『咲耶ちゃん、大人になったら可憐と結婚して下さい!』

『ええッ!!?』

『そうすれば咲耶ちゃんといつまでも一緒に……』

『はぁ……』

『咲耶ちゃん?』

『ごめんね。私、可憐ちゃんとは結婚できないの』

『ど、どうしてですか!?』

『あのね……女の子同士は…………結婚できないのよ』

『え!?』

『それに私たち……血だって繋がってるの。仮に私か可憐ちゃんのどっちかが男の子でも結局は結婚できないの』

『…………』

『大丈夫よ……、そんな事しなくても私は可憐ちゃんとずっと一緒に居てあげるわ』











つながり














「…………って、何で私はこんな事を思い出しているのよ……」


 テレビで結婚式がどうとかって特集をやっていた。
 それを見てこんな昔話を思い出してしまったのだ。


「どうかしたんですか、咲耶ちゃん?」


 隣で一緒にその番組を見ていた私の妹の可憐がそう呟いた私に聞いてきた。


「なんでもないわよ」

「そうですか?」


 私はそう言って可憐ちゃんを誤魔化した。
 だって、恥ずかしいから……。

 それに、こんな話思い出させたら可憐ちゃんだって恥ずかしいと思うだろうし……。
 いくら小さい頃とはいえ彼女は同性にプロポーズしたんだから。
 まあ、笑い話にはなるだろうけど……
 笑われるのは私と可憐ちゃんで私は笑われたくない。

 だから私は今思い出した事をそのまま胸の奥にしまい直す事にした。






 私と可憐ちゃんはふたりっきりの姉妹。
 小さい頃からいつも一緒に居た。

 そして可憐ちゃんは……え!  「12人姉妹じゃないのか?」ですって!?
 ……一体なんの事? 訳解らないんだけど……。
 まあ、とにかく私と可憐ちゃんはふたりっきりの姉妹よ。間違いないわ。
 じゃあ、話を続けてもいいかしら?

 そして可憐ちゃんは私に良くなついてくれてる。
 そしてそれは今も……。
 ちょっとなつき過ぎて姉離れ出来ていないみたいだ。

 だから私はいつも、「そんな事じゃ、彼氏なんていつまで経っても出来ないわよ」 と言って、
 可憐ちゃんを姉離れさせようとしているんだけど……
 「可憐、彼氏が欲しいなんて思ってませんから大丈夫ですよ!」 と返されてまた私にくっついて来る。

 なんだかいつも一緒に居るのが当然って感じになってしまった。
 お陰で私は友達からシスコンといわれる始末。
 それに……このままじゃ私の方が妹離れできなくなりそうで困ってる……。






「はぁ……」


 テレビを見終わった後、私は部屋でひとりベッドに寝転んでため息を吐いた。
 ため息の理由は……もちろん妹の可憐について。
 私が可憐ちゃんを姉離れさせようとしてるのは別に可憐ちゃんが私にくっつくのが嫌な訳じゃない。
 逆に私が可憐ちゃんから離れなくなりそうで怖いからだ。

 ちょっと前にもさっきみたいな事を思い出して、
 その時にふと、 「私が男の子で血が繋がってなかったら良かったのに」 とか呟いた時は流石に自分でもヤバイかなって思った……。
 そんな事考える私は"同性愛"と"近親愛"の"二重の禁断の愛"を……


「…………これ以上考えないどこう……」


 そう呟いて私は目を瞑りそのまま眠りに入って行った……。






  ……


  …………



  ………………



『咲耶ちゃん、大人になったら可憐と結婚して下さい!』


 …………。
 ついに夢にまで見始めたか、私……。


『ええッ!!?』


 ああ、私ったら驚いてる……それにしても私も可憐ちゃんも若いわねぇ……。
 ああ、可憐ちゃんったらなんて可愛いのかしら……。


『そうすれば咲耶ちゃんといつまでも一緒に……』


 そうそう、その時の可憐ちゃんにとって、"結婚"って"いつまでも一緒に暮らす"って言う意味だったのよね。
 そんな単純な理由だったから可憐ちゃんはそう言ったんだろうけど。
 でも……


