「ただいまー」
「あ、お帰りなさい、鈴凛ちゃん」

メカの部品を買いに行っていたアタシが家に帰って来ると、ちょうど上の階から降りて来る春歌ちゃんがそう言ってくれた。

「・・・?」

アタシの目は春歌ちゃんの持っているあるモノに向けられた。

「・・・何で洗面器なんか持ってるの?」

二階から洗面器を持って降りて来る・・・ヘンな光景だ。

「洗面器? ああ、これは・・・」

春歌ちゃん、今日は確かお稽古の日だって言っていたけど・・・。

「・・・春歌ちゃんのお稽古の道具?」
「違います。 そんなはずある訳ないでしょう」

まあ、そうだろうね・・・。
しかしもしそうだったら一体どんなお稽古になるんだろうか?

「これは鞠絵ちゃんが風邪を引いてしまって・・・」

例えば・・・って、ええっ!?

「鞠絵ちゃん風邪引いたの!?」












カゼをひいてしまいました














「鞠絵ちゃん!!」

アタシは持っていた荷物を放り投げて鞠絵ちゃんの部屋に駆け込んだ。
部屋に入ると鞠絵ちゃんは自分のベッドに横になっていた。
ちなみにメガネは掛けていない。

「あ、鈴凛ちゃん、お帰りなさい」
「あ、うん、ただいま・・・じゃなくて、大丈夫!?」
「大丈夫ですよ・・・いつもの事ですから・・・」

うわぁ・・・なんか痛いよその台詞・・・。

「わたくし、体が弱いですから・・・」

ああ、痛い痛い・・・

「この位の事はもう慣れています・・・」

ああ・・・もう痛すぎる・・・

「鈴凛ちゃん?」
「え? ああ! ゴメン!」

なんてヘンな事考えてる場合じゃない!!

「それで大丈夫なの!?」
「だから大丈夫です、って今言いましたけど・・・」

同じ事を聞いてしまった・・・。

「じゃあ、じゃあ・・・」

じゃあ・・・なんだろう?
自分で何言いたいのか分かんなくなって来た・・・。

「あの、鈴凛ちゃん・・・落ち着いてください」
「え! あ、うん・・・」

と、とにかく落ち着こう!

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

よし!

「それで大丈夫なの?」
「だから大丈夫です、って・・・」

また同じ事を聞いてしまった・・・。

「鞠絵ちゃん具合はどうですか?」

その時、洗面器の水を取り替えた春歌ちゃんが鞠絵ちゃんの部屋にやって来た。

「あ、春歌ちゃん。  大丈夫です、お薬のお陰で今は熱も下がっているみたいですし」
「そう、それはよかった。  でも、あまり無理をしないで安静にしていて下さいね」
「はい」

そう言うと春歌ちゃんは鞠絵ちゃんのオデコに濡れたタオルを乗せた。
ああ、春歌ちゃんはなんて落ち着いているんだ・・・。
その落ち着きを少し分けて欲しいよ・・・。

「じゃあ白雪ちゃんが帰って来たらお粥でも作って貰もらってください」
「お粥?」

ちなみに、今日は休みでみんなどこかに行っていて家にはアタシと鞠絵ちゃんと春歌ちゃんしかいない。

「ねえ、お粥なら春歌ちゃんの方が得意でしょ? 和食だから」

だから白雪ちゃんが帰って来たら、なんて言ってないで、今、春歌ちゃんが作ってくれればそれでいいと思う。
そう思ってアタシは春歌ちゃんに聞いてみた。

「でも、ワタクシ、これからお稽古がありますから・・・。 その様な時間の余裕は・・・」

ああ、そう言う事か・・・。

・・・・・・。

「だったらさ、作り方教えて。 アタシが作るよ」
「え?」
「鈴凛ちゃんが?」

鞠絵ちゃんの為に何かしたい!
そう思ってアタシはそう言った。
・・・理由はもうひとつあるけど・・・。

「でも鈴凛ちゃん、お料理作った事・・・」
「サンドイッチぐらいしかないけど・・・」
「だったら白雪ちゃんが帰って来るまで・・・」
「白雪ちゃんに任せて大丈夫?」
「・・・・・・・・・・・・多分・・・」
「なんで目を背けるの・・・?」

