それは夏の始まる少し前の事でした・・・。

「いやああああああああーーーーーーッ!!!」

いつもなら防音を施された壁によって聞こえなかったかもしれない声。
一年位前に庭に新しく作られた鈴凛ちゃんのラボから聞こえてきた・。

「鈴凛ちゃんどうし―――っ!!」

その日は暑かったから鈴凛ちゃんはラボのドアを開けていたんだと思う。
だから声が聞こえた・・・鈴凛ちゃんの断末魔の悲鳴。

「そんな・・・そんな事って・・・」
「一体どうしたんだい・・・・・・咲耶くん?」
「ねぇ、今の鈴凛ちゃんの・・・!?」
「来ちゃダメッ!!」
「えっ?」
「・・・鈴凛ちゃ・・・うぐぅっ」

口を押さえ襲ってくる吐き気を必死に抑えながら咲耶ちゃんはそう言ってた・・・。

「一体どうしたって・・・? !! ・・・・・・これは・・・酷い・・・」
「千影ちゃん・・・どうしたの?」
「二人とも来ちゃダメだ!!」
「え?」
「衛ちゃん・・・亞里亞ちゃんを向こうに・・・。  あと、救急車・・・いえ、警察を・・・・・・速くっ!!」
「え、うん・・・」

咲耶ちゃんがそう衛ちゃんに言っていたのを憶えている。

「りんりん・・・ちゃん・・・」
「!!」

ラボの中から掠れる様に小さい雛子ちゃんの声が聞こえてきた・・・。

「りんりんちゃんが・・・りんりんちゃんが・・・」
「雛子・・・ちゃん・・・・・・・・・なん・・・で・・・?」


それは夏の始まる少し前の事でした・・・。


その日、私達から家族が一人減りました・・・。












イラナイモノ・・・














「亞里亞ちゃん!」
「えっ?」

十年前の出来事を思い出していた私は雛子ちゃんの声で現実に戻された。

「どうしたの?」
「なんでもない・・・」

今年も夏が始まろうとしてた。
この時期になると私は鈴凛ちゃんの事を思い出す。
居なくなってしまった家族の事を・・・。






鈴凛ちゃんはメカが大好きで、いっつもメカを作る事に夢中だった。
失敗も多かったけど、それでも鈴凛ちゃんの作るものはどれも凄い物ばかりだった。
鈴凛ちゃんの作ったものは、
私達を楽しませてくれて、
私達を喜ばせてくれて、
時々、私達を怒らせたけど・・・それでも彼女は私達を笑顔にしてくれた。


あの日まで・・・。



“巻き込み事故”だった・・・。



あの日、鈴凛ちゃんは製作中の自家用ゴミ処理機に体を巻き込まれ、そのまま帰らぬ人となった・・・。

「もうすぐ完成だよ!」

事故の少し前に、鈴凛ちゃんがそう言っていったのを憶えている。
試運転の時に何かがあったらしい。
事故の後、ゴミ処理機の中からある物が発見された。
ボロボロになって真っ赤に染まったクマのぬいぐるみ・・・。
それは当時、雛子ちゃんがとても大切にしていたクマのぬいぐるみだった。
そのクマのぬいぐるみが間違ってゴミ処理機の中に入ってしまい、それを取ろうとして巻き込まれたんじゃないのか?
咲耶ちゃんはそう言ってました・・・。





「それにしても暑いね」
「そうだね・・・」
「亞里亞ちゃん?」
「何?」
「いっつもこの時期になると元気なくなるよね、どうしたの?」
「え、そ、そう? そんな事無いと思うよ」
「でも、普段はあんなに、もう咲耶ちゃんみたいにイケイケの亞里亞ちゃんがこんなに物静かだなんて・・・」
「イケイケ、って・・・雛子ちゃん・・・」

雛子ちゃんは憶えていない・・・。
私にとっても、彼女にとっても、姉だったあの人の事を・・・。








「りんりんちゃんが・・・りんりんちゃんが・・・」
「雛子・・・ちゃん・・・・・・・・・なん・・・で・・・?」
「りんりんちゃんが・・・めかのなかに・・・」
「雛子くん・・・まさか・・・」
「・・・ばきばき・・って・・・・ごきごき・・って・・・すごいおとが・・・」
「なんて・・事なの・・・」
「ひな・・・ひなは・・・・・・」







