キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン・・・


 土曜日の短い授業が、何事もなく過ぎ去っていく。
 って言うか、これは前にも言ったが、なんでこの学校は未だに土曜日に授業があるんだ?

亞里亞「鈴凛ちゃん・・・放課後なの」

 まったく・・・。
 どうやらアタシは、俗世間から隔離された時の止まった世界に・・・

亞里亞「話聞けやこの金食い虫っ!!」
鈴凛「うわぁっ!!」

 亞里亞ちゃんのことを怒らせて『裏亞里亞』を出してしまった。
 ・・・ところで、アタシはこの町に来てから資金援助を求めた記憶はないのだが、何故に金食い虫?


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


 で、中庭。

鞠絵「あ、鈴凛ちゃん」

 アタシの姿を見とめて、鞠絵ちゃんが元気に手を振る。

鞠絵「鈴凛ちゃんっ、鈴凛ちゃんっ」
鈴凛「そんなに呼ばなくても分かってるって」
鞠絵『鈴凛ちゃんっ!! 鈴凛ちゃんっ!!
鈴凛「うるさいっ!!」

 ポケットから拡声器を取り出してはしゃいでアタシの名前を呼ぶ。
 一体、あのポケットの中にはどこまで用意されてるんだ?

鞠絵「今日は土曜日で学校が休みなので、ちょっと嬉しいんです」
鈴凛「うちの学校は違うけどね。 それと休んでるから関係ないでしょ」
鞠絵「そんな事ないです。 気分の問題ですよ」

 ストールに触れていた手を、ぎゅっと胸元で握り締める。

鈴凛「その格好、寒いんじゃないの?」
鞠絵「そっただことねぇべ」

 ・・・何故なまる?

鈴凛「なんでアタシ達、こんな所で待ち合わせしてるんだろうね」
鞠絵「そうですね・・・」

 ふたりで顔を見合わせてから改めて辺りを見る。
 雪だけに囲まれて(一部の土はむき出して腐っているけど)、人を待つには最悪の立地条件だった。

鞠絵「校舎裏でデートの待ち合わせをしているのって、恐らくわたくし達くらいですよね」
鈴凛「いや、だからね、デートじゃなくて・・・」
鞠絵「そうでしたね」

 うふふっと笑いながら、鞠絵ちゃんが歩き出す。

鞠絵「今度は別の場所がいいですね」
鈴凛「そうね。 できれば学校じゃない場所で」
鞠絵「考えておきます」

 それから、少し首を傾げるような仕草で空を見上げる。

鞠絵「今日はいいお天気ですね」
鈴凛「そうね」

 同じように空を見上げる。

鞠絵「そろそろ逝きましょうか、鈴凛ちゃん」
鈴凛「字違う!」

 すかさずツッコム。

鞠絵「・・・普通ですね。 43点です」

 ・・・なんか採点された。

鞠絵「・・・まぁ、基本的なボケですから・・・、そのくらいのツッコミでガマンします・・・」

 ・・・“ガマンする”とか言われた。

鈴凛「・・・で、どこ行く?」
鞠絵「わたくしが決めていいんですか?」
鈴凛「ただしこの町内限定。 別次元、亜空間、あと命の危険があるトコは却下」
鞠絵「・・・ちぇっ」

 ・・・そう言う所を言おうとしたな。

鞠絵「じゃあ海で」
鈴凛「時期を考えようね!」
鞠絵「・・・じゃあ商店街でいいです」

 ふてくされながらそう言う。

鈴凛「海は夏になったら連れてってあげるから」

 ふてくされっ放しって言うのも嫌だから、そう言ってなだめた。
 その頃には鞠絵ちゃんの風邪も治ってるだろうし。

鞠絵「鈴凛ちゃん、もし宜しかったらわたくしが知っている場所に案内しましょうか?」
鈴凛「・・・そうだね、アタシも大した場所知らないし、鞠絵ちゃんの知ってる場所にしようか」
鞠絵「・・・本当にいいんですか?」

 ・・・鞠絵ちゃんのメガネが怪しく光った。

鈴凛「やっぱ商店街にしよう!」
鞠絵「・・・今のは冗談ですよ」

 冗談でメガネを自分の意思で光らせれるものなのか?

鞠絵「でも、やっぱり今日のデートは商店街にしましょう」
鈴凛「えっ、なんで?」
鞠絵「わたくしの知っている場所は、次の機会にとっておきます」
鈴凛「まぁ、アタシはどっちでもいいけど・・・」
鞠絵「切り札は最後まで取っておくものですし」

 どこのハードボイルドだ?