白雪ちゃんの料理は確かに美味しい。
けど、たまに新メニューという名の『殺戮兵器』(言い過ぎ)が混じっている。
四葉ちゃんのチェキによるとその確率は約20%弱らしい。
決して低くい確率では無い・・・。
ちなみにここ最近はまともなモノが続いているからそろそろ危ない・・・。
それがアタシが作ろうとしたもうひとつの理由だ。

「それに、お粥くらいならアタシにも作れるんじゃない?」
「・・・そう・・・ですわね。 では、お任せしても宜しいでしょうか?」
「任せて!!」

よし、頑張るぞ!

「鈴凛ちゃんの手料理ですか・・・なんだか楽しみです」
「え!」

アタシはその鞠絵ちゃんの言葉で自分の顔がちょっとだけ赤くなったのが分かった・・・。






アタシは春歌ちゃんにお粥の作り方を簡単に教えて貰ってた。

「では鈴凛ちゃん、鞠絵ちゃんの事よろしくお願いします」
「任せて!」

春歌ちゃんは玄関で靴を履きながらアタシにそう言ってきた。
今アタシは春歌ちゃんを見送っている所だ。

「お粥は先程言った通りにすれば出来ますから」
「分かってるって」

多分・・・。

「それと・・・」
「何?」
春歌ちゃんは立ち上がりこっちを向いてニッコリ笑うと―――

「大丈夫かと思いますけど・・・もし台所を滅茶苦茶にしてしまったのなら・・・」
「滅茶苦茶にしたら?」
「それなりの覚悟を・・・!」

―――殺気の籠った眼でアタシを睨んできた!

    ゾワァッ

全身に鳥肌が立った・・・と思う・・・。

「では・・・」

殺される・・・本能でそう感じた。
気をつけないと切腹させられるかもしれない・・・。






春歌ちゃんを見送った後アタシは台所に立った。

「よーし、やるぞー!」

アタシは自分に気合を入れて早速お粥作りに取り掛かった。

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

「?」

「???」

「・・・どうだっけ?」

ダメだった。






「ああ、アタシって何でこんなに・・・」

いきなり壁にブチ当たったアタシは肩を落としてガックリとしていた。

「さっき教えて貰ったばかりなのに・・・」

最初の方が思い出せない・・・。

「アタシはメカ以外何も出来ないの? ・・・いや、メカでも失敗しまくってる・・・」

だったらあたしの人生失敗ばかりだ・・・。
ああ、なんだか悲しくなってきた。
このままじゃお粥を作るどころか台所を滅茶苦茶にも出来ない・・・。

「アタシは鞠絵ちゃんの為にお粥ひとつも作れないのか・・・」

鞠絵ちゃん・・・



    『鈴凛ちゃんの手料理ですか・・・なんだか楽しみです』



「こんな所で挫けてどうする・・・アタシ!」

良いものは出来ないかもしれない・・・でも、

「鞠絵ちゃんが待っているんだ・・・!」

アタシは鞠絵ちゃんの言葉を思い出し、自分に渇を入れ諦めかけた自分のやるべき事、“お粥作り”にもう一度取り掛かる事にした。
全ては鞠絵ちゃんの為・・・。

アタシ、なんかカッコいいかも・・・。

やってる事は“お粥作り”だけど・・・。






「えーっと、とにかく・・・」

とにかく春歌ちゃんの言っていたやり方を思い出せばいい。
アタシは必死に記憶の糸を辿り、お粥の作り方を思い出そうとした。

「春歌ちゃんは確か・・・」



    『まず土鍋に・・・』



「土鍋だ!!」

そっから忘れてたんかいアタシ!!?












    ぐつぐつぐつ・・・・・・

「なんとかここまで出来たぁ・・・」

最初の方さえ思い出せば後はどんどん思い出せた。
今、土鍋を火に掛けてる所だ。

「えーっと、確か春歌ちゃんは・・・」



   『火を使う時はお鍋から目を離してはいけません! 得に鈴凛ちゃんは初心者なんですから!』



「・・・・・・」

いくらアタシでも土鍋に目をくっつけるなんて馬鹿な真似はしない。
四葉ちゃんや花穂ちゃんじゃあるまいし。

・・・ちょっと言いすぎかな?

