窓の外を眺めていることが多くなった。
 教室の喧騒に背を向けて、青い空に流れる雲をただ見上げていた。

ちかピー「・・・・・・時が・・・・・・止まったように思えるね・・・・・・」

 四角い窓に、ちかピーの姿が―――

ちかピー「ちょっとマテ。 私はいつまでちかピーなんだ!?

 アタシの席の前に立ち、同じように窓の外を眺め―――

ちかピー「コラ! 何とか言え変質者!!

 ちかピーの表情からは、あの夜の面影を感じることは―――

ちかピー「堂々無視か・・・・・・魂から消し去ってやろうか・・・・・・?」
鈴凛「ちかピー・・・」


    チュドーンッ


鈴凛「げほっ・・・・げほっ・・・・千影ちゃん・・・・げほっ・・・」
ちかピー「なんだい・・・? 鈴凛く・・・・・・って←はちかピーのままなのかッ!?
鈴凛「お昼、もう食べた?」
ちかピー「・・・・・・。 昼食なんて・・・・・・もう何日も食べてはいない・・・・・・」(←諦めた)

 そう言って、不気味に笑った表情は、少しやつれて見えた。
 食べてないのは、お昼だけじゃないんだろう。

ちかピー「鈴凛くんは・・・・・・もう食べたのか?」
鈴凛「ええ。 鬱になるくらい食べた」
ちかピー「そうか・・・」
鈴凛「ねぇ、ちかピー」
ちかピー「なんだい・・・・・・?」
鈴凛「・・・まだ鞠絵ちゃんのこと避けてるの?」
ちかピー「・・・・・・」
鈴凛「鞠絵ちゃん、今を精一杯生きてるんだよ」
ちかピー「・・・・・・」
鈴凛「残された時間があとどれだけか、なんて関係なしに」
ちかピー「・・・・・・」
鈴凛「最後まで、鞠絵ちゃんのこと妹って認めないつもり・・・?」
ちかピー「鈴凛くん・・・」
鈴凛「・・・・・・」
ちかピー「いいから・・・・・・“ちかピー”はもう勘弁してくれ・・・・・・(泣)」
鈴凛「・・・・・・・・・・・・分かった」

 足音を残して、ちかピーが―――


    チュドーンッ


 魔力の爆発による爆煙を残して、千影ちゃんが自分の席に戻っていく。


    キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン・・・


 そして、チャイムが鳴った。


    ジリリリリリリリ・・・


 非常ベルも鳴った


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


鞠絵「きょ・・今日も・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・1番乗り・・・・です・・・」

 昇降口の先では、すでに鞠絵ちゃんが息を切らしていた。

鈴凛「・・・あんま無茶しない方が・・・」

 真新しい鞄に、返り血のついた獣くさい制服。

鞠絵「今日はクマさんと一緒にお勉強したんです」

 そして、いつものように、穏やかにボケる。

鞠絵「行きましょう、鈴凛ちゃん」
鈴凛「よし、とりあえず商店街」
鞠絵「・・・ワンパターン・・・」
鈴凛「じゃあ、アタシが案内できるとこで鞠絵ちゃんが行きたいとこ」
鞠絵「・・・商店街でいいです」
鈴凛「その代わり、今日は好きなものおごっちゃうから」
鞠絵「本当ですか!!!!?」
鈴凛「おいしい喫茶店知ってるんだ」

 って言うか、そのお店しか知らない。

鞠絵「楽しみです」

 疑わしそうに目を細める鞠絵ちゃんと一緒に、商店街に向かう。

 陽が、また少し傾いていた。


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


鈴凛「ここがそう」
鞠絵「物足りないお店ですね・・・もっとこう、殺伐とした・・・」
鈴凛「喫茶店に殺伐さは必要ない!

 カランッ・・・とドアベルを鳴らしながら、店内に入る。


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


鞠絵「いっぱいですね・・・」

 感心したように店内を見渡す。

鈴凛「いいからそのポテトマッシャー(非調理器具)をしまいなさい」

 幸い、空いている席があったので、そこに案内させられた。

鞠絵「使う必要なくなって良かったですね」
鈴凛「客を減らすために使おうとしてたなら、店ごと吹っ飛んで却って座れなくなるから」

 ポテトマッシャーを持って、鞠絵ちゃんがほっと一息つく。
 アタシも事件に発達する前に解決できてほっと一息つく。

鈴凛「この時間帯が一番混むみたいだね」
鞠絵「・・・鈴凛ちゃん」

 真剣な表情でメニューを開いていた鞠絵ちゃんが、顔を上げる。

鞠絵「確か、今日は鈴凛ちゃんのおごりなんですよね?」
鈴凛「まぁね」
鞠絵「何を頼んでもいいんですか?」
鈴凛「モチロン」
鞠絵「月の『うさぎの餅つき』を信じる―――」
鈴凛「長いし1回聞いたからそれはもういい」
鞠絵「とにかく、分かりました」

