現国の授業が続いていた。
アタシは適当に教科書を机の上に開いて、そこにメカの設計図を書いていた。
でも、尺度とかは適当、多分このメカを作ることはないだろう・・・。
でも、そんなことはどうでも良かった。
もとより真面目に授業は受けていない。
ええ、どうせ私は不真面目ですよッ!(←逆ギレ)
もっとも、これがメカ関係でアタシの興味のある授業でも、最初から授業に集中してたとは思えないけど・・・。
鈴凛「・・・今日も、寒そうね」
左手で頬杖をつきながら、揺れる木々を眺める。
その視界を、白い粉が一瞬だけ遮り、そしてまた同じ景色に戻る。
雪は降ってなかった。
おそらく、風にさらされて、屋上に積もった雪が舞い落ちたのだと思う。
鈴凛「・・・・・・」
コツコツと黒板を白いチョークが叩く音。
他の生徒はたちはまじめに授業を聞いているのか、それとも寝ているのか、平気でキャンディー喰ってるのか、魔術書の解読をしているのか。
6時間目の教室は、静寂しかなかった。
鈴凛「・・・・・・」
あと、15分。
教室の壁にかかった時計。
左手の腕時計にも目をやる。
やはり、あと10分。
・・・・・・。
ずれてた。
薄ぼんやりと漂う空気の中、アタシは昨日の鞠絵ちゃんとの会話を思い出していた。
『・・・ねぇ、明日学校サボらない?』
『どうしたんですか? 急に・・・』
『学校サボって、朝からずっと一緒にいよう』
『・・・・・』
『時間があれば、いろんな場所に行けるし・・・』
『鈴凛ちゃん』
アタシの言葉を、鞠絵ちゃんが穏やかに遮る。
『そんなこと言うと、まるで・・・』
『もうすぐ会えなくなるみたいじゃないですか・・・』
そう言って笑った。
最後の言葉。
アタシは鞠絵ちゃんの顔を見てない。
だから、その言葉を紡いだ時の鞠絵ちゃんの表情を、アタシは知らない。
『明日の放課後、一緒に遊びましょう』
『・・・そうね』
『約束ですよ。 放課後校門で待っていますから』
鈴凛「・・・・・・」
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン・・・
アタシの思考を、現実のチャイムが遮る。
おもむろに鞄に道具を詰めて・・・
亞里亞「鈴凛ちゃん・・・」
鈴凛「ん?」
亞里亞「ぼーっとしてちゃダメなの・・・まだ授業中なの・・・」
鈴凛「え、だって今、チャイムが・・・」
・・・・・・。
ふと壁の時計を見ると、まだ授業時間だった。
じゃあ今聞いたチャイムは・・・
ちかピー「ΨΞΛΘΓΠΩΣΔ・・・」
・・・・・・。
訂正、
アタシの思考を、幻術のチャイムが遮る。
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン・・・
なんてバカなことやってるうちに、今度こそ現実のチャイムが鳴る。
教室がざわめき、担任がやってきて、その間にちかピーの顔面に一発入れとく。
長かった授業が終わり、これで放課後。
亞里亞「鈴凛ちゃん、ほうきとおかし、どっちが好き?」
右手にほうきを持って、亞里亞ちゃんが不思議空間爆発させながらアタシの前に立ち塞がった。
鈴凛「お菓子」
亞里亞「・・・・・・」
鈴凛「・・・それがどうした」
亞里亞「亞里亞はおかしが好きなの・・・。 でも、ほうきさんは嫌い・・・」
鈴凛「・・・・・・」
亞里亞「だから、亞里亞はおかしを選ぶの・・・。 だから、鈴凛ちゃんはほうき☆」
鈴凛「脳細胞にうじむs(全国の兄やを敵に回したくないので削除)のか?」
亞里亞「でも掃除当番なの。 きちんとしないとダメなの」
鈴凛「・・・マジ?」
亞里亞「まじなの〜☆」
鈴凛「って言うか何で掃除でお菓子という選択肢が存在するの!?」
亞里亞「亞里亞はおかしが好きなの」
鈴凛「知ってる」
亞里亞「だから、亞里亞はおかしを喰べるの☆」
鈴凛「その答えが出るまでの過程の説明を事細かに証明しなさい!!」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
鞠絵『遅いですっ』
待ち合わせの場所に顔を見せるやいなや、ふくれ顔の鞠絵ちゃんが、拡声器片手に待っていた。
鞠絵「こんなメガネの女の子を待たせるなんて、ひどいです・・・」