『はぁ……』

『咲耶ちゃん?』

『ごめんね。私、可憐ちゃんとは結婚できないの』


 私はそれを断った。
 理由は簡単、


『ど、どうしてですか!?』

『あのね……女の子同士は…………結婚できないのよ』

『え!?』

『それに私たち……血だって繋がってるの』


 私たちが姉妹だから。


『仮に私か可憐ちゃんのどっちかが男の子でも結局は結婚できないの』

『…………』


 私がそう言うと可憐ちゃん、悲しそうに俯いたっけ……。
 だから私はため息を吐いてから可憐ちゃんにこう言った。


『大丈夫よ……、そんな事しなくても私は可憐ちゃんとずっと一緒に居てあげるわ……』

『え!? ほ、本当ですか!?』

『ええ』


 可憐ちゃんの表情がみるみる元気になって行くのが分かった。
 だから私は可憐ちゃんをさらに元気付ける為にこう続けたのよ。


『当然じゃない。私たち、血の繋がった姉妹でしょ?』


 そしてそれを聞いた可憐ちゃんは……



   ………………


   …………


   ……






 目が覚めた……。
 なんて中途半端な所で……


「…う、ん……」


 ……?
 これは私の出した声じゃない。


「咲耶……ちゃん……」


 まだ夢でも見てるのかしら……? 可憐ちゃんの声がするわ。
 でも、私は起きている。それは間違いない……って事は……。
 私はゆっくりと自分の目を開けた。


「…………」

「……ん……」

「…………」

「…待って……咲耶ちゃ……」


 事態を把握してから私は、


「なんで可憐ちゃんが私のベッドで寝てるのよーーーーーッッ!!?!?」


 ……思いっきり叫ぶ事にした。












「全く! どうしてこう……」


 私は私のベッドで寝て居た可憐ちゃんを起こすと説教を始めた。


「すみません……可憐寝ぼけてて……」


 可憐ちゃんは少し申し訳なさそうにそう言ってた。


「今月に入って何回目!?」

「え……と……」


 ちなみにこれは初めての事態ではない。


「3回目…かな?」

「…………8回目!」


 だから私は少し怒り気味に話している。


「まだ今月は二週間も経ってないって言うのに……!」


 つまり今月は14分の8以上の確率でこのような事態が起こってる事になる。

「ワザとでしょ?」

「…………」

「何でこんな事するの? 今まではこんな事無かったじゃない……」


 しかし可憐ちゃんがこんな事をする様になったのは最近になってからだ。
 だからまだ合計20回以上もやっていると言う訳でもない。
 ……ただし今日リーチが掛かったけど。


「あのね……私たちももう大きくなったのよ。こう言う事はもう卒業しなきゃダメなの。解るでしょ?」

「はい……」

「じゃあ何で……?」

「だって……咲耶ちゃん、最近可憐に冷たいから……」


 可憐ちゃんは悲しそうにそう言った。


「はぁ……」


 私はため息を吐いた。
 確かに最近冷たくしてたかもしれない。
 けどそれは、可憐ちゃんを姉離れさせるためだ。
 私たちはいつまでも一緒に居られる訳じゃない。
 その内、離れなくちゃならないんだから。
 だから私は可憐ちゃんに少し厳しくしているんだけど……可憐ちゃんは一向に私から離れる様子が無い。
 寧ろくっつこうとして来る。


「あのね、可憐ちゃん、可憐ちゃんももう大きくなったんだから……」

「…………」


 そうやって私は可憐ちゃんにしばらく説教を続けた。



      『大丈夫よ……、そんな事しなくても私は可憐ちゃんとずっと一緒に居てあげるわ……』



 説教中に夢の中の台詞を思い出した。
 今私がやっている事はこの約束を破る事になっている。
 しかしそれはしょうがない事だ。
 私たちはいつかは離れなくちゃならないんだから……。

 一緒に居たいのは……私も一緒。
 だけど、そんな事できる訳無いじゃない……。
 私が"姉"で可憐ちゃんが"妹"である以上……。
 だから少しは慣れておかなくちゃいけないの。
 でないと、その時が来た時辛くなる。
 私も、貴女も……