鈴凛ちゃんがメカに巻き込まれた時、雛子ちゃんはその部屋の中に居た。
そして見てしまった・・・、
自分の姉が機械に壊されていく様子を。
よりによって私達の中で一番幼かった彼女が・・・。
幼い彼女にとってそれはどのくらい残酷な光景だったのだろう・・・?
私には分かる事なんて出来ない・・・。

あの後、彼女は鈴凛ちゃんの事を忘れていた・・・。

病院のベッドで目を覚ました彼女に鈴凛ちゃんの事をどう伝えるのか?
そう話していた時、

「鈴凛ちゃん・・って誰?」

そう彼女が言った。
彼女は鈴凛ちゃんに関する一切の記憶を失くしていた。
それには事故の事も含まれていた。
その事が、彼女の観た光景が彼女にとってどれ程残酷であったかを物語っていた・・・




「なんでデスか!? 四葉達が忘れちゃったら鈴凛ちゃんがカワイソウデスよ!!」
「そうだよ!! それって、それってあんまりだよ!!」

事故の後、咲耶ちゃんと千影ちゃんが
もう鈴凛ちゃんの話をしない事とラボを取り壊す事を提案した。

「忘れろとは・・・・・・言っていない・・・・・・。
 ただ・・・・・・もう話さない方がいいと・・・。
 ・・・それに・・・・・・ラボも取り壊した方が・・・」
「一緒デス!!」

四葉ちゃんや衛ちゃん・・・それに他の何人かは必死で反対していた。

「鈴凛ちゃんはもう居ないんデスよ!!  ・・・だったら・・・だったらせめて・・・」

特に鈴凛ちゃんと一番仲の良かった四葉ちゃんは必死に反対した。
でも・・・、

「・・・雛子ちゃんはどうするの?」
「!」
「雛子ちゃんはまだ小さいのに・・・あんな・・・あんな目に・・・」
「咲耶ちゃん・・・」

全ては雛子ちゃんの為だった・・・。
鈴凛ちゃんの事を忘れている雛子ちゃんが鈴凛ちゃんの事を思い出した時、
雛子ちゃんの中で人一人の存在を消してしまう程の残酷な体験まで思い出してしまう・・・。
咲耶ちゃんと千影ちゃんはそう考えたからこそ、もう鈴凛ちゃんの話をしない事とラボを取り壊す事を提案した・・・。

「こんな言い方・・・残酷かもしれないけど・・・死んでしまった鈴凛ちゃんよりも、今生きている雛子ちゃんの事を考えてあげて・・・!」
「・・・・・・」
「解って・・・四葉ちゃん・・・」
「ワカリマシタ・・・。 でもせめて・・・せめてラボだけは・・・鈴凛ちゃんとの思い出の場所は・・・残しておいて下サイ・・・」

咲耶ちゃん達は危険だと言っていたけど四葉ちゃんはこれだけは譲らなかった。
四葉ちゃんは鈴凛ちゃんとの思い出のある場所を残しておきたかったから・・・。



結局、四葉ちゃんの熱意が通じて鈴凛ちゃんのラボは、“雛子ちゃんにとって危険になるようなら取り壊す”という条件付きの元で残しておく事になった。
雛子ちゃんへはラボの中を見せなければ大丈夫だろうし、ラボへはカードキーがなければ入れない仕組みになっていたから。

当時の私達みたいに幼い子が入るのは危険だったのでそう言う仕組みになっている。
カードキーには鈴凛ちゃんの分、仲の良かった四葉ちゃんが持ってる分、それに何かあった時の為の予備の分があった。

鈴凛ちゃんの分は、事故の後から見つかってない。
恐らく鈴凛ちゃんと一緒にメカに処理されてしまったからだ・・・。
だから四葉ちゃんは、自分の分と予備の分さえ注意すれば大丈夫だ、と言っていた。






そうして、私達はもう鈴凛ちゃんの話をしない様にした。








「ねえ、亞里亞ちゃん」
「ん?」
「亞里亞ちゃんはヒナの事・・・好き?」
「はぁ・・・」
「どうしたの? ため息なんてついちゃって」
「雛子ちゃん、雛子ちゃんはいくつ?」
「17」
「17にもなって“ヒナ”はないでしょ?」
「えーーー!!」

雛子ちゃんは元気になった・・・。
あんな事があったなんて信じられない位に・・・。



私はあの時小さかくて何も解らなかったから、色々な事が、“人が死ぬ”という事さえよく解らなかったから、鈴凛ちゃんが居なくなった事でその事をようやく理解したから・・・。
そして自分が何も出来ない事も解った・・・。

