「あー、なんかずっと座っていたから体中だるい・・・」

そう言うとアタシはラボから出て背伸びをした。
春休みだからってちょっと調子に乗りすぎたかなぁ・・・。
最近ずっとラボにこもっていたから日にちの感覚無くなってる。
曜日は分かるんだけど今日が何日だったか思い出せないや。

「えーっと、確か今日は火曜日で・・・それで確か土曜日が二十・・・」
「鈴凛ちゃん」
「え? 何・・・って、うわぁ!」

アタシの名前を呼ぶ声が聞こえたのでアタシは声のする方に振り向いてみた。
そうしたらとてもビックリして思わず声を上げちゃった。
だって・・・

「ま、鞠絵ちゃん! ちょっと・・・」

鞠絵ちゃんが自分の顔をアタシの顔に物凄く近付けていたからだ。
その・・・今にも触れてしまいそうな距離で・・・。
・・何が、って・・・そ、そんな事言える訳・・・

「あの、鈴凛ちゃん?」
「え!? な、何!?」

なんてヘンな事考えてる時じゃ・・・って、あれ?

「鞠絵ちゃん、メガネは?」
「無くなってしまったんです・・・」
「無くなった?」












メガネをなくしてしまいました














「メガネって無くなる物なの?」
「みたいです」

アタシの質問に鞠絵ちゃんはそう答えた。

「え、だって鞠絵ちゃん普段掛けてるでしょ?」
「はい」

だからメガネなんて普通無くなる物じゃないのに。

「じゃあ何で?」
「何ででしょう?」

不思議に思うアタシと不思議そうに答える鞠絵ちゃん。

「いつ無くなったの?」

取り合えずそう聞く。

「先程まで少し眠っていたんですけど、目が覚めたら・・・」
「無くなってたんだ」
「はい」
「うーん・・・」

それを聞いてアタシは少し考えてみた。

「眠ってる間に無くなったって事は誰かが持ってった事じゃないの?」
「誰か、って誰がですか?」
「例えば雛子ちゃんとかがイタズラで」
「雛子ちゃんが?」
「例えば、だよ」
「何にしろ、メガネが無いと困ります・・・」

あー、鞠絵ちゃんかなり目悪かったからなぁ・・・。

「予備のメガネは?」
「修理に出しています、もう直ってる頃ですけど・・・」

どうにもならないみたいだ・・・。

「あの・・・」
「何・・・って、うわぁ!」

ま、鞠絵ちゃん!
またそんな、顔を近づけて・・・。
み、見えないのは分かるけど・・・。

「あの、どうしたんですか?」
「え! あ、なんでもない、なんでもない!」

なんでもあるけど・・・。

「そ、それで何?」
「ちょっと、お願い・・・聞いてくれますか?」
「え、あ、うん、アタシに出来る事なら」

アタシは鞠絵ちゃんのお願い聞いてあげる事にした。
とにかく鞠絵ちゃんはメガネが無くて困ってるんだ。
アタシが何とかしてあげないと。

「修理に出したメガネ、一緒に取りに行ってくれませんか?」
「え!」
「何処にあるのか分からない物を探すよりも、修理に出したメガネを取りに行った方が早いと思うんです」
「・・でもそれって危ないよ。 アタシが取ってこようか?」
「鈴凛ちゃん、お店の場所分かりますか?」
「分かんない」

アタシにメガネ必要無いし・・・。

「でもやっぱり危ないよ、地図書いてくれるなら・・・」
「見えないのにですか?」
「・・・・だね」






アタシは作業着から着替えて玄関に向かった。

「お待たせ、じゃあ行こうか」
「はい」
「バウッ」
「って、ミカエルも?」
「ええ、今日はみんな出かけてますから、一人でお留守番させるのはかわいそうだと思って・・・。 ダメでしょうか・・・?」

そう言えばさっきから誰も見てないや。
それにしても鞠絵ちゃんはやさしいなぁ・・・。
でもペットってお店に入れないと思うけど・・・。

「お店にペットは?」
「入れてもらえないと思いますよ・・・」

やっぱり・・・。

「・・・でもまあ、何とかなるんじゃない? いいよ、一緒に連れて行こう」
「ありがとうございます。 よかったわね、ミカエル」
「バウッ」
「じゃあ、今度こそ行こうか」
「はい」
「バウッ」