 でも、もし私が男で……それで血が繋がってなかったら……、
 私は……可憐ちゃんに結婚を申し込んでるかもしれない……。
 小さい頃の約束を受け入れて……

 そのくらい貴女が好きだから……
 だから、解って欲しいの……



 結局、お母様が私たちを起こしに来るまで私の説教は続いた。
























「……咲耶ちゃん……あの……」


 可憐ちゃんと一緒に通学路を歩いている途中、可憐ちゃんが私に話しかけてきた。
 私たちは今、同じ学校に通っている。
 だからいつも一緒に学校に行っている。


「ダメよ!」

「まだなんにも言ってないじゃないですか」


 私は可憐ちゃんが何かをお願いするだろう事が分かっていた。


「でも言いたい事は分かるわ!」


 そしてその内容も。
 だから先に断る事にした。


「違うかもしれないじゃないですか!」


 顔を膨らまして少し怒りながら可憐ちゃんはそう言ってきた。


「じゃあ言ってごらんなさいよ! ただし、『手を繋いでいいですか?』って言うつもりなら答えはNOだからね!」

「…………」

「どうしたの? 早く言いなさいよ」


 私のその言葉に可憐ちゃんは黙ってしまった。
 やっぱり図星だったみたいだ。


「全く……そんなんじゃ、いつまで経っても彼氏なんて出来ないわよ!」


 私は可憐ちゃんにもう何度言ったか分からないこの台詞をいった。


「可憐、彼氏が欲しいなんて思ってませんから大丈夫ですよ!」


 そして可憐ちゃんも決まった台詞で返してきた。
 最近、このやり取りが当たり前になってきたと思う……。


「あ……」


 そんなやり取りを終えた後、突然可憐ちゃんが何かに気づいたみたいな声を上げた。


「どうしたの?」

「この教会……」

「教会? ……ああ」


 可憐ちゃんの視線の先には古びた教会が建っていた。
 この教会は私たちの通学路上に在る為、いつも前を通る事になる。
 しかし、なんだか色んな事情があってもうすぐ取り壊されてしまうらしい。


「咲耶ちゃん……憶えてますか?」

「なにを?」

「可憐、小さい頃、大人になったらあの教会で結婚式を挙げたいって言っていた事」

「ああ……そんな事も言ってたわね」


 この教会はお父様とお母様が結婚式を挙げた場所。
 だから、私も可憐ちゃんも、ここで結婚式を挙げたいって思っていたのだ。


「そしてその相手は……―――」


 可憐ちゃんが段々と小さくなっていくような声で呟いた。
 最後の方は消え入るような声でよく聞こえなかった。












「もう解ってるんでしょ?」


 しばらく歩いてから私は突然可憐ちゃんそう言った。


「え?」


 可憐ちゃんが疑問に思うような声で短く聞き返す。
 可憐ちゃんは私が何の話をしているのかよく分からないようだ。


「もう無理だって事は……」


 私は構わず続けた……


「私たち、女の子同士なのよ」


 その言葉で可憐ちゃんは私が何の話をしているのか分かったようだった。
 私は……さっきの可憐ちゃんの言葉について話をしてる。


    『そしてその相手は……―――』


 最後の方は消え入るような声でよく聞こえなかった。


    『―――……咲耶ちゃん』


 ……でも、聞こえなかった訳じゃない……。


「仮に私が男だとしても血が繋がっているんだから。結局無理よ……」

「…………そう……ですよね……」


 可憐ちゃんは悲しそうにそう呟いた。
 そしてその悲しみは……何故だかとても大きな物に感じられた……。


「大丈夫よ!」

「え?」

「いつまでも、って訳には行かないけど……それまでは一緒に居てあげるから」


 そんな事を言えばますます姉離れできなくなりそうになりそうだったけど、今は可憐ちゃんを元気付ける方が大事。


「本当ですか!?」


 その言葉で可憐ちゃんは思ったとおり笑顔に戻った。
 ふと目の前を見てみると、もう目の前には学校が建っていた。
 ここでもう可憐ちゃんとは別れなくてはいけない。


「当然じゃない」


 だから私は何気なく夢の中で私が言った台詞を最後に言おうと思い、
 こう言って可憐ちゃんと一度別れる事にした。


「だって私たち、血の繋がった姉妹でしょ? じゃ、また後で会いましょう」


 そう言うとそのまま私は可憐ちゃんから離れていった。
























    キーンコーンカーンコーン……


 早いものでもう放課後。
 私は学校の玄関で可憐ちゃんを待っていた。
 私と可憐ちゃんは学年が違うので普段はあまり時間が合わない。
 でも、今日みたいに時間が合う日は一緒に帰ってる。


「……遅いわね。今日、掃除当番なのかしら?」


 こういう時間の合う日でも掃除とかで遅くなる事もしばしばある。
 その程度なら私も可憐ちゃんも玄関で待つのだ。

 …… しかし、 姉離れさせようとしてるんだからやっぱりバラバラに帰った方が良いんだろうか……?