 ぱたん、とメニューを閉じる。

店員「ご注文はお決まりでしょうか?」
鈴凛「アタシはコーヒー」
鞠絵「わたくしは、このダイナミック・ゼネラル・ローストカエル・DXをお願いします」
店員「かしこまりました」

 メニューを受け取って、そのままカウンターに消える。

鞠絵「楽しみですねvv」
鈴凛「・・・鞠絵ちゃん」
鞠絵「なんでありますか、長官殿?」

 おしぼりで手を拭きながら、鞠絵ちゃんが首を傾げる。

鈴凛「今の、やたら武神装甲な名前の(カエルなのはこの際どうでもいいとして)食べ物はなに・・・?」
鞠絵「カエルの丸焼きです」
鈴凛「普通のカエルの丸焼きじゃないでしょ・・・」
鞠絵「ちょっと大きいみたいですね」
鈴凛「ちょっと・・・なの?」
鞠絵「もしかすると、すごく大きいかもしれませんけど。 6500円もしますから」
鈴凛「・・・は?」
鞠絵「6500円です」
鈴凛「普段買ってるカエルの丸焼きの30倍近くするんだけど・・・」
鞠絵「やっぱり、大きいからですねv」

 鞠絵ちゃんは嬉しそうだった。

鈴凛「まぁ、いいけど・・・」
鞠絵「ありがとうございます」
鈴凛「でも、そんなに食べれるの?」

 鞠絵ちゃんは確か、人並みはずれて小食だったはず。

鞠絵「今日はがんばって、たくあんたくあん食べます」
鈴凛「たくあん食べなくていいからカエル食べてね
鞠絵「だって、折角のおごりですから」
鈴凛「残っても知らないよ」
鞠絵「その時は、ふたりで食べましょうね」

 おしぼりをテーブルに置いて、そしてにこっと微笑む。

 他の誰でもない、アタシに向かって。

鈴凛「・・・ひとつのカエルの丸焼きを一緒に食べるの?」
鞠絵「はい」
鈴凛「・・・・・・」

 想像すると、とても猟奇的な光景が浮かんだ。
 何とかその事態を回避する方法は無いかと思案していると・・・。


    カランッ


 ドアベルが鳴って、新しい客が入ってきたみたいだった。

ちかピー「私は・・・・・・やっぱり帰るよ・・・・・・」
亞里亞「行かないで〜・・・」
ちかピー「あまり・・・・・・こう言う店に入りたい気分じゃ・・・・・・ないんだ・・・・・・」
亞里亞「行っちゃ嫌なの・・・ちかピー」
ちかピー「それと・・・・・・ちかピーは・・・・・・やめてくれないか?」
亞里亞「ちかピー・・・行かないで、ちかピー・・・ちかピー、ちかピー・・・」
ちかピー「念を押すように言わないでくれッ!」
亞里亞「ちかピーちかピーちかピーちかピーちかピーちかピーちかピーちかピー
     ちかピーちかピーちかピーちかピーちかピーちかピーちかピー・・・」
ちかピー「やめんか!

 亞里亞ちゃんと、そしてちかピ・・・

 ・・・・・・。(←思考中)

 亞里亞ちゃんと、そして千影ちゃんだった。(←結局言い直した)

鞠絵「・・・・・・」

 鞠絵ちゃんは、複雑な表情で、新しく入ってきたふたりの客をじっと見つめている。

亞里亞「ちかピーは・・・少し食べた方が良いの・・・」
ちかピー「儀式の・・・・・・準備なんだ」
亞里亞「嘘なの」
ちかピー「・・・・・・そうだな。 君に嘘は通じないんだったな・・・・・・」
亞里亞「今日は亞里亞のおごりなの。 だから〜・・・」

