気づいたんだ・・・。 あんな事をして手に入れても・・・・・・本当は幸せじゃない事に・・・」

「無理矢理歪めた心で・・・・・・自分一人だけに向けられる様になった鞠絵の笑顔より・・・・・・、
 自分一人だけに向けられる訳じゃなかったが・・・・・・その前の自然な鞠絵の笑顔の方が好きだった事に・・・・・・」

「薬なんかを使って愛し合うよりも・・・・・・ただの姉として見守る事を選んだ方が幸せだった事に・・・・・・」

「自分のした事を後悔しながら・・・・・・千影に最期の時が近づいてきた・・・」

「その時、彼女は思った・・・・・・いや、望んだんだ・・・・・・」

「もし生まれ変わったら・・・・・・今度は・・・ただの姉として見守らせてくれ、と・・・」

「また巡り会えるとは限らない・・・鞠絵は嫌がるかもしれない・・・。
 ・・・それでも・・・千影は望んだんだ・・・」

「もう、間違えないから・・・」

「・・・そしてそのまま彼女は息を引き取った・・・」












「・・・ありがとうございました、姉上様」
「まったく・・・・・・こんな話・・・嫁入り前に聞く事じゃないだろう・・・」
「でも・・・聞けて良かったです・・・」
「・・・そうかい? 私にはどうしてそう思うのかがよく解らないんだが・・・」
「わたくしもです・・・」






「お礼・・・と言うわけではないんですけど、さっきの事、姉上様に教えてあげますね」
「さっきの事?」
「手を組んでお祈りしてるかと聞いてきた事です。 ・・・あれ、癖なんです」
「癖?」
「はい、最初はおまじないみたいなもので小さい頃からやっていたんですけど・・・なんだかそのうち癖になってしまったんです」
「そうなのかい?」
「ええ、寂しい時や心細い時にこうすると落ち着くんです」
「・・・だが、私は君がそんな事してる所を滅多に見た事が無いんだが・・・」
「それはそうですよ。 だって姉上様が側に居たらおまじないをする理由がないんですから」
「どう言う意味だい?」
「おかしな事を言っていると思われるかもしれませんけど・・・・・・こうしてると、まるで姉上様と手を繋いでいる感じがするんです」
「!!」
「だから安心するんです・・・。 ・・・なんでそう思うのかは解らないんですけど・・・」
「・・・・・・」
「おかしいですよね?」
「・・・いや、そんな事はないさ・・・」
「そうですか?」
「ところで・・・私の代わりを務めてるのは左手の方かい?」
「え? ええ、そうですけど・・・どうして解ったんですか?」
「・・・なんとなくさ・・・・・・確立は2分の1だしね」
「そうですか・・・」






「そろそろ私は部屋に戻るよ・・・君も早く眠った方がいい・・・。 明日は折角の晴れ舞台なんだから・・・」
「あ、はい・・・そうですね」
「・・・・・・」
「では、姉上様おやすみなさい」
「・・・ちょっと・・・・・・聞かせてくれないか?」
「なんですか?」
「君は・・・あの姉妹、千影と鞠絵があの後どうなったと思う?」
「あの後・・・ですか?」
「ああ・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・多分・・・また巡り会えたと思います」
「そうか・・・。 ・・・でも、それは鞠絵にとっては悪い事じゃ・・・」
「そんな事はないと思いますよ」
「・・・!」
「だって・・・千影はもう間違える事はないんです・・・。
 それに・・・姉としてではあると思いますけど、鞠絵も彼女の事が好きだったから・・・」
「・・・・・・」
「だからまた、姉と妹として生まれ変わって・・・今度こそ幸せに暮らせたと思います。
 千影も今度こそは鞠絵を幸せにしたと・・・」
「・・・・・・そう・・・か・・・。 だったら・・・・・・もう一つ聞いてもいいかい・・・」
「なんでしょうか?」
「・・・・・・君は今・・・幸せかい?」
「はい、とても」
「そうか・・・」
「ええ、姉上様がわたくしの姉上様だったから・・・」
「!!」
「わたくしは姉上様と姉妹でいれた事を幸せだと思ってます。 だから・・・」
「・・・君は明日結婚するんだろう? 普通はその事で幸せだと言うんじゃないかい?」
「・・・ですね・・・」
「まったく・・・」
「やっぱりわたくしはおかしいんでしょうか?」
「・・・でも・・・そう言ってくれて嬉しいよ・・・」
「姉上様・・・」
「・・・・・・その言葉で君に償えたと思えるから・・・」
「え?」
「なんでもない・・・。 ・・・急にこんな事を聞いて悪かったね」
「いえ・・・」
「じゃあ・・・お休み」
「はい、おやすみなさい、姉上様」












「・・・・・・」

彼女と別れた後、私は一人さっきの彼女との会話と遠い昔の事を考えていた。

「手を組んでいると私と手を繋いでいる様な気がする・・・・・・か・・・」

遠い昔の事・・・

「左手の事は・・・・・・君に話してはいないんだがな・・・」

それは、今の私達が生まれる前の・・・

「・・・それにしても・・・・・・あの事がまさかこんな形で・・・」

前世での自分達の事・・・。



彼女にあの時の記憶は無い・・・それが普通の事だ。
それでも、また私を好きだと言ってくれた・・・。
薬なんか使わずに・・・君の本当の気持ちで・・・。
それがたまらなく嬉しい・・・。



「不思議だな・・・」

もう彼女を独占する事はない。

「明日・・・・・・君を他の人間に取られると言うのに・・・」

でも・・・あの時よりも今の方が数倍は幸せに感じている。

「それが・・・・・・嬉しく思えるなんて・・・」

多分、彼女が幸せだからだ・・・。



「私は・・・・・・今度こそは間違えなかったのかい?」

君のあの言葉が答えなんだろうか・・・?



    『姉上様がわたくしの姉上様だったから・・・』


    『わたくしは姉上様と姉妹でいれた事を幸せだと思ってます』



「やっぱり・・・・・・君は優しいね・・・」

その言葉だけで私は救われた。
自分の罪を償えた、そう思えるから・・・。

「だから・・・・・・愛していた・・・・・・。 いや・・・今も愛してる・・・」

だからこそ、幸せになって欲しい・・・。

「私は・・・・・・多分・・・結婚はしないだろうな・・・」

だって、君以外の人間を愛せる自信が無いから・・・。






私は感謝している・・・。
もう一度巡り会えた事を・・・
今度こそ彼女を幸せにできた事を・・・。


「鞠絵くん・・・・・・」

私は過去の彼女の名前を口にしてからこう続けた。



「今度こそ・・・・・・いつまでも幸せでいてくれ・・・」



それが私にとっての幸せだと気づいたから・・・。


あとがき

この話は『最愛の貴女へ、最悪の結末を』の続編の
『死ンデモ愛シテイル・・・』の続編だったりします。
『死ンデモ』は元々ああ言う終わり方じゃなかったからこんな話書く予定なんか無かったんですが、なんだか思いついたから書きました。
蛇足だったんでしょうか?
ちなみに、この話のお陰で千影を話に絡めて初めて兄くんに謝らなくて済みました。
更にちなみに、生まれ変わった鞠絵の結婚相手は、生まれ変わった鈴r(超蛇足な為削除)


更新履歴

H15・6/29〜7/3の何時か:完成
H15・7/4〜7/6の何時か:修正
H15・7/7:また修正
H15・8/6:またまた修正
H16・1/6:脱字修正ついでに色々修正


 

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