 でも、これは習慣になっちゃってるし、黙って帰るのも悪い気がする。
 いつも、「たまにはバラバラに帰りましょう」と言おうとしても。
 そういう時に限って、ついうっかり忘れてしまう。


「はぁ……」


 こんなんだから私……


「お! あそこにシスコン咲耶が……」


     ドガァッッ


 ……シスコンって言われるのかしら?
 私は、私の足元でもがき苦しんでいるクラスの男子を見下しながら、しみじみとそう考えてた。












「ごめんなさい、咲耶ちゃん」


 しばらくしてから可憐ちゃんがやって来た。


「遅かったじゃない、今日掃除当番だったの?」


 私はそう話を振ってみた。


「いえ、違うんです……」

「違う? じゃあなんで……?」

「クラス委員のお仕事があってそれで……」

「そうなの」


 そういえば可憐ちゃんはクラス委員をやっていたっけ。


「まあいいわ。とにかく帰りましょう」


 私がそのまま外に歩き始めようとした時、


「あの……実はまだ終わってないんです」


 可憐ちゃんが申し訳なさそうにそう言ってきた。


「そうなの?」

「はい……それで咲耶ちゃん今日きっと待ってるだろうなって思って……。それで先に帰って構わないって事を言いに来たんです」

「そう……それは残念ね……」


 言ってから私は可憐ちゃんを姉離れさせようとしてる事を思い出した。
 まあ、言ってしまったものはしょうがないか。


「じゃあ、私、先に帰ってるから」


 そう言って私は可憐ちゃんと別れ、ひとりで先に家に帰る事にした。
























「……やっぱり……バラバラに帰るべきよね……」


 そう呟きながら家路を歩く。


「でないと可憐ちゃんはいつまで経っても……」


 歩きながらひとり、可憐ちゃんの姉離れについて考えていた。


「でも、一緒に帰るのって習慣になっちゃて……―――」


 そんな時、私が今、朝可憐ちゃんと話題になった教会の前に居る事に気づいた。


「…………」


 理由はよく解らない。
 けど私は、足を止めその教会をじっと眺めてた。


「……もうすぐ……ここは壊されちゃうのよね……」


 思わず外に出たその声になんだかとても悲しい気持ちが溢れてきた。



      『咲耶ちゃん・・・憶えてますか?』


      『可憐、小さい頃、大人になったらあの教会で結婚式を挙げたいって言っていた事』



 ……私も……ここで結婚式を挙げたかったな……。


「…………」


 そう思っていたらなんだか悲しい気持ちが段々大きくなっていく……。


「…………そうだ」


 こんな気持ちになったからかな?
 お母様たちがこの教会で挙げた結婚式の様子を見てみたいって思ったのは……。


「……じゃあ、早く家に帰って見させてもらおうかな……」


 ひとりそう呟いてから私は家に向かって走り始めた。
























 家に着いた私は早速押し入れの中からアルバムとかを探していた。
 ちなみに家は両親共働きの家庭、お父様に至っては外国でひとり頑張っていたりする。


「……あ! あったあった……」


 私は押し入れの中から目的の物を発掘する事に成功した!


「うっわ〜、お母様若い〜!」


 私はお父様とお母様のアルバムを見ながらはしゃいでた。
 私が押し入れで見つけたアルバムは五冊、それぞれ色が違うもので巻数とかは書いていない。
 まあ、色でどの時期の物か分けられているんだろう。

 始めは結婚式の時期のアルバムだけ見ようとしてたけど一番最初に手に取ったアルバムは違っていた。
 だけどそのアルバムの写真を見てみたらなんか面白くて結局全部見ようとしてしまっている。

 そういえば、私ってお父様とお母様のアルバムって今まで見たこと無かったわね。
 恥ずかしいからって。
 まあ、一生懸命ねだった結果、このアルバムから写真を取り出して見せてもらった事はあるけど、
 このアルバムを見るのは実際初めてだわ。


「きゃ〜! お母様ったらスリム〜!」


 まあ、今もスタイルは良いけど……、やっぱ若さかしら。
 ……こんな事聞かれたら殺されるわ……。


「あ! 赤ちゃんの可憐ちゃん発見!」


 そこに写ってたのは、赤ん坊の可憐ちゃんを大事そうに抱えるお母様とそれを見つめる私。


「あ〜ん、可憐ちゃんったら可愛い〜」


 …………。

 ……やっぱり私はシスコンなんだろうか?


「これは私と可憐ちゃんとお母様の写真ね」


 そこには幼い私と可憐ちゃんと手を繋だお母様が写っていた。


「ええ! こんな事あったの!?」


 そこには私の記憶に無い出来事が……!
 ってまだ物心つくかつかないかの時期だから当たり前か。
 このアルバムの写真はお父様があまり写っていない。
 多分、ほとんどお父様が写真を撮っていたんだろう。


「次は……っと、もう終わっちゃった」


 私は今見ていた青いアルバムを横に置くと次の赤いアルバムに手を伸ばした。


「あ、これって私が赤ちゃんの時の写真!? やだ、恥ずかし〜」


 まだ赤ん坊の私を抱いたお母様とその後ろから私を見てるお父様。
 じゃあこれは友達か誰かに撮って貰った写真かしら?