鞠絵「行きましょう、鈴凛ちゃん」

 アタシの手を引っ張るように、嬉しそうに歩き出す。

鈴凛「・・・言っておくけど、デートじゃないでしょ・・・女の子同士なんだし・・・」
鞠絵「早く行きましょう、鈴凛ちゃん」

 もう一度同じ言葉を繰り返して、ふたり分の足跡を雪の上に残しながら、
 アタシ達は誰もいない中庭を後にした。


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


 土曜日の商店街は、大抵学校帰りの生徒で賑わっている。
 この場合も、その大抵に含まれていた。

鞠絵「わぁ・・・人がたくさん居ますね・・・」
鈴凛「確かに今日は多い方ね」

 この天気のせいなんだろう。

鞠絵「そうなんですか?」
鈴凛「だと思うけど」
鞠絵「わたくし、あまり人の多いところに行ったことはないので、ちょっと新鮮です」
鈴凛「でも、商店街くらい行った事ない?」
鞠絵「ありますけど、こんなに人の多いときに来たのは初めてです」

 そう言って人ごみを見渡した鞠絵ちゃんの表情は、どこか楽しそうだった。

鞠絵「・・・人“以外”なら見慣れてるんですけど・・・」

 ・・・・・・。

 ・・・アタシは今何も聞かなかった。(←現実逃避)

鞠絵「逝きましょう、鈴凛ちゃん」
鈴凛「命の危険があるトコは却下っ!」

 字が字なのでそう言う。

鞠絵「64点」

 また採点された・・・。

鞠絵「あ」

 商店街の一角を指さして、鞠絵ちゃんが声をあげる。

鞠絵「あれは、ゲームセンターですよね?」
鈴凛「ラーメンって書いてるよ・・・」
鞠絵「冗談ですよ。 本当はあちらです」
鈴凛「あれならそうだけど、そんなに珍しい?」
鞠絵「わたくし、一度でいいからゲームセンターでゲームをしてみたかったんです」
鈴凛「・・・ってことは、今まで一度も・・・?」
鞠絵「中に入ったことすらないです」
鈴凛「変なの」
鞠絵「変じゃないですよ」

 ・・・まぁ、今までの言動を振り返ってみたら、こんなささいな事全然変じゃないか。

鞠絵「・・・今、変なこと考えていませんでした?」
鈴凛「別に。 じゃ、ちょっと寄ってこうか?」
鞠絵「はい、お願いします・・・」
鈴凛「・・・で、何かやってみたいゲームとかある?」
鞠絵「麻雀をして、勝ったら相手の服を脱がす・・・」
鈴凛「ちょっと待ったぁーッ!!」
鞠絵「“ちょっと待ったコール”ですか?」
鈴凛「違うっ! ・・・あ、いや、違わないけど・・・、いや・・・違う、のか・・・?」

 この場合どっちなんだろう?

鞠絵「冗談ですよ。 だいいち、わたくし麻雀なんてルールから知りませんし」

 ・・・まぁ、なんにせよ冗談で良かった。

鈴凛「そう言うタチの悪い冗談は止めてね・・・」

 って言うか、ゲームセンターに入ったことないくせに、どうしてそう言うのが在るって知ってんだか・・・。

鞠絵「あ、これ面白そうですね」

 そう言って店先の置かれている大きな機械を指す。
 オモチャでできたような銃が専用のケースに収められている。
 ガンシューティングとか言うやつだ。

鈴凛「・・・ちょっと難しくない?」
鞠絵「そうですね・・・」

 しかし、何でこんなもんを店先に置くかな、この店は・・・。

鞠絵「射撃は苦手ですが、四の五の言ってられません」

 自分で選んだんだろ?