アタシ達はそう言うと(一匹は吠えると)外に出た―――

「きゃっ」

―――ら、鞠絵ちゃんがつまずきかけた。

「鞠絵ちゃん危ない!」

アタシは咄嗟に倒れそうになっている鞠絵ちゃんの手を掴んで鞠絵ちゃんをこっちに引き寄せた。

「「あ」」

アタシ達の声が重なった・・・
鞠絵ちゃんを転ばせないように手を掴んで引き寄せた、そしたらそのまま勢いで鞠絵ちゃんを抱きしめてしまった。

「あ・・あの・・・」
「・・・・・・」
「ま、鞠絵ちゃん・・こ、これは・・その・・・」

やだ、アタシ何ドキドキして・・・

「えっと・・あの・・・」

な、何か言わなきゃ・・・

「これはね・・その・・・」

ああ、でも鞠絵ちゃんなんだかいいニオイ・・・

「鈴凛ちゃん・・・」
「はイ!」

声裏返っちゃったよ・・・

「その、ありがとうございます・・・」
「え、あ、ああ、うん、ど、どういたしまして・・・」

アタシは一体何を緊張しているんだ・・・?
それにしても鞠絵ちゃんに怪我が無くてよかった・・・
鞠絵ちゃんはアタシと違って肌が綺麗なんだから傷なんかついたら大変だ。

「あの・・・」
「何?」
「いつまでこうして・・・」
「え? ああ! ご、ゴメン!」

そうだ、アタシは鞠絵ちゃんを抱きしめたままだった!
アタシは急いで鞠絵ちゃんを離した。

「ゴメンね、その、ずっと抱きしめてて!」
「いえ、いいんです、鈴凛ちゃんはわたくしを助けてくれたんですから」
「そう? でもゴメンね、ホント・・・」
「いえ、謝らなくていいです・・・・・・
それになんだか得しましたから・・・」
「え、何?」
「いえ、なんでもないです」

鞠絵ちゃんは今何を言ったんだろう?

「じゃあ、今度こそ行きましょう、鈴凛ちゃん」
「え、あ、うん・・・・んぅえっ!!」

ヘンな声を出してしまった・・・。

「どうかしたんですか?」
「どうかした、って・・・鞠絵ちゃん・・その、手」

だって鞠絵ちゃんがアタシの手を握ってきたんだから。
ああ、またドキドキしてきた。

「手・・・?  ああ、また転んだら危ないと思ったんですけど・・・。  すみません、鈴凛ちゃんには迷惑でしたね・・・」
「え? ああ、そう言う事! ゴメン、気づかなくて。  いいよ、いいよ、全ッ然迷惑じゃないよ!」

って言うかなんか嬉しいし・・・。

「そうですか?」
「ホント、ホント、遠慮しないで」
「分かりました、だったら遠慮しませんね」

そう言って鞠絵ちゃんはアタシに微笑んでくれた。
それにしても鞠絵ちゃんって、メガネ取るといつもより可愛くなるんだなぁ・・・
いや、綺麗に、かな・・・?

「鈴凛ちゃん?」
「あ、ゴメン」

アタシまたヘンな事考えちゃったよ・・・。

「じゃ、今度こそ本当に行こうか」
「あ、待って下さい!」
「どうしたの?」
「バウッ」
「ミカエル・・・」
「あ・・・」

色々あったから忘れてた・・・ゴメン、ミカエル。

「バウッ」












アタシ達は手を繋ぎながらしばらく歩いた。
ちなみにミカエルの手綱はアタシが持っている。

「鞠絵ちゃん、大丈夫?」
「ええ、なんとか」
「でもよく見えてないんでしょ、怖くないの?」
「大丈・・きゃっ!」
「あっ! 鞠絵ちゃん!」

鞠絵ちゃんがまたつまずいた。
でも今度は手を繋いでいたからよろめきはしたけどさっきみたいに倒れそうになる事は無かった。

「・・・大丈夫です」
「そう・・・よかった」
「ええ、それに怖くなんかありませんよ」
「そうなの?」
「だって今みたいに鈴凛ちゃんが付いていますから」
「え!? そ、そんな・・なんか照れちゃうな」

鞠絵ちゃんにそう言われてアタシは少し照れながらとても嬉しい気持ちになった。

「・・・・・・・・・・
でもさっきみたいになってくれれば・・・」
「なんか言った?」
「いいえ、何も」

でも今鞠絵ちゃんが何か言ってた気がしたけど。
気の所為かな・・・?