「きゃ〜! 私、だんだん大きくなってる〜」


 順番に写真を見ているとだんだん写真の中の私が成長している。
 可憐ちゃんは写っていないし、
 写真の中の私もさっき見ていたのより少し若いから、
 恐らく青いアルバムのひとつ前の時期が写っているんだろう。


「……ってもう終わり?」


 なんだか次にどんな写真が来るのかでワクワクしてしまって見るペースが速い気がする。


「次、っと……」


 今度は赤いアルバムの下にあった緑のアルバムに手を伸ばす。


「あ!」


 そのアルバムの一ページ目を開くと、 そこでやっと目的だったアルバムに辿り着いた事に気づいた。
 そこに写っていたお母様はあの教会の中と思われる場所で 綺麗なウエディングドレスを纏って幸せそうな顔をしていた。


「…………」


 余りに綺麗だったからさっきまでの様子とは打って変わって声も出せずにただジッとその姿を見ていた……。

 しばらくしてからページをめくると、もうそこには結婚式の様子が写されていなかった。
 多分、この前の時期のアルバムにいっぱい写っているんだろう。


「お母様……綺麗だったわ……」


 私はそう呟きながら次々とアルバムのページをめくった。
 早くさっきの続き……と言うかさっきの写真の前に撮られた写真を見たかったからだろう。


「ん?」


 ところが早々とめくられるページは私がある写真を目にしたところで止まった。


「これは……」


 そこに写っていたのはお母様ただひとり。
 ただし……お腹が大きくなっている。
 断じて太った訳ではない!


「……私がお腹の中に居た時の写真ね……」


 写真の日付を見てみると私の誕生日の四ヵ月ほど前の物だった。
 なんて言えばいいのだろう……。
 とにかく言葉では言い表せないような気持ちが込み上がって来る……。


「……それにしても…………お母様のお腹おっきぃ〜!」


 そんな干渉は別としてお腹の大きいお母様を見るのはちょっと面白かった。


「ふふふ……、お母様もこんな時期があったのよね〜」


 当然だ、じゃなきゃ私はここに居ない。


「それにお母様はこれを二回もやっている訳だ…し……」


 ―――……え?

 この時、私は何か違和感を覚えた……。
 この写真のお母様は確かに私を妊娠している。
 でも……


「…………」


 私は急いでその違和感の正体を突き止める為、 さっき見ていた青いアルバムを再び手に取った。


「なにかの見間違い? それとも……」


 私の中で何かが大きくなっていく……。
 でもそれはさっきまで感じていたモノとは違う。
 寧ろ逆の属性の物だ。


「!!」


 私はとうとう違和感の正体を見つけた。


「……どう言う…事…?」


 ある写真を見て私の中で何かが極限まで大きくなっていった。


「そんな……じゃあ……」

 そう、これは……「恐怖」と言ってもいいだろう。
 その写真に写っていたのは、若くてスリムな体型をしたお母様だった。






 可憐ちゃんの生まれる四ヵ月前だと言うのに……。






























「どう言う事なの!! きちんと説明して!!」


 受話器にそう怒鳴る私。
 受話器の向こう側には私のお母様が居る。
 仕事中だったんだろうけどそんなの関係ない!
 お母様が帰って来るまで待ってなど居られなかった!


「どうして今までずっと……黙ってたの?」


 そうとしか考えられない。
 でなければ説明がつかない。


「……だから私にアルバムを見せようとしなかったの?」


 可憐ちゃんが生まれる数ヶ月前の写真には日付もバッチリ書かれていた。
 幼い私も写っていた。


「その事が解るから……だから……」


 そして、それらの写真のお母様は全て、スリムな体型で写っていた……。


「どうして今まで黙ってたのよッ!!」


 それから導かれる事実、それは……、


「どうして今更こんな事……」


 お母様は可憐ちゃんを妊娠などしていなかった。
 つまり……


「私と可憐ちゃんが本当は姉妹じゃないなんて……!!」


 可憐ちゃんは私の本当の妹ではなかった……。












     ドサッ……


「!!」


 電話で話していた私の耳に荷物が床に落ちるような物音が響いた。
 私は物音のした方向……私の後方に振り返ってみた。
 そしてそこには……


「可憐……ちゃん……」


 真っ青な顔をした可憐ちゃんの姿があった・・・。


「……いつから……そこに……?」


 明かされた真実に気を取られ玄関のドアが開いた事に気づかなかった。
 お母様に真実を聞かせてもらう事ばかり考えていて後ろに可憐ちゃんが居た事に気づかなかった。


「か、可憐ちゃん……これは……」


 私は必死で誤魔化す方法を考えた。
 可憐ちゃんにこの事実を伝えてはいけないと思って。


「……バレ…ちゃったね」


 だけど彼女の口から出たのは意外な言葉だった……。


「え……?」


 "バレた"?