「もう高校生になんだからもう少しそう言うところを・・・」
「そんな事どうでもいいじゃない!  それにヒナ、“くししし”って笑うのだって止めたんだよ!」
「それを今でもやってたら私は雛子ちゃんに外で会った時絶対他人のフリをする」
「うー・・・亞里亞ちゃん性格変わったね」
「よく言われるわ」
「あーあ、昔はあんなに物静かだったのに・・・」

私が変わったのは雛子ちゃんのお陰だ。
あの事について何かしたかった・・・。
だから決めた。
“雛子ちゃんを姉として支える事”を。
あの事故で最も傷ついた雛子ちゃんを“姉”として支える事を。


「そんな事より、どうなの?」
「何が?」
「ヒナの事・・・好き?」
「・・・・・・」
「どうなの?」
「・・・好きだよ」
「えへへへ・・・」
「何よ、気持ち悪い・・・」
「ヒナも亞里亞ちゃんの事好きだよ」


精一杯頑張った・・・。
彼女に尊敬される姉になろう。
彼女が誇れる姉になろう。
居なくなってしまった鈴凛ちゃんの様に、
彼女を楽しませて、
彼女を喜ばせて、
彼女を笑顔にしてあげよう。
それが私に出来た“姉”としての唯一の事だと信じて・・・。


「じゃあさ、目、瞑って」
「はぁ?」
「目、瞑って」
「はいはい・・・分かったわよ」
「へへへ・・・」
「こう?」
「・・・・・・」

でも私はまだ解ってなかった・・・。




「!!」




私の“好き”と彼女の“好き”の違いに・・・




「い・・・嫌ぁッ!!」

私は思いっきり雛子ちゃんを突き飛ばした・・・

「・・あぅっ・・・・痛、たぁ・・・」

―――キスされた・・・!

―――しかも唇に・・・!

「何するの亞里亞ちゃん・・・」
「それはこっちの台詞よ!!」
「!」
「何考えてるの!? こんな事するなんて!!」
「ありあ・・・ちゃん?」
「私、初めてだったのに・・・! それなのに・・・!!」
「えっ・・・だって亞里亞ちゃんもヒナの事・・・“好き”、って」

私の“好き”は“妹として”だった、
そして彼女の“好き”は“恋愛”だった、

「何言ってるの!? その“好き”じゃないって解るでしょ!?」
「でも、亞里亞ちゃん・・・ヒナといっつも一緒に居てくれて・・・いっつも一緒に遊んでくれて・・・だからヒナ、亞里亞ちゃんも、って・・・」
「私達女同士よ! しかも姉妹で!! そんな感情持つ訳無いって、それくらい解るじゃない!!」

同性に唇を奪われた・・・その事で私は逆上していた。

「何処か行って! もう私の前に現れないで!!」
「亞里亞ちゃん・・・ヒナの事・・好きじゃ・・なかったの?」

そのため心にも無い事を言った・・・。

「雛子ちゃんなんてもう嫌いよ!!」
「ありあちゃんは・・ヒナのことキライ・・・?」







「だったら亞里亞ちゃんなんて――――――――」








私の意識はそこで途切れた・・・。








    ゴウゥウゥウゥウゥウゥ・・・・・・

「う・・・」

何だかよく解らない機械音が響く中で私は目を覚ました。

「ここは・・・痛ッ・・・!」

頭が痛い・・・
何があったんだろう・・・?
それにここは・・・?

「一体どこ・・・・・・えっ!?」

両手が縛られている!?

「あ、亞里亞ちゃん、起きたんだ」

少し離れた所から声がした、

「雛子ちゃん・・・」

そこには雛子ちゃんが立っていた、

「このまま起きない方がよかったのにね」
「え?」

今まで見た事もないような冷たい目をして・・・。
一体何を言ってるの?
それにここは・・・

「あっ・・・!!」

ここが何処か?
初めはよく解らなかった。
でも記憶の糸を辿ると私の中にここへ来た記憶が在った。
十年も昔に・・・

「ここは・・・鈴凛ちゃんの・・ラボ・・・」
「あったりー」

そう、あの悲劇の起きたその場所。
私は実に十年ぶりにここへやって来た。

「な、なんで・・・!?」

何でこんな所に・・・?
状況の飲み込めない私は自分の身に何が起こったかを振り返ってみた。
確か雛子ちゃんと校門で待ち合わせをして、
一緒に学校から家に向かって、
それで私は・・・