鈴凛「メガネに何の関係が?」
鞠絵「そんな人、コンクリートに摘めて海に投げ棄ての刑です」
鈴凛「いや、ゴメン」
鞠絵「ずっと待ってたんですよ」
鈴凛「元気だね、鞠絵ちゃん」
鞠絵「そんなこと言って誤魔化さないでください」
鈴凛「でも、そんな言うほど遅れなかったと思うけど」
鞠絵「それでも、すごく寒かったんですから」
鈴凛「ゴメン、アタシが悪かった」
鞠絵「・・・分かりました。 今日は許してあげます」
鈴凛「・・・・・・」
鞠絵「どうしたんですか?」
鈴凛「・・・いや、凶器が出ないから・・・」
鞠絵「・・・・・・」
鈴凛「・・・・・・」
鞠絵「・・・制服のポケットとは・・・繋がってないんです・・・」
鈴凛「・・・・・・」
なるほど、つまり私服のポケットじゃないと亜空間に繋がってないわけか・・・。
鞠絵「鈴凛ちゃん、早く行きましょう」
鈴凛「そうね」
遅れた分は、ちゃんと取り返さないとね。
先をゆく鞠絵ちゃんを追い越すように、アタシも走り出す。
鞠絵「あっ! 置いていかないでください」
短い冬の太陽が、ゆっくりと地面に落ちていた。
あと5回太陽が沈む時・・・。
鈴凛「気合よ! 気合で走るの!」
鞠絵「その精神コマンドはわたくしにはないんです〜!」
鞠絵ちゃんのゲーム漬けの日々が始まる・・・。
この瞬間も、やがて思い出に還る・・・。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
学校を出てから商店街までの十数分。
風にさらされた雲が流れるように、空の色が変わっていた。
赤く染まる商店街。
赤い道。
赤い人。
赤い影。
赤い雪。
鞠絵「・・・綺麗・・・ですね」
無邪気に喜ぶ鞠絵ちゃんの体も、赤く染まっている。
鞠絵「わたくし、こんなカエル初めて見ました」
鈴凛「何を見とんだ!?」
鞠絵「鈴凛ちゃん、これでもムードって言うものがあるじゃないですか」
鈴凛「まったくもって一切無いと断言します」
うっすらと滲んだ瞳も赤く染まっていた。
たくさんの赤・・・。
鞠絵「鈴凛ちゃん」
腕を引っ張りながらアタシの名前を呼ぶ。
鞠絵「どこに行きます?」
鈴凛「そうだなぁ・・・」
さっきよりも更に傾いた太陽。
あんまりのんびりしている時間もなさそうだった。
とは言え、穴場を知っているほどこの町での暮らしは長くない。
鞠絵「ウィンドウ“ズ”ショッピングなんてどうですか?」
鈴凛「それはパソコンを買うと言いたいの?」
掴んだ手を引っ張るように、鞠絵ちゃんが夕暮れの町を歩き出す。
鈴凛「何かいいものがあったら、アタシが買ってあげるよ」
鞠絵「本当ですか!!!!!?」
鈴凛「何でそんなに驚くの」
鞠絵「だって・・・鈴凛ちゃんですから・・・」
不思議と理由になってる気がすることが悲しい・・・。
・・・でも、そのことについて話したっけ?
鈴凛「パソコンはヤダよ、あんまりお金ないから」
鞠絵「いくらくらいまでならいいんですか?」
鈴凛「回転寿司のイクラくらいまで」
鞠絵「・・・鈴凛ちゃん、最初から買う気ないのですね」
鈴凛「でも、手持ちそれくらいしかないし・・・」
鞠絵「そうなんですか?」
鈴凛「そうなの」
鞠絵「じゃあ仕方ありませんね」
本当はもう少し持ってるけど、このお金はプレゼントを買おうと思って取っておきたいのだ。
まだ何を買おうか決まってないけど、今月中には何とかしないとね。
なので、そのために鞠絵ちゃんが何を欲しがってるかつきとめなくてはいけない。
しかも、本人に気づかれないように。
鈴凛「ねぇ、鞠絵ちゃん」
とりあえず、遠回しに欲しい物をチェキしよう。
鞠絵「なんですか?」
鈴凛「仮にアタシの財布がいっぱいに満たされたら何買って欲しい?」
鞠絵「そんな事起こり得ません」
鈴凛「・・・・・・」
鞠絵「奇跡は起こせないから、奇跡、なんですよ」
鈴凛「・・・それはそんなに奇跡的なことなの?」
遠回し過ぎたのか、再び名台詞(?)を使ってずばぁっと斬られた・・・。
鞠絵「変な鈴凛ちゃん・・・」
鬼な鞠絵ちゃん・・・。
まぁいいか。 まだ時間はあるんだし・・・。
まだ・・・。
鞠絵「あ、あのぬいぐるみ可愛いと思いません?」
立ち並ぶ店の一軒を指しながら、鞠絵ちゃんが声を上げる。