 亞里亞ちゃんはよだれだらだらだった。

ちかピー「・・・・・・分かった。 つき合えばいいんだろう・・・・・・」
亞里亞「はいなの☆」

 亞里亞ちゃんとち・・・影ちゃんは、アタシたちに気づいていない様子だった。

鞠絵「・・・姉上様」

 鞠絵ちゃんが、ぽつりと言葉を漏らす。
 誰にも届かないような、消え入るような声だった。

鈴凛「・・・・・・」

 アタシは・・・

鈴凛「おーいっ、亞里亞ちゃーん」

 席を立って、亞里亞ちゃんに向かって手を振って見せた。

亞里亞「・・・あ」

 それに気づいた亞里亞ちゃんが、驚いたような表情を覗かせる。

ちかピー「・・・・・・」

 同時に、千影ちゃんもアタシの姿を見つける。
 そして、その向かいに座っている少女の姿も・・・。

鈴凛「良かったら、一緒にどう?」
亞里亞「はい・・・。 亞里亞は賛成です☆」
鈴凛「ちかピ・・・げちゃんは?」
ちかピー「ちかピげって誰だ
鞠絵「・・・・・・」
ちかピー「・・・・・・・・・分かったよ」

 抑揚のない声で頷く。

 やがて、店員の案内で、ひとつのテーブルに4人が座った。

鞠絵「・・・・・・」
亞里亞「・・・はじめまして・・・です」
鞠絵「・・・はじめまし
鈴凛「間違ってる」

 遠慮がちに、鞠絵ちゃんがボケる。

亞里亞「亞里亞は、亞里亞なの。 こっちはちかピー」

 鞠絵ちゃんとちかピげちゃんの関係を知『コラ!』里亞ちゃんが、
 ちかピげちゃんを一緒に紹『なに今度はちかピげで落ち着いてる!』

 あー、アタシの思考に直接話しかけないで!

鞠絵「わたくしは・・・鞠絵、と申します・・・」
亞里亞「鞠絵ちゃんは、1年生なの?」
鞠絵「はい・・・」
亞里亞「亞里亞たちは2年生なの・・・。 でも亞里亞は“とびきゅう”なの・・・☆」

 なんでこんなのが飛び級できんのかなぁ・・・あの学校。

鈴凛「挨拶はいいから、何か注文したら?」
亞里亞「あ、そうなの☆ 鈴凛ちゃんは賢いの」
ちかピー「・・・・・・」

 亞里亞ちゃんはいつものごとく山のように注文して、千影ちゃんはコーヒーを頼む。

亞里亞「鞠絵ちゃんは・・・なにを注文したの?」
鞠絵「えっと、ダイナミック・ゼネラル・ローストカエル・DXです」
亞里亞「亞里亞・・・1回喰べてみたかったの☆」

 そう言や、こっちもカエル大好きっ子だったっけ。

鞠絵「でしたら、みなさんでいただきませんか」
亞里亞「いいの?」
鞠絵「はい。 鈴凛ちゃんのおごりですから」
亞里亞「鈴凛ちゃん、浪費家〜」
鈴凛「いや、アタシは・・・・・・」

 ・・・・・・言い返せねぇ・・・。


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


鞠絵「あ、来ましたよ」

 やがて、注文の品が、次々にテーブルの上に並べられる。

鞠絵「巨大ですね・・・」

 テーブルの中央には、巨大な皿が置かれた。
 にわとり1羽はありそうな大きさのこんがり焼かれた巨大ガエルに、
 たっぷりとソースのようなものがかけられていた。

鈴凛「・・・確かに、これだったら6500円くらいはするかも」
鞠絵「みなさんで食べませんか?」
亞里亞「(キランッ)じゅるり・・・」

 滝のように流れるよだれと共に、目つきはハンターのようになった。

鈴凛「って言うか、ひとりで食べれる量じゃないよね、これ・・・」

 はっきり言って、普通の人間なら4人でも無理だと思う・・・。
 まぁ、胃袋が宇宙の亞里亞ちゃんが一緒にいてくれて心底良かったと思った。

鞠絵「いただきますっ」

 嬉しそうに手を合わせる鞠絵ちゃんに続いて、アタシとハンターアリアもカエルを食べ始める。
 亞里亞ちゃんに至っては、自分の頼んだ他のメニューと一緒に口に運んでいる。

ちかピー「・・・・・・」

 そんな中、千影ちゃんだけは自分のコーヒーを飲んでいた。

鈴凛「ちかピげちゃんも食べたら?」

 無駄とは分かってるけど、一応声をかけてみる。
 手のひらから出てきた光弾で、アタシの後ろ側の店の屋根に穴が開いた

ちかピー「・・・・・・」

 案の定、別の返事は来たが言葉の返事はなかった。

鞠絵「・・・・・・」

 そんな姉の表情を、悲しげに見つめる妹。


 いっそ巡り会えなかったことにすれば、あの苦痛を味あわなくて済むはずだから・・・。
 千影ちゃんにとって、鞠絵ちゃんを妹として認めると言うことは、逃れられない悲しみを受け入れるのと同じことだった。

 でも鞠絵ちゃんを千影ちゃんの妹じゃないと受け入れるこっちの悲しみも考えて欲しい。
 あんなハチャメチャ家庭、いくつもあってたまるか!