「あ!!」

そうだ・・・思い出した!
それで私は雛子ちゃんにキスされて、
それで怒って雛子ちゃんに“嫌いだ”って言って、
そしたら・・・雛子ちゃんに持っていた鞄で殴られたんだ・・・。
するとあの後私は雛子ちゃんにここまで運ばれた事になる。

「雛子ちゃん! どうして・・・」

そこまで言って私はある事に気づいた。
本当は「どうしてキスしたのか?」とか「どうして鞄で殴ったのか?」聞こうとしてたけど、それ以上に不思議な事に気づいた。

「どうしたの急に黙っちゃって・・・」
「・・・どうやって・・・ここに入ったの・・・?」

私達がここにいる事がおかしい。
だってここはカードキーが無かったら入れるはずの無い所だ!

「どうやって・・・これを使ったに決まってるじゃない」
「!!」

そう言うと雛子ちゃんはポケットからカードキーを取り出した。

「なっ! 何でそれがここにっ!?」

そんなはず無い!
雛子ちゃんがカードキーを持ってるはずは・・・!
四葉ちゃんの分は四葉ちゃんが家を出る時に一緒に持って行ってるし、
予備の分は千影ちゃんが絶対に見つからない場所に隠したって言ってた!
だったらあれは・・・?

「これ? これはずっとヒナが持っていたんだよ」
「ずっと持っていた?」
「そう、鈴凛ちゃんの持っていた分」
「!!」

鈴凛ちゃんの持っていた分?
一緒に処理されたと思っていた、あの・・・?
それに雛子ちゃん、今・・・

「なんで・・なんでそんなの持ってるの? それに雛子ちゃん鈴凛ちゃんの事・・・思い出してたの!?」
「思い出す? 思い出してなんかいないよ」
「だったらなんで!? 雛子ちゃん、鈴凛ちゃんの事知らないって・・・」
「あのねー、亞里亞ちゃん・・・思い出すって事は一回忘れなきゃいけないって事だよ」
「それじゃあ・・・」

忘れてなんかいなかったの?

「何で!? 何で鈴凛ちゃんの事忘れたフリなんか!!」
「それはね、鈴凛ちゃんはもう処理しちゃったんから、ヒナの中からも消したの」
「処理・・・した・・・?」
「でもね、出来なかったんだよ、忘れられる訳なかったんだよ・・・・・・あんな光景はッ!!」
「!!」
「どんなのだったか教えてあげようか? まず、鈴凛ちゃんが悲鳴を上げて〜」
「・・・いや」
「鈴凛ちゃんがメカにどんどん引き込まれて〜」
「・・・やめて」
「“バキバキ”って、“ゴキゴキッ”ってすごい音がして〜」
「・・・聞きたく・・ない・・・」
「そこらじゅう真っ赤になって〜、それで〜・・・」
「そんな事聞きたくないッ!!」




「ホンットいい気味だったよ!!」




!!

「いい・・・気味・・って・・・」

雛子ちゃん・・・何を・・・?

「鈴凛ちゃんったら酷いんだよ。 ヒナの大事なクマさんをイラナイモノだって・・・」
「そんな・・・! 鈴凛ちゃんがそんな事する訳・・・」
「ホントだよ。 ヒナ、あの時クマさんが無くなって、一生懸命探したんだよ!
 そしたらね何処に在ったと思う? この中だよっ!!」

雛子ちゃんはそう言うとさっきから機械的な音を上げているあるモノを指した。

「!!」

そこには十年前―――

「亞里亞ちゃん小さい時“これ”の事よく解らなくて“大きな箱”って言ってたでしょ? でも、今はもうなんだか解るよね?」

鈴凛ちゃんの命を奪った―――

「これはイラナイモノを処理するメカなんだよ!」

―――鈴凛ちゃんの自家用ゴミ処理機が不気味な機械音を上げていた・・・。

「うっ・・・!」
「どうしたの?」

そしてそれは生々しいほど紅い血がベットリと付いていた・・・。

「鈴凛ちゃんがね、ヒナの大事にしていたクマさんをね、“これ”で処理しちゃったんだよ!!
 ヒナすっごく大切にしてたのに!!  イラナイモノだって!!!!」
「嘘よ! 鈴凛ちゃんはそんな事しない!!」
「じゃあなんでヒナのクマさんはこの中に在ったの!?
 そんなの鈴凛ちゃんがヒナのクマさんをイラナイって  “これ”を使って処理しちゃったからに決まってるじゃない!!」
「違う! だって・・・」
「だからね、そんな事する鈴凛ちゃんなんてヒナ、イラナイって思ったの!」
「・・・え?」