「・・・鈴凛ちゃん」
「何?」
「あの、またつまずいた時のためにもう少しだけしっかりと繋いでもいいですか?」
「別にいいよ」

アタシはそう答えた。
別に断る理由も無いし。

「そうですか、それでは・・・」

そう言うと鞠絵ちゃんはアタシと繋いでた手を緩め・・・

(また転んだら大変だしね・・・)

そして、アタシの腕を取って自分の腕を絡めて・・・

(・・・って、ええッ!!?)

そのままアタシの方に寄り掛かって来た。

「ままままままま、鞠絵ちゃん!?!!?」
「何ですか?」
「何ですか? じゃなくて、“もう少しだけ”じゃなかったの!? って言うか、これってもう手を繋いでるって言うより・・・」

寧ろ腕を組んでる。

「すみません、やっぱり迷惑・・ですよね・・・」

そう言って鞠絵ちゃんはかなり寂しそうな顔をして俯いてしまった。

「そ、そんな事無いよ!」

それを見たアタシは思わずそう言っていた。
だってそんな鞠絵ちゃんを見ていたくなかったから・・・。

「本当・・・ですか?」
「ホントホント」
「だったらこのままでいいですよね?」
「え、あ、うん・・・」
「ありがとうございます」

そう言う鞠絵ちゃんはとても素敵な笑顔だった・・・



・・・ひょっとしてアタシは騙されたのか?












アタシ達は更に歩いていた、
ちなみにさっきの腕を組んだ体勢のままで・・・。

(それにしても鞠絵ちゃんってかわいいなぁ・・・)

腕を組みながら鞠絵ちゃんを横目で見てそう考えていた。

(それになんだかいいニオイだし・・・)

そう考えてから「アタシは変態かっ!?」なんて思った。
でも、ホントいいニオイだと思う・・・
さっき抱き締めた時もそう思ったし・・・
やっぱり変態なんだろうか・・・?

(でもこの体勢って・・・)
「なんだか恋人同士みたいですね」
「ぅえっ!!」

ああ、またヘンな声を上げてしまった・・・。

「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない・・なんでも・・ハハハ・・・」

どうやら同時に同じ事を考えたらしい。

恋人同士、か・・・
アタシと鞠絵ちゃんが・・・
なんか、いいかも・・・

ヘンかな・・・?
女の子同士なのに・・・

「バウッ」
「うわっ!」

また、忘れてた、ミカエルの事。

「バウッ、バウッ」
「って、え? えっ? ま、鞠絵ちゃん、ミカエルどうしたの?」

突然ミカエルがはしゃぎ始めた。

「ミカエル、どうしたの」
「バウッ、バウッ」

鞠絵ちゃんがミカエルに言った。
でもミカエルは相変わらずはしゃいでる。

「ミカエ・・・あっ!」
「どうしたの?」

鞠絵ちゃんは何かに気づいたみたいだ。

「そう言う事・・・」
「どう言う事?」
「ここの公園、お体の調子のいい日にはよくミカエルを連れてここへ遊びに来てたんですよ」
「それってつまり・・・」
「遊びに来たと思ってる、と思いますよ」
「バウッ、バウッ」
「あ、ミカエル!」
「鈴凛ちゃん、すみませんけど・・・」
「・・・・うん、しょうがないね・・・」