・・・・・・


・・・・・・



・・・・・・



『チェキー!! 目がー! 目が熱いデスー!!』


『あーん、花穂ドジだから春歌ちゃんの言っていた事勘違いしちゃったぁ』



・・・・・・



・・・・・・


・・・・・・

若干在り得る・・・。












    ぐつぐつぐつ・・・・・・

「・・・・・・」

    ぐつぐつぐつ・・・・・・

「・・・・・・」

    ぐつぐつぐつ・・・・・・

「・・・・・・」

    ぐつぐつぐつ・・・・・・

「・・・・・・退屈だ」

いくら目を離すなと言われてもただジーッと見ているだけって言うのは退屈だ。
かと言って、ここを離れて何かあったら大変だ。
特にアタシが!
下手をすれば腹を斬らなければならなくなる!

    ぐつぐつぐつ・・・・・・

「・・・・・・」

    ぐつぐつぐつ・・・・・・

「・・・・・・」

    ぐつぐつぐつ・・・・・・

「・・・・・・」

やっぱり退屈だ・・・。
目を離さなければいいんだから・・・。

「何か別の事でも考えていよう」

そうなると何考えようかな・・・
やっぱりメカの事か。
そう言えば作りかけのアレ動きがなんかイマイチだったなぁ・・・。
アレはやっぱりあの部品を・・・
それであそこの配線を・・・
でもってあのパーツは・・・
ああ、それじゃあダメだ!!
だったらこうして・・・
いや、こうすれば・・・

    ぐつぐつぐつ・・・・・・

うーん、これじゃあさっきと一緒だ。
だったらあのパーツは・・・
あ! そうすると・・・

    ぐつぐつぐつ・・・・・・

いいかも、いいかも! で、で・・・
あの部品は・・・

    ぐつぐつぐつ・・・・・・

そうだよ! こうすれば良かったんだよ!!

    ぐつぐつぐつ・・・・・・

って事は、あそこはこうすれば・・・

・・・・・・






















「ゴメン! 鞠絵ちゃん!!」
「はぁ・・・」

目の前にはベタベタになって底の方が焦げたお粥が置かれた。
まあ、ようするに失敗した訳だ。
取り合えず台所は無事だったので切腹せずに済みそうだけど・・・。

「ゴメンね、お粥を火に掛けてる時にアタシちょっと考え事してて・・・。 気づいたら・・・」

実際は“ちょっと”ではない。

「ああ、もう、なんでアタシってこう失敗ばっか・・・」
「あの、鈴凛ちゃんは初めてなんですから。 そんな気を落とさなくても・・・」



    『火に掛けている時に、時々かき混ぜたりしないと焦げてしまいますから・・・』



お粥が焦げた時に思い出した春歌ちゃんの言葉だ・・・。

「ゴメン! ホントにゴメン!」
「まあ、とにかく食べさせて頂きますね」

そう言うと鞠絵ちゃんはアタシの作ったお粥らしきモノを口に運んだ。

「・・・熱っ!」
「あ、鞠絵ちゃん!」

お粥はかなり熱かったらしく鞠絵ちゃんの目には涙が浮かんでいた。
・・・そりゃ熱いだろう。
過度に火に掛けてたんだから・・・。

「大丈夫?」
「大丈夫です・・・」

そう言って鞠絵ちゃんは水を口に含んだ。

「もう少し冷まさなきゃ食べれないかなぁ?」

このままじゃ鞠絵ちゃん口の中火傷しちゃうよ・・・
って言うか、もうしてるかも・・・。

「・・・鈴凛ちゃん」
「何?」

鞠絵ちゃんは持っていたコップを置いてこんな事を言い出した。

「冷まして・・・くれませんか?」
「へ?」

冷ますって・・・

「鈴凛ちゃんが冷ましてくれませんか?」
「えっと・・・それってつまり・・・」

アタシがフーフー、って・・・

「そんな事できる訳無いじゃない!!」とは言えませんでした・・・。

「・・・はい」

結局、アタシはお粥らしきモノを冷ました訳だ。
フーフー、って・・・
ああ、なんか恥ずかしい・・・
こんな事なら断れば・・・

「あーん・・・」

!!!!!!