「可憐が……本当の妹じゃないって……」

「知って…たの?」

「…………っ……」

「可憐ちゃんッ!!」


 可憐ちゃんはそのまま家の外に駆け出して行ってしまった。


  ―――可憐ちゃんは知っていた?


  ―――私とは本当の姉妹じゃないって……。


  ―――私だけ?


  ―――私だけが……



『――――――』

「あ!」


 私の手から離れそのまま支えを失いぶら下がっている受話器。
 そこから声が聞こえた。
 私は受話器を手に取ると私は受話器の向こう側の人物に聞いた。


「お母様……可憐ちゃんは…………知って…いたの?」
























「可憐ちゃん! 可憐ちゃーんッ!!」


 私は外に出て可憐ちゃんを探した。

 可憐ちゃんは知っていた。
 私とは血の繋がりが無い事を。もう数年も前に……。


「可憐ちゃん! 何処なの!? 返事を……返事をしてッ!!」


 お母様の話では偶然知ってしまったらしい。
 そして可憐ちゃんはその時言ったそうだ。

 「咲耶ちゃんには黙っていて」と……


「可憐ちゃーん!!」


 彼女は私との血の繋がりが無い事をコンプレックスに思っていたらしい。
 だから私には黙っていて欲しいと…… お父様とお母様に必死でお願いしたらしい……。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 見つからない……。
 何処に行ったの……?


「ハァ…………ハァ……」


 …………。


「血が繋がってないから……それがどうしたって言うのよ……!」


 そんな事関係ないじゃない……!


「私は可憐ちゃんの事……そんな事で見捨てたりなんかっ……―――!」



      『当然じゃない。私たち、血の繋がった姉妹でしょ?』



「……っ!!」



     『だって私たち、血の繋がった姉妹でしょ?』



 不意に……今まで自分が無責任に、誇らしげに口にしていた言葉が、頭の中を過ぎった……。


「…………。……はは、……ははは……」


 何故だろう……?


「あは、…ははは……、あははは……」


 可笑しくもないのに……


「あははははははははははっ!!」


  ―――全部……私の所為だったんだ……。


 私が何も知らなかったから……。
 彼女の気持ちなんて気づいていなかったから……。
 私が……「血の繋がり」なんて言ってたから……。
 私は今まで何度その言葉を口にしたんだろう……?
 全て軽い気持ちで言っていたから…………解らない……。
 今朝だって……、 ただ夢で見た事を真似したかったって…… 小さい頃のやり取りをもう一度してみたかったって…… それだけだったのに……。

 今朝、彼女はどんな気持ちだったんだろう……?



     『大丈夫よ……、そんな事しなくても私は可憐ちゃんとずっと一緒に居てあげるわ……』


 今朝、夢で見た過去。


     『え!? ほ、本当ですか!?』

     『ええ』


 今、この後の事を思い出した。


     『当然じゃない。私たち、血の繋がった姉妹でしょ?』


 それを聞いた可憐ちゃんは………… とても悲しそうな顔をしてた……。

 あの時、可憐ちゃんがプロポーズした理由……。
 それはただいつまでも一緒に暮らしたいというだけじゃなかった……。
 その本当の理由は……あの後、彼女が続けた言葉……






      『可憐、咲耶ちゃんと本当の家族になりたいな……』






 私との繋がりが欲しかったからだ……。






「なんにも知らないで……」


 ……当時、可憐ちゃんが何を言いたいのか、私には解らなかった。


「『私が男の子で血が繋がってなかったら良かったのに』ですって……?」


 私は馬鹿だ……


「良かったじゃない……」


 愚かだ……


「血は……繋がってないって……」


 最低だ……


「片方……叶ってたじゃない……」


 クズだ……




     バンッ


「どうしてよりによってそっちだけなのよッッ!!!!」


 私は思いっきり地面を叩いて、そう叫んだ。

 ……なんでなの?
 ……なんで……よりにもよって……?

 私が男なら何とかできた!
 結婚でも何でもして! それで彼女との繋がりを持てた!!
 私だってそれでも良いって思ってた!!