そう言うとアタシ達はその公園でひと休みする事にした。












「バウッ、バウッ」

ミカエルは嬉しそうに草の上を走っている。
ちなみに放し飼いはいけないと思うけど、今は人が居ないのでいいのだ!
アタシ達はそこから少し離れた白いベンチに座ってその様子を見ている。
いや、見てるのはアタシだけかな?
鞠絵ちゃん今メガネ掛けてないし。

「鈴凛ちゃん」
「何?」

しばらくして鞠絵ちゃんが話しかけてきた。

「今日は付き合ってくれてありがとうございます」
「何言ってるの、困った時はお互い様だよ」
「それでわたくし鈴凛ちゃんにお礼をしたいんですけど・・・」
「お礼? お礼ってまだお店にも着いてない・・・って、うわぁっ!」

はい、また驚きましたよ。
だって、鞠絵ちゃんが自分の顔をアタシの顔に物凄く近付けていたから。
さっきと同じくらい・・今にも触れてしまいそうな距離まで・・・

「ま、鞠絵ちゃん! その・・み、見えないのは分かるけど・・・ あ、あんまり近づくのは・・・」
「でも・・・」
「でも?」
「近づかないとお礼が出来ませんから・・・」
「お礼って―――」

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

!!!!!!!!!!!!!!

なななななななになになになになに今のーーーーー!!?!?!?

「今日はどうもありがとうございました」

鞠絵ちゃんの顔が更に近づいて・・・!
それでアタシの唇に柔らかいモノが当たって・・・!
それって、それって・・・!
やだ、アタシ今物凄くドキドキしてる・・・

「鈴凛ちゃん」
「・・ふぇっ!?」

ああ、もう、またヘンな声出しちゃったよ!!

「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
「へっ?」

帰る、って・・・メガネは!?

「な、何言ってるの鞠絵ちゃん」
「いいんですよ、もう満足しましたから」

鞠絵ちゃんはそう言いながら立ち上がった。

「ミカエルー、そろそろ帰りますよー!」
「バウッ」

満足した?

「満足した、って・・・何が?」
「鈴凛ちゃんとデートが出来た事です」
「んなぁっ!!」

あ、アタシとデート!?

「デートってそんな事・・・」
「腕を組んで歩いて、更に今みたいな事をすれば、それはもう完全にデートじゃないですか?」

今みたい事って・・・!
じゃ、じゃあ、今のはやっぱり・・・!
ああ、もう心臓爆発しそう・・・

「で、でもメガネは!? 鞠絵ちゃんすごく困ってるんじゃ・・・?」

その通りだ、そのためにここまで来たのに・・・。

「鈴凛ちゃん」
「な、何!?」
「最近ずっとラボにこもっていたから日にちの感覚無くなってるんじゃないですか?」
「ふぇっ?」

今日は驚いたりヘンな声出したりばっかりだ・・・。
確かに日にちの感覚無くなってるけど・・・
それと今の状況と一体何が関係あるっていうの?

「今日、何の日か分かりますか?」
「えっ! 今日!?」

確か今日は火曜日で、それで確か土曜日が三月二十九日・・・
あっ!!

「やられた・・・・」

だから今日は四月一日・・・。
アタシは顔を真っ赤にしながら思わずそう声を漏らした。
自分のポケットに隠していたメガネを取り出し、 それを掛ける鞠絵ちゃんを見ながら・・・。





あとがき

まりりんほのらぶストーリー “〜ました”シリーズの記念すべき(?)第1弾。
これを書いた時にはまだ“〜ました”シリーズなんて事をやろうなんて考えていませんでした。
この作品は個人的に気に入ってます。
更新履歴見れば分かると思いますがこれを書いた時、四月一日を余裕で過ぎています。
だけど物凄く書きたかったのでそんなの無視して書きました。(笑)
鞠絵×鈴凛と言う非常に珍しい組み合わせで書きましたが、この二人はかなり好きなので、書いてて楽しかったです。
まあ、出来はヘンかもしれないけど・・・。
ちなみに現在、鞠絵×鈴凛を世に広めたいと思っています!
出来るかどうかは別としてですが・・・。


更新履歴

H15・5/31(多分):完成
H15・6月上旬くらい:修正
H15・8/5:また修正
H15・8/14:またまた修正
H15・10/22:更に修正


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