「ままままま鞠絵ちゃん!!?」

それって、つまり、その、あ、あ、アタシが食べさせるって事!!?

「それくらい自分でやらなきゃダメだよ!!」なんて言えませんでした・・・

結局、アタシは鞠絵ちゃんに食べさせてあげた訳だ。
ああ、もう、恥ずかしい・・・。
でも、鞠絵ちゃんは病人なんだから、うん!
そう心の中で言って自分を納得させた。






「それで、どう・・・?」

あんまり聞きたくない。

「口に合えばいいけど・・・」

多分それは無い。

一口目

「・・・口の中でベタベタします」
「うあ」

二口目

「ちょっとしょっぱいです・・・」
「あああ・・・」

三口目

「部分的に味がありません・・・」
「あああああ・・・」

四口目

「・・・焦げてる所がちょっと苦いです」
「あわわわわわわ・・・」



「そうだよね、やっぱり・・・」
「それで美味しいです」
「そう、美味しいよね・・・って、ええっ!?」

鞠絵ちゃんあんたの味覚は正常か!?
思わずそう言い掛けた。

「美味しいって・・・そんな気を使わなくても良いんだよ!」

その通りだ!
まず視覚で相手に威圧感を与え!
次に嗅覚で相手を怯ませ!
最後に味覚でトドメを刺す!
そんなアタシの“焦げつきベタベタお粥モドキ”が美味しいはずない!

「いえ、本当ですよ」
「そんなはず・・・」
「だって、一番なくてはならないものが入っていますから」
「へ?」
「鈴凛ちゃんの愛情」
「ぅなっ!!」

ヘンな声を出してしまった・・・
アタシの・・愛情・・・?

「鈴凛ちゃんが私の為に一生懸命作ってくれたんです。 美味しくない訳ないじゃないですか」

そんな・・・そんな事言われるなんて・・・
ああ、アタシ今絶対顔赤いよ・・・。

「それにお腹が空いてると何でも美味しいんですよ」
「鞠絵ちゃん・・・」

・・・・・・

・・・そっちが本音じゃないの?











「ごちそうさまでした」

鞠絵ちゃんは結局“焦げつきベタベタお粥モドキ”を全部食べてくれた。

「鈴凛ちゃん、お粥、ありがとうございました」
「そんな・・・」

アタシはただ鞠絵ちゃんに白雪ちゃんの『殺戮兵器』(言い過ぎ)を食べさせたくなかっただけなんだから。
・・・まあ似たようなモノ食べさせちゃったけど。

「そういえば・・・」
「何?」

鞠絵ちゃんは食器を片付けながらアタシに聞いてきた。

「お粥作ってる時に考え事していたって言ってましたけど、ひょっとして作りかけのメカの事とかですか?」
「え!?」

大当たり。

「その顔は、当たりですね?」

そっちも大当たり。

「ふふふ、鈴凛ちゃんらしいですね」
「なんで・・・なんで分かったの?」

不思議そうに聞くアタシに鞠絵ちゃんはこう答えた。

「だって・・・、鈴凛ちゃんの事はいつも見ていますから・・・。 なんとなくそう思ったんです」
「ええっ!!」

いつもアタシを見ていた・・・?

「そ、そんな・・・じょ、冗談だよね? よ、四葉ちゃんじゃあるまいし・・・アハハハハ・・・」
「冗談なんかじゃないですよ」
「ぅえぇっ!?」

また、ヘンな声出しちゃった・・・。

・・・アタシ、いつも鞠絵ちゃんに見られていたの?