 でも……


 私たちは……女同士なんだ……


 私は何度も地面を叩いていた。
 何度も何度も……。
 叩きつけた拳の皮が剥け、そこから血が出ていた。
 でも、そんな事は構わずに地面を叩き続けた。
 何度も何度も……。
 行き場の無い怒りを…… 自分への腹立たしさをぶつけるように……。


「……可憐…ちゃん……」


 最近私が冷たくしたのは可憐ちゃんを姉離れさせる為だった。
 けど、可憐ちゃんにとっては……私との繋がりが無いと思っている彼女にとってそれは……


「何処なの……」


 だからよりくっつこうとしたんだ……。
 離されるのが……繋がりが消えるのが、怖かったから……。


「何処に……」



     『咲耶ちゃん……憶えてますか?』


 不意に、彼女の声が、頭の中を過ぎった……。


     『可憐、小さい頃、大人になったらあの教会で結婚式を挙げたいって言っていた事』


 ……それは、ついさっき、可憐ちゃんと交わした、何気ない会話……。


     『そしてその相手は……―――』



 遠い遠い、過去の話……。



      『―――……咲耶ちゃん』



 幼い彼女の……儚い夢の話……。


「……そうだ……教会」


 ……可憐ちゃんはあの教会に居る。
 確証は無い、でも確信はしてる……。
 私は急いであの教会へ、可憐ちゃんの元へと走った。
























「ハァ……ハァ……ハァ……」


 既に身体は疲れきっていた。
 でも、不思議と辛くは無かった。
 だって……


「……見つけた」


 ……彼女がそこに居たから……。


「咲耶ちゃん……」


 教会の中でただ立っていただけの彼女。


「可憐ちゃん……私……」


 私は、可憐ちゃんの元へと、ゆっくりと近づいて行った。


「……もう、なんにも無くなっちゃったね」

「え……」


 彼女は震える声でそう言って、尚もその声で続けた。


「もうバレちゃったから……、可憐と咲耶ちゃんは血が繋がっていないから……だからもう……」


 彼女は、今にも泣き出しそうな程……壊れてしまいそうな程に……悲しみで溢れていた……。


「可憐たちにはもう……繋がりが……無くなっちゃったね……」


 それを救ってあげたい……他でもない、私の手で……。
 私が、彼女を助けてあげたい……。

 …………。

  ―――そうだ……


「繋がりが無いのなら……」


  ―――だったら……


「……作ればいいじゃない!」


 ―――救ってあげればいい。


「……え?」

「今、ここで……」





「私と結婚式を挙げましょう……」





「結…婚……って……、……な、なに言ってるの、咲耶ちゃん!?」


 私の、突然の言葉に、驚きを隠せない様子の可憐ちゃん。
 私自身、自分がどんなに突拍子もないことを言っているか、理解していた。
 けど……


「私は本気よ!」


 私が強くそう言うと、可憐ちゃんのただでさえ見開いていた目は更に大きく、まんまるに見開かれて、
 とても驚いた顔を私に向けていた。


「私は可憐ちゃんとの血の繋がりなんて関係ないと思ってる! そんな事で可憐ちゃんを見捨てたりなんかしないわ!」

「でも、咲耶ちゃんは……!」

「解ってる!! 解ってるわよ……私がどんなに馬鹿だったのか……。
 本当は血が繋がってないなんて……そんな事知らなかったから……」


 彼女との繋がりを容易く実感したくて……安易に、「血の繋がり」だなんて口にしていた……。
 でも、真実を知らない私は、そのことで彼女が傷ついているだなんて、気がつけもしなかった……。