その時、私の中である仮説が立った・・・。

「だからヒナ・・・」

そしてそれは・・・

「雛子ちゃんまさか・・・」

最も残酷で、最も信じたくなかった・・・

「鈴凛ちゃんを“これ”の中に突き飛ばしたんだよ!! 鈴凛ちゃんなんてもうイラナイから!!」



・・・既に現実として起こっている事実だった・・・。



「雛子ちゃん・・・嘘・・・だよね」

じゃあ、あの事故は・・・

「それより“これ”ってすごいんだよ、久しぶりに動かすのに全っ然問題ないんだから」

そんな・・・そんなのって・・・

「ヒナね、“これ”で今まで色んなイラナイモノを処理してきたんだよ。
 使えなくなった鉛筆や消しゴム、着れなくなったお洋服、履けなくなった靴、もう使わない教科書や壊れちゃったラジカセ、
 それにヒナの事をよく吠えてきたナマイキなワンちゃんに、夜五月蝿くてヒナが寝るのを邪魔したムカつくネコさん、
 みんな、みんなイラナイからこれで処理したんだよ! 鈴凛ちゃんみたいに!!」
「ひ・・な・・・・」

―――誰?

「アハハハハハハハハ・・・!
 これのスイッチを入れてね、いらなくなった物をこの中に入れたら、もうすごい音がしてね、それが気持ちイイの!!」
「・・ひ・・な・・・・ちゃん・・」

―――あなたは誰なの?

「ワンちゃんやネコさんの時なんかね、凄かったんだよ!
 ブギャァーとかニギャーとか! もう最高だよ!! アハハハハハ!
 アハハハハハハハ! ハハハハハハハハ・・・・・・」

雛子ちゃんはもう壊れている・・・
私はその時その事に気づいた。

「・・・・・・」
「どうしたの亞里亞ちゃん?」

―――恐い・・・。

「ヒナね亞里亞ちゃんの事、ダイダイダーイスキだったよ!」
「・・・・・・」

―――この妹の姿をした悪魔が・・・。

「いっつも一緒に居てくれて! いっつもヒナの事助けてくれて! ヒナ、亞里亞ちゃんの事ダイスキだったんだよ!
 だからヒナ、亞里亞ちゃんにキスしたんだよ!! なのに・・・なのに・・なのに、なのになのになのにっ!!!!」

―――どうして、こんな・・・?

「亞里亞ちゃんヒナの事キライだったんでしょ! ヒナはあんなにスキだったのに!!」

―――なんでこんな事に・・・

「でももうイイの!! 亞里亞ちゃんはヒナの事キライだったんでしょ!!?
 ヒナのコトがキライな亞里亞ちゃんなんてキライだよ!!」




「そんな亞里亞ちゃんなんてイラナイよ!!!!」



―――イラナイ・・・?

―――私が・・・イラナイ・・・?

「・・あ・・ああ・・・」



    ヒナね、“これ”で今まで色んなイラナイモノを処理してきたんだよ



「・・い、や・・・」



    みんな、みんなイラナイからこれで処理したんだよ



「亞里亞ちゃんも処理してあげるよ―――」



     鈴凛ちゃんみたいに!!
    「鈴凛ちゃんみたいに!!」



「いやあああああああぁぁぁぁーーーー!!」
「アハハハハハハハハハ・・・!」
「いやぁあ! やめてっ! お願いっ!!」
「ナニ言ってるの!? 亞里亞ちゃんはもうイラナイモノなんだよ!!」
「殺さないでっ!! お願いだからっ!!」
「イラナイモノはコノ中に入れてキチンと処理しないと!!」
「いやぁあ!! 死にたくない! 死にたくないっ!!」