「・・・やっぱり、迷惑でしたか・・・?」

鞠絵ちゃんはそう言って悲しそうに俯いてしまった。

「そ、そんな事ないよ! その、なんか照れるけど・・・でも、四葉ちゃんよりはマシだし! それに鞠絵ちゃんにだとなんか嬉しいよ!!」

そんな鞠絵ちゃん見たくない!
そう思って思い付くまま言ってみたけど・・・
ああ、アタシは一体何を言っているんだか。
絶対恥ずかしい事言ってるよ・・・。

「・・・本当ですか?」
「ホントだよ!!」

でも、嘘じゃない。

「嬉しいです」

そう言って鞠絵ちゃんは顔を上げてアタシに笑顔を向けて来た。

「あ・・・」

思わず声が漏れた。

「どうかしたんですか?」
「な、なんでもない!」

アタシは慌てて誤魔化した。

だって・・・
鞠絵ちゃんの笑った顔に見惚れちゃったなんて・・・
恥かしくて言えないよ・・・。

「そうですか・・・?」
「そうそう」

それに、鞠絵ちゃん今メガネ掛けてないから余計可愛く見えるんだよね・・・。
いや、綺麗に、かなぁ・・・?
アタシは可愛いだと思うんだけど・・・。

「鈴凛ちゃん?」
「ふぇ?」

ええ、ヘンな声出しましたよ! 出しましたとも!!

「やっぱりなにかあるんですね?」
「ふぁ!?」

しかも二連続で! それの何が悪い!!
ヘンな声くらいアンタ等(誰?)も出すだろ!!(逆ギレ)

「どうしたんですか?」
「え、いや・・・」

ああ、そんな事考えてる場合じゃないよ!

「ま、鞠絵ちゃん・・・その、風邪引いて大変だな、って。 か、代わってあげられるならな、って・・・そ、そう考えてたの!」

『だから鞠絵ちゃんの笑った顔に見惚れちゃったなんて考えてないよ!』って、慌ててたから思わず言いかけた。
アタシが花穂ちゃんだったら言ってたかもしれないけど・・・。

「代わってあげられたら、ですか・・・・・・あ!」
「何?」
「いえ、なんでもないです」

その割には「閃いた!」って顔してたと思うけど・・・。
追求しようかと思ったけど追求し返されたら困るから止めとく事にした。











アタシは“焦げ(略)モドキ”を片付けてから、
温くなった洗面器の水を取り替え、鞠絵ちゃんの部屋に戻って来た。

「鞠絵ちゃん、はい、タオル」
「ありがとうございます」

そう言うとアタシは鞠絵ちゃんのオデコに濡れたタオルを乗せた。

「冷たくて気持ちいい・・・」

タオルを乗せた後に鞠絵ちゃんがそう言った。

「・・・・・・」

そうして鞠絵ちゃんはアタシの方をチラチラと見ていた。
どうでもいいけど鞠絵ちゃんはさっきからなにかを狙っているみたいだ。
ちなみに“さっき”と言うのは「閃いた!」って顔してた時の事。

「鈴凛ちゃん・・・」
「何?」

とうとう行動に出るのかな?
一体何を狙っているんだろう?