「咲耶ちゃん……」

「だから今、ここで……私たちの繋がりを……作りましょう」


 大切なのは、血の繋がりなんかじゃない……
 私たち自身がどう繋がるか……。


「でも……結婚、だなんて……だって可憐たち……」

「女同士ってだけじゃない!」

「え……?」

「血の繋がりは消えたのよ……。あと残ってるのは女同士って事だけ……。
 禁断の愛には変わりないけど…………ひとつだけじゃない……たったひとつだけ……」


 元々ふたつあった禁忌から……血の繋がりという禁忌が消えた。
 それだけで、禁忌は半分も消えている。


「あとは……、私たち自身の気持ちの問題よ……」

「咲耶……ちゃん……」












「……えっと……汝、咲耶は可憐の事を妻と認め……」


 私たちは今、ふたり並んで誓いの儀式をしている。


「……病める時も……健やかなる時も……だったかな……?」

「誓います!」


 私はしどろもどろに言葉を繋げる可憐ちゃんの台詞を遮ってそう言った。


「え!? 咲耶ちゃん、可憐まだ全部言って……」

「そんなの待ってられないわ」


 もう私はわずかの時間も待ちたくない!
 ……そう思っていた。
 それに可憐ちゃんは全部言えそうに無かったし……。


「可憐ちゃんは?」

「え?」

「誓うの!? 誓わないの!?」


 私は可憐ちゃんに簡潔に聞いた。


「え!? あ! ち、誓います!」

「じゃあ―――」

「あの……」

「なに?」


 次の段取りに進もうとする私の言葉を今度は可憐ちゃんが遮った。


「折角の結婚式なのになんだか適当すぎる気が……」

「言ったでしょ? 私たちの気持ちの問題だって」

「そうですけど……」

「ドレスも無い、指輪も無い、神父も、祝ってくれる人も、なんにも無い……。
 その上、やっているのは女同士……。……それに、歳だって……」


 ここまで型破りな結婚式をしているんだ……。
 ……だけど大切な事は私たちに繋がりを作る事。
 型なんて……そんなもの関係無い……!


「分かってるでしょ? 重要な事は……」

「そうですね……」


 私が全部言う前に彼女は解ってくれたみたいだ。
 今なら私たちは確実に繋がっている。
 心が……


「じゃあ次は…………誓いのキス……ね」

「はい……」


 私たちはそのままお互い向き合った。
 お互い同性に唇を捧げる事になる……。
 ……それでも私に……いえ、私たちにためらいは無いかった……。

 例えこれが禁じられた行為でも、 私たちにはこれで繋がりが生まれるんだ……。






 そしてそのまま……


 どちらからともなく私たちの唇が触れ合った……。
























「「…………」」


 ふたりとも何も言わずに家に向かって歩いていた。
 ただし、手はしっかりと繋いで……。


「ねえ、可憐ちゃん……」


 唐突に私が話しかけた。


「な、なんですか?」


 突然の事で可憐ちゃんはちょっと驚いていた。


「どうしよっか?」

「え?」

「私たちの事……」

「……そんなの、決まってます。もう、結婚しちゃったんですから……ずっとずっと……一緒に居ましょうね……」


 可憐ちゃんは私の質問にそう答える。


「そんな事、当たり前じゃない……! でも今言いたい事はそういう事じゃなくて……」

「違うんですか?」

「お父様とお母様によ……」

「あ……」

「ふたりしてこんな事になっちゃって……ねぇ……」


 自分たちの娘ふたりが同時にこんな事になってしまったんだ。
 ……ちょっと気の毒かもしれない……。

「……咲耶ちゃんは、どうなんですか?」

「私は……もう誰になんて言われても可憐ちゃんを離したりしない。
 薄情かもしれないけど……可憐ちゃんかお父様とお母様かって聞かれたら……、私は可憐ちゃんを選ぶから……」

「咲耶ちゃん……」


 私たちに血の繋がりは無いかもしれない。
 "結婚"と言ってもお遊び程度の事として取られるかもしれない。
 法律や一般常識から考えれば私たちに繋がりは無いかもしれない……。

 でも、確かに存在している。
 私たちの間には"繋がり"が……。


 "心"がもう繋がっている。

 "想い"がもう繋がっている。


 私たちにはそれで十分だから……。












「……ねえ、可憐ちゃん。……今日、一緒に寝ましょうか?」

「え!? い、いいんですか!?」

「ええ」

「……でも、どうして……?」

「もう、必要なくなったから……」

「なにが……ですか?」

「"姉離れ"に"妹離れ"よ」

「え?」

「だってもう……私たちが離れる時なんて、来ないはずだから……」





あとがき

この話も思いついていきなり書き始めた話です。
「普段"兄"とやっている様な話を百合でやったらどうなのかな?」 って考えの基に出来た話です。
だから今回は ふたりだけで、他の皆はお休みです。
もうシスプリで血縁の話なんてありがちかな?
しかしこの話、個人的に今までで一番良い出来だと思うんですよね。
最後の方はイマイチかもしれませんけど……。
読んでくれた人は一体どの辺りから可憐と咲耶に血縁関係が無いって分かったんでしょうか?
……ひょっとしてタイトルを見た辺りからですか?
ところで最後の「今日、一緒に寝ましょうか?」で、 えっちぃ想像をした人、そういう事ではありませんので残念でした(笑


更新履歴

H15・6/24深夜(既に25日):取り敢えず無理矢理完成
H15・6/25:きちんと完成
H15・8/3:修正……?
H15・8/7:修正
H15・8/11:また修正
H15・10/9:誤字修正含めてかなり改修
H17・2/22:書式等大幅修正&加筆修正
H17・2/23:誤字修正


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