鈴凛「・・・・・・アレはぬいぐるみじゃなくて剣道の打ち込み台」
少なくとも可愛いとは思えない。
鈴凛「とりあえず、次のお店行こう」
先に歩き始める。
鞠絵「鈴凛ちゃん・・・」
その表情は、笑顔だった。
声「鞠絵ちゃんっ!」
鞠絵「げふぅっ」
突然隣を歩いてたはずの鞠絵ちゃんの姿が、カエルのような声と共に消える。
咲耶「うぅ・・・びっくりした・・・」
鞠絵「わたくしもびっくりしました・・・」
地面を見ると、咲耶ちゃんと鞠絵ちゃんがもつれるように・・・
・・・違う、咲耶ちゃんが鞠絵ちゃんに技を仕掛けたように倒れこんでいる・・・。
鈴凛「・・・何てことしてるの?」
鞠絵「わたくしは知りません・・・」
ふらふらと立ち上がる。
鈴凛「ってことは・・・」
咲耶「え? 私はただ鞠絵ちゃんにカー○ブランディングをしただけよ」
鈴凛「何テキサスブロンコ魂ぶちかましてるのよ」
咲耶「なによ・・・挨拶じゃない・・・」
鞠絵「だ、大丈夫です・・・ちょっと焼印押された仔牛の気分になっただけですから・・・」
鼻から噴き出す鼻血を、ごしごしと拭っている。
鈴凛「咲耶ちゃん、せめて相手を選んでね・・・」
咲耶「そうね、ハ○ケーンミキサーにしとけば良かったわ」
鈴凛「技じゃなくて相手を選んで」
って言うかより強力な技だと思うんですけど。
鞠絵「ああ・・・私服だったら反撃できたのに・・・」
『暴走特急VS全身凶器』
この試合のキャッチフレーズね。
咲耶「久しぶりに会えたから嬉しかったのよ」
鈴凛「それで、何の用なの?」
咲耶「だから、久しぶりに会えたから嬉しかったのよ」
鈴凛「つまり、用はないのね」
咲耶「妹に話しかけるのに理由がいるの?」
鞠絵「・・・やっぱり鈴凛ちゃんの姉上様なんですか?」
咲耶「そうよ、この子の実姉」
鈴凛「そう、消してしまいたい絆・・・」
咲耶「今なんか言った?」
鈴凛「気ノセイ気ノセイ」(←棒読み)
咲耶「ま〜たふたりでお出かけぇ?」
鈴凛「まぁね」
鞠絵「はい」
アタシと鞠絵ちゃんが同時に頷く。
咲耶「鈴凛ちゃんと鞠絵ちゃんって、やっぱり怪しい関係みたいね」
鈴凛「違うよ」
咲耶「そうなの?」
鈴凛「アタシたち・・・本当に恋人同士なの」
咲耶「・・・・・・ヘンタイ」
鞠絵「ヘンタ〜イ♪」
鈴凛「・・・って、鞠絵ちゃんまで」
鞠絵「冗談です」
咲耶「やっぱり仲いいわね。 ただでさえ怪しいんだから、そう言う誤解を招くような冗談はやめなさいよ」
アタシたちのやりとりを咲耶ちゃんは笑いながら眺めていた。
言葉からすると、どうやら信じてないみたいだ。
折角(どんなに泣きわめいても)実姉だから教えてあげたのに。
まぁ、いいけど・・・。
鈴凛「それで、咲耶ちゃんは何してるの?」
咲耶「私は探し物よ」
そう言って、力なく笑う。
今まで小憎たらしく笑っていたのとは打って変わった表情なので、ちょっと引っ掛かった。
鈴凛「・・・大切なものなの?」
咲耶「ええ。 もうすぐで見つかると思うけど」
鈴凛「そう・・・。 とにかく見つかるといいね」
咲耶「ええ」
鞠絵「事情はよく分からないですけど・・・がんばってください、義姉上様」
咲耶「なんか妙に引っ掛かる呼び方だけど・・・ありがと、鞠絵ちゃん」
元気に頷く咲耶ちゃんの表情に、どこか疲れが見て取れた。
・・・年か?
鈴凛「ねぇ、咲耶ちゃん」
咲耶「・・・ん?」
鈴凛「疲れてるんじゃない?」
咲耶「全然そんなことないわよ。 私をなめるんじゃないの、アンタの姉よ」
鈴凛「・・・だったらいいけど。 あんまり無理しないでよ」
咲耶「あら珍しい、アンタが心配するなんて」
鈴凛「じゃあ心配しない・・・」
咲耶「冗談よ。 心配してくれてありがと。 じゃあ私、そろそろ行くから」
鈴凛「またね、咲耶ちゃん」
鞠絵「またです、義姉上様」
咲耶「・・・うん? ばいばい、鈴凛ちゃん、鞠絵ちゃん」
鞠絵ちゃんの呼び方に対して、疑問に思いつつ、手を振って、そして走っていく。
鞠絵「・・・・・・」
その姿をじっと見送る鞠絵ちゃん。
結局、プレゼントも決まらないまま、また1日が終わる・・・。
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