「さっき、言いましたよね・・・」

そう言うと鞠絵ちゃんはオデコのタオルを横に置いて寝かせていた自分の体を起こした。

「・・・何を?」
「代わってあげられたら、って・・・」
「うん」

まあ、誤魔化そうとして焦って言った事だけど・・・。

「だったら・・・・代わってくれます?」
「・・・・・・・・・・へ?」

一瞬、鞠絵ちゃんが何を言いたいか分からなかった。

「代わって欲しい、って言ったの?」
「はい」

無理

「あのね、鞠絵ちゃん。 そりゃあ、代わってあげられるなら代わってあげたいけど・・・でも、そんな事・・・」
「出来ますよ」
「え?」

不思議な事を言う鞠絵ちゃんに戸惑うアタシ。
出来るの?
そんな事・・・まあ、千影ちゃんならできそうだけど・・・。
でも、鞠絵ちゃんには・・・

「代わってくれますか?」
「え!? い、いいけど・・・でもどうやって!?」

アタシがそう言うと鞠絵ちゃんはニッコリと笑ってアタシの頬に両手を添えた。

「こうすればいいんです」
「・・・え―――」

鞠絵ちゃんはそう言うのとほとんど同時にアタシの顔をグイッ、と引き寄せて・・・

そのままアタシと鞠絵ちゃんの唇の距離は・・・

ゼロになった・・・












「・・・・・・」

鞠絵ちゃんの唇が離れて

「・・・・・・な」

アタシはやっと

「なーーーーーーーーーっ!!?!?!??」

状況が理解できた。

「なななな・・・まままま・・・いいいい・・・きっ、きっ・・!!?」

アタシは今顔は真っ赤だろうし、
心臓はドキドキどころかバクバクいってるし、
頭の中はもうグチョグチョになっているしで、
状況は分かっていても言おうとした事は言葉にならなかった。

「ふふふ・・・」

そう笑う鞠絵ちゃんは少しだけ顔を赤くしていた。
たぶん、風邪の所為じゃない。

「なん・・まま、まり・・・い、い、いま・・・き・・きっ・・!!?!?」
「『なんで、鞠絵ちゃん、今、キスしたの?』ですか?」

大正解!!
アタシはまともに話せそうにないから思いっきり首を縦に振った。

「だって、鈴凛ちゃん代わってくれるって言ってくれましたから・・・」

へ?
その事と今のキスとどう関係が・・・?
アタシはそう聞こうとしたけどまだ話せる状態じゃなかったから
それを言葉にする事は出来なかった。
でも、鞠絵ちゃんはそれを察してくれたのかニコッ、と笑うとアタシにこう言った。

「風邪はうつすと治るって言いますから」

そう言う事か・・・。
アタシはまだまもともに話せない状態のまま鞠絵ちゃんにしてやられた、と思った。
そんなやり取りのすぐ後で玄関からドアの開く音がした。
そしてその後、何人かの「ただいま」の声が家に響いた。






















「ゴホッ、ゴホッ・・・」

次の日

「う゛ー・・・頭痛い・・・」

アタシは見事に鞠絵ちゃんの風邪をうつされた。

「すみません・・・まさか本当にうつるなんて・・・」

逆に鞠絵ちゃんの風邪はすっかり治っていた。
本当に代わってあげちゃうとは鞠絵ちゃんも思ってなかったらしい。

「鈴凛ちゃん・・・」
「何?」
「その風邪はわたくしのですから・・・やっぱり、返していただきませんと・・・」

そう言うと鞠絵ちゃんはアタシにゆっくりと顔を近づけて来た。

「だ、ダメだよ!!」

アタシは大声でそれを止めた。

「え?」
「だって・・・だって鞠絵ちゃん、折角治ったんだよ。 それにアタシが代わりたいって言ったんだし・・・」
「でも、わたくしの所為で・・・」
「いいの・・・。 それに・・・なんか嬉しいんだ・・・。 鞠絵ちゃんの身代わりになれて・・・」

自惚れかもしれないけど、自分が誇らしい気がした。



「・・・じゃあ、キスするのが嫌、と言う訳ではないんですね?」

この時、鞠絵ちゃんがちょっとイタズラっぽい顔をしていた事にアタシは気づいてなかった。

「そんな訳ないよ!」
「だったら、風邪が治ったら・・キスして・・下さいね」
「もちろんだよ!」

風邪の所為で思考能力の低下したアタシが、この時物凄く恥ずかしい事を言っていた事に気づいたのは風邪が治ってからだった・・・。





あとがき

えー、まりりんほのらぶストーリー “〜ました”シリーズの第2弾です。
本来、“〜ました”シリーズは続編でも一話完結でも好きなように取れる作りになっているモノだったのですが・・・、
結局上手く行ったのはこの話だけな気が・・・。
しかも、内容としては『殺戮兵器』、『切腹』など、
なんだか下らない事書いて他の“兄”の方々の怒りを買いそうだし、
自分的にはちょっと失敗したかもって所もあったりだし・・・。
どうでもいい事ですけどこれ書いてる時、本当に風邪を引きました。


更新履歴

H15・6月上旬くらい:完成
H15・8/3:修正
H15・8/14:また修正
H15・8/21:微修正
H15・8/22:また微修正
H15・10/22:今度は修正


前の話へこのシリーズのメニュー次の話へ
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