キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン・・・


亞里亞「鈴凛ちゃん・・・お昼休みなの」
鈴凛「知ってる」
亞里亞「お腹すきました」
鈴凛「アンタは満腹中枢やられて年中空腹でしょ」

 隣の席の亞里亞ちゃんとそんなやりとりを交わしながら、ふと斜め後ろの席を見ると、そこは既に無人だった。

鈴凛「千影ちゃん、また居ないね」
亞里亞「・・・はいなの。 学食にも来ていないの」
鈴凛「・・・・・・」
亞里亞「・・・鈴凛ちゃんは・・・どうするの?」
鈴凛「アタシは・・・・・・悪いけど、今日も学食はやめとく」
亞里亞「餓死希望?」
鈴凛「食べないことを死と直結させない」

 亞里亞ちゃんにとって、“食”はそれくらい重要なことかもしれないけど・・・。

鈴凛「時間があったら食べるから・・・」

 曇った窓を一瞥してから席を立つ。

亞里亞「良かったら、鈴凛ちゃんの分も喰べておくの☆」
鈴凛「それはまったく無意味

 代わりにトイレに行くね、と同レベルね。


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


 すぐに見慣れたその場所は、いつもと変わらない佇まいを見せていた。
 一面の雪(と腐った地面)。

 そして、不気味な顔。

千影「・・・・・・」

 昨日と同じ場所に、美坂千影が立っていた。

千影「・・・鈴凛くん」

 表情以上に冷たい声で、アタシの名前を呼ぶ。

鈴凛「お昼も食べないで何やってるの?」
千影「・・・・・・不気味とは・・・・・・普段・・・・・・君が私の事をどう思っているのか・・・・・・よく分かったよ」
鈴凛「・・・・・・」

 心を読まれた?
 い、いや、そんなはずは・・・

千影「・・・・・・」

 鞠絵ちゃんに似てると思った。
 その常識を無視した非常識な行為の数々が、千影ちゃんの雰囲気にぴったりだった。

鈴凛「・・・鞠絵ちゃん、家で大人しくしてるの?」
千影「・・・・・・」
鈴凛「それとも、もう制服着て普通に登校してるの?」
千影「・・・鞠絵って・・・・・・一体誰のことだい・・・」

 以前にも全く同じ台詞を聞いたことがあった。

千影「・・・私には・・・・・・妹なんか・・・・・・いないさ」
鈴凛「一言も妹なんて言ってないわよ」
千影「・・・・・・」
鈴凛「・・・・・・」
千影「・・・・・・鈴凛くんは・・・・・・知らないと思うが・・・・・・」

 しゃりっ、雪を踏む音がする。

千影「この場所は・・・・・・今は大した事はないが・・・・・・。
   雪が溶けて・・・・・・暖かくなった頃くらいに・・・・・・周期的に魔力の集まる場所なんだ」

 記憶を辿るように瞼を伏せる。

千影「休み時間に・・・・・・魔力的な実験をするには最適な場所。
   ・・・・・・一般人にそんなことを言っても・・・・・・全く意味は無いがね」
鈴凛「・・・それは、千影ちゃん限定で暖かくなるのが楽しみそうね」
千影「その頃には・・・・・・私達は3年生さ・・・・・・」
鈴凛「もう1回2年生の可能性だってあるわよ」
千影「さすがに・・・・・・3回も2年生をやるつもりはないさ・・・・・・」
鈴凛「・・・・・・」

 ・・・なんとなく年上って気はしてたけど・・・落第してたのね・・・。
 あ、でも、そう言う儀式のためにわざと赤点とってそう・・・

千影「そう言うことさ・・・・・・」

 ・・・・・・。

 また心を読まれた!?
 えっ・・・ってことは今までの全部筒抜け!?

千影「いや・・・・・・読もうと思ってないと・・・・・・読めない。 だから・・・・・・普段は大丈夫さ」

 ああ、それなら安心・・・・・・できるかっ!!

鈴凛「とにかく・・・だったら、揃って3年ね」
千影「私が・・・・・・その時この学校に居たら・・・・・・だけどね」
鈴凛「魔界にでも帰るの?」
千影「・・・・・・そうだな」

 ・・・いや、否定してよ・・・。

千影「この町は・・・・・・悲しいことが多かったから・・・・・・」
鈴凛「・・・・・・」
千影「暖かくなったなら・・・・・・この場所で・・・・・・一緒に実験をしながら・・・・・・お弁当を食べると約束したこと・・・・・・」

 学校側が許可するか?

千影「そして・・・・・・そんな些細な約束を・・・・・・彼女が楽しみにしていたこと」

 あんまり些細じゃないと思うよ。

千影「全部・・・・・・悲しい記憶・・・・・・」

 まるで独り言のように、最後の台詞を囁く。

千影「私は・・・・・・そろそろ戻らせてもらうよ」

 無音で千影ちゃんが足元から消えていく。

千影「ここは・・・・・・寒いからね・・・・・・」

 そのまま全身が消える。

鈴凛「・・・寒いんだったら、来なきゃいいでしょ」

 見上げた教室の窓の向こう側に、既に移っているクラスメートを見届けて、アタシも校舎の中に戻る。

 その時、冷たい扉の向こう側に見た風景。
 また、誰も居なくなった寂しい場所・・・。

 雪の上の足跡が、まるで傷跡のように残っている・・・。
 さしずめアレ(剥き出して腐っている部分)は化膿と言ったところだろう・・・。

鈴凛「・・・・・・」

 いつもと同じ・・・。


 寂しくて・・・。


 悲しくて・・・。



 ・・・そして、鞠絵ちゃんのことが本当に好きだと言うことに気づいた場所。



鈴凛「・・・・・・」


 静かに扉が閉まり、そして休み時間の喧騒が戻っていた。


更新履歴
H15・11/16:完成


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