「いやああああああぁぁぁぁーーーーー!!」
















































「・・・どうして・・・」

留置場の中で一人そう呟く。

「そんなつもりじゃ・・・なかったのに・・・」
「・・・・・・」

ガラスの向こう側には面会に来てくれた鞠絵ちゃんがその様子を見ていた・・・。

「私・・・私・・・」
「落ち着いて下さい・・・」
「・・・でも・・・私・・・」
「亞里亞ちゃん・・・」





あんな事になるなんて思わなかった・・・


























「殺さないでっ!! お願いだからっ!!」

抵抗する私を無理矢理メカに押し込もうとする雛子ちゃん・・・

「イラナイモノはコノ中に入れてキチンと処理しないと!!」

怖かった・・・。

「いやぁあ!! 死にたくない! 死にたくないっ!!」

死にたくなかった・・・。

「亞里亞ちゃん、大人しく・・・うわぁっ!」

だから必死に抵抗した・・・。

「・・・え?」

それだけだった・・・。

「え! えっ!? あ、やだ・・・ヒナ・・あ・・」

そんなつもりじゃ・・・なかった・・・

「雛子ちゃんっ!!!」




――――――




――――――




――――――




メカに呑み込まれたのは・・・雛子ちゃんの方だった・・・。




「いやああああああぁぁぁぁーーーーー!!」





 必死に暴れた私は弾みで雛子ちゃんを突き飛ばしてしまった・・・

 メカのある方向へ・・・

 気づいた時には遅かった・・・

 雛子ちゃんはみるみるメカに呑み込まれていった・・・

 肉の潰れる音、骨の潰れる音・・・

 部屋の中が真っ赤に染まっていく・・・

 窓が割れるかと思うほどの彼女の悲鳴・・・

 鈴凛ちゃんの命を奪ったあの機械は・・・

 不気味な機械音を響かせてながら・・・

 もう一人の家族まで奪っていった・・・


























「・・・弁護士の方が・・・亞里亞ちゃんには正当防衛が認められるだろうって・・・」
「・・・でも・・・私が雛子ちゃんを殺してしまったのには変わりない・・・」
「亞里亞ちゃん・・・」
「鞠絵ちゃん・・・私、あんな目に遭ったのに・・・・・・雛子ちゃんの事・・・嫌いに・・・なれない・・・」
「え?」
「もしかしたら私・・・本当は・・・本当は・・・雛子ちゃんの事・・・」
「・・・・・・」
「・・・ううん、なんでもない・・・」













あの頃の雛子ちゃんも良く解ってなかったと思う。
鈴凛ちゃんがあんな事になるなんて・・・。

ただ大切なクマのぬいぐるみをボロボロにされて・・・、
だから仕返しに鈴凛ちゃんをイラナイモノにしたかっただけなのに・・・。

何も知らなかった雛子ちゃんは鈴凛ちゃんを突き飛ばした。
その結果、目の前で繰り広げられた残酷な現実・・・
それを見た雛子ちゃんは壊れしまったんだ。

その後、雛子ちゃんの中では “イル”か“イラナイ”か、その二つしか存在してなかったんだと思う・・・。

雛子ちゃんにとって私は“イル”だったんだ。
壊れた彼女の心はそれを“愛”と勘違いしたんだろうか?
それとも本当に同性の私を“愛”したんだろうか?
もう解らない・・・


「全部・・・全部私の所為だ・・・」
「違います! 全ては事故だったんです!  亞里亞ちゃんの所為じゃ・・・!」
「違わない・・・」
「時間です」
「え? あ、はい・・・」
「・・・・・・」
「・・・亞里亞ちゃん・・気を・・落とさないでください・・・」
「・・・・・・ありがとう」








「ごめんね・・・雛子ちゃん・・・鈴凛ちゃん・・・」

面会が終わり留置所の廊下を歩く私はそう呟いた。
自分の犯した罪を、 何も知らなかった自分を呪いながら・・・
私は昔を思い出していた・・・

あの頃を・・・



全ての始まりを・・・




































「・・・くすん・・・一緒に遊んでくれない雛子ちゃんなんて嫌い・・・」



「・・・鈴凛ちゃんのお部屋・・・開いてます・・・」



「・・・遊んでくれない雛子ちゃんのクマさんは、この“大きな箱”の中に隠しちゃうの・・・」


あとがき

この作品は自分的には問題作第二号だと思ってます。
前にメールで鈴凛、雛子、亞里亞はダーク系に使いやすそうだと書いた事がありまして、それを形にしてみたらこうなりました。
いえ、こうなってしまいました。
書いている途中、混乱して訳分かんなくなりましたから、なんだか展開とかおかしかったり無理矢理過ぎたりしてるかもしれません(汗)
最初に忠告したとおり後悔しても責任は取れません。
ちなみにシスプリでは当時2番目に鈴凛、3番目に雛子が好きでした。
なのにこんな目に遭わせてしまいました(滝汗)


更新履歴

H15・6月上旬くらい:完成
H15・6/19:修正
H15・8/3:また修正
H15・8/10:またまた修正
H15・11/11:誤字およびその他色々と修正


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