ちかピー「・・・・・・」

 アタシと反対の選択を選らんだ千影ちゃん・・・。

 今、その心の奥にある感情はなんだろう、とふと考える。

ちかピー「アレは・・・・・・冗談だったのに・・・・・・

 ちかピーの小言が耳に入った。

ちかピー「どうして・・・・・・ここまで好物になってしまったんだ・・・・・・

 ・・・・・・。

ちかピー「カエルなんて食べるモノじゃないだろう・・・・・・そんなところを見ていたくもない・・・・・・

 ・・・今、その心の奥にある感情は後悔の念だった。


亞里亞「すぴ〜・・・」
鞠絵「わたくし・・・もう、無理です・・・」

 結局、半分以上残したまま、アタシたちはお店を出ることになった。
 胃袋が宇宙の亞里亞ちゃんが自分の分を食べえた直後、眠ってしまったのは痛かった・・・。


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


 夕暮れの商店街を、4人で歩いていた。

 亞里亞ちゃんはずっと鞠絵ちゃんと話をしてるし、千影ちゃんは一言も口をきかなかった。

亞里亞「大丈夫、鞠絵ちゃん?」
鞠絵「ちょっと苦し―――」
亞里亞「すぴ〜・・・」
鈴凛「アンタの方が大丈夫か?」
鞠絵「でも、楽しかったです。
   みんなで一緒にカエルを食べれて、本当に嬉しかったです」

 今、カエルを強調してたのは何故だろう?

亞里亞「だったら、今度一緒にカエル喰べよ☆」
鞠絵「起きてたんですか!?」

 やはりこの切り返しは慣れるまで時間がかかるのだろうか?

鞠絵「そう言うボケもアリ、と・・・」

 しっかりと心に刻んでるし・・・。

鞠絵「わたくしでもいいんですか?」
亞里亞「そうなの。 だって、鈴凛ちゃんの大切な人なの」
鞠絵「・・・え」

 思わぬ言葉に、鞠絵ちゃんが恥ずかしそうに俯く。

鈴凛「何なのよ、その大切って・・・」
亞里亞「・・・鈴凛ちゃんの恋人さん・・・でしょ?」
鞠絵「え、えっと・・・」

 アタシとしても、亞里亞ちゃんが勘付いていることに驚きを隠せなかった。

亞里亞「素敵な人なの。 だからショタキャラの鈴凛ちゃんがそっちの道に目覚めちゃったの

 『裏亞里亞』だーッ!!

鞠絵「あ、あの・・・」
千影「まったくだ・・・・・・よりにも寄って、こんな・・・しかも同性相手に・・・」

 今まで“ちかぴー”だった千影ちゃんが、“千影”に戻って呟く。
 そのことにかなり嬉しそうだが、言おうとしていることは“不機嫌なこと”らしいので、
 なんだか混ざって微妙な顔をしてる。

鈴凛「余計なお世話よ」
鞠絵「・・・・・・」

 一度も鞠絵ちゃんと目を合わせようとしなかった千影ちゃんが、妹の顔をじっと見つめている。

千影「余計なお世話・・・・・・なんかじゃないさ・・・・・・。
   だって、鞠絵くんは・・・・・・・・・・・・私の・・・・・・妹なんだから・・・・・・」
鞠絵「・・・え」

 千影ちゃんの口から出た言葉・・・。

千影「・・・帰るよ・・・・・・亞里亞くん」
亞里亞「?」
千影「寄りたい店が・・・・・・あるんだ。 喫茶店につき合ったんだから・・・・・・今度は私の買い物につき合って貰うよ」
亞里亞「は、はい」

 戸惑う亞里亞ちゃんを促して、そして、歩き出す。

千影「それじゃあ・・・・・・ふたりとも」
鈴凛「・・・うん」
鞠絵「・・・・・・」

 鞠絵ちゃんは、ただじっと姉の後ろ姿を見送る。

 一度も目を離すことなく・・・。

 そして・・・。

鞠絵「・・・ばいばいです、姉上様」

 小さく、そう呟いていた・・・。


更新履歴
H15・12/28:完成


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