鞠絵「それに銃器の扱いなんて、ただ引き金を引けばいいだけですし・・・」
鈴凛「使ったことあるの!?」

 ポケットに用意されてそうで怖いなぁ・・・。

鈴凛「・・・まぁ、試しにやるんだし・・・別に何でもいいか」

 財布の中からコインを取り出し、投入口にカシャカシャと放り込む。

鞠絵「あ、はじまりました」

 画面がデモムービーからスタート画面に移り変わりった。
 このゲームはなにやら警官になりきって、テロリストやらを撃つゲームらしい。

鞠絵「・・・緊張しますね」

 銃を右手でぎゅっと握りしめて、言葉通り緊張した面持ちで筐体を見つめる。

鞠絵「・・・・・・」
鈴凛「・・・・・・」
鞠絵「・・・・・・」
鈴凛「・・・・・・」
鞠絵「・・・えっと」
鈴凛「とりあえずスタートを押そうね・・・」

 なかなかゲームがはじまらない事に戸惑う鞠絵ちゃんに、スタートを押さないとはじまらない事を教えた。


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


鞠絵「・・・・・・」
鈴凛「・・・・・・」
鞠絵「・・・・・・」
鈴凛「・・・・・・」
鞠絵「・・・終わっちゃいましたね」
鈴凛「・・・うん」

 開始20秒ほどだろうか。

鈴凛「ただ引き金を引く事すらできなかったね」
鞠絵「・・・・・・」

 鞠絵巡査の殉職が告げられた。

鞠絵「・・・所詮、人の肉体なんて脆いものですから」
鈴凛「いや、普通撃たれたら死ぬって・・・」

 当たり所にもよるけど・・・。

鈴凛「ほ、ほら・・・まだできるみたいだから」
鞠絵「え? そうなんですか?」

 どうやらこのゲームは1コイン2ゲームらしい。
 つまり鞠絵ちゃんはコンテニューできるわけだ。

鈴凛「ほら、もう一回スタート押して」
鞠絵「あ、はい」

 再びスタートを押す。

鞠絵「今度はただでは死にません」
鈴凛「死ぬ事前提?」


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


鈴凛「・・・・・・」
鞠絵「・・・・・・」
鈴凛「・・・・・・」
鞠絵「・・・・・・」
鈴凛「・・・終わっちゃったね」
鞠絵「・・・ええ」

 再び鞠絵巡査の殉職が告げられた。

鞠絵「で、でも引き金は引けました」
鈴凛「・・・だね」
鞠絵「き、きちんと弾も当たりました」
鈴凛「・・・だね」

 確かに鞠絵ちゃんの言う通りなんだけど・・・。

鈴凛「・・・アタシ、人質しか撃たない警官なんてはじめて見た」

 全て誤殺。
 弾は狙ったかのように助けるべき人質数人に向かって飛んでいった。

鈴凛「テロリストよりタチ悪いね・・・」
鞠絵「・・・どーせ、わたくしは射撃が苦手ですよ」
鈴凛「いや、あそこまで正確に人質に当てるなんてなかなかできるもんじゃないよ」
鞠絵「そんな事言う人、今の人質と同じ運命を辿ってもらいますよ」
鈴凛「冗談だって」
鞠絵「冗談でも傷つきました」
咲耶「そうね、鈴凛ちゃんが悪いわ」
鈴凛「・・・どなたですか?」
咲耶「何寝ぼけてるのよ、私よ」

 いつからそこに居たのか、咲耶ちゃんが会話に参加してくる。

鞠絵「えっと・・・」
咲耶「久しぶり、鞠絵ちゃん」
鞠絵「・・・鞠絵・・・ちゃん?」

 戸惑うようにストールをぎゅっと握りしめる。

咲耶「あ・・・さっき鈴凛ちゃんが名前呼んでるのを聞いたのよ」
鞠絵「そうですか・・・」

 少し表情が柔らかくなる。
 どうやら納得したようだ。

鞠絵「えっと、お久しぶりです・・・」
咲耶「ええ。 元気だった?」
鞠絵「学校を休んでいますから、元気ではないですね・・・」
咲耶「え・・・? そうなの?」
鞠絵「エボラ出血熱ですから、もうすぐ・・・」

 逝っちゃうね、エボラだと。

咲耶「それは大変ね・・・私も気をつけないと」
鞠絵「流さないでください!」

 鞠絵ちゃんが怒った。
 やはりボケとしてはツッコミがないのは寂しいものなんだろう・・・。

鈴凛「咲耶ちゃんは大丈夫でしょ」
咲耶「どうして?」
鈴凛「鋼鉄の肉体をもっているから」


    ズガァンッ


咲耶「殴るわよ」
鈴凛「・・・殴ってから言わないで」
鞠絵「・・・55点」

 また採点してるし。

咲耶「・・・何? 55点って?」
鞠絵「既にありきたりですから・・・」
咲耶「だから何が・・・?」

 咲耶ちゃんはよく分からずにいた。

 でも、ありきたりなのに55点は良い方なのでは?
 ・・・鞠絵ちゃんの採点基準はよく分からない。

鈴凛「こんなところで何やってるの? 咲耶ちゃん」
咲耶「ゲームセンターに来てやることはひとつでしょ」
鈴凛「ストレス解消に気の向くままにゲーム機器の破壊」
咲耶「違うわよっ!」
鞠絵「脱衣麻雀ですか?」
咲耶「もちろ・・・・・・違うわよっ!!」

 今“もちろん”とか言いそうになってなかった?

咲耶「・・・で、鈴凛ちゃんたちは? ・・・もしかしてデート?」
鈴凛「アタシ達女の子同士だよ」
咲耶「・・・ヘンタイ」
鈴凛「ちょっとマテ」
咲耶「冗談よ」
鈴凛「じゃ、アタシ達はそろそろ行くから」
咲耶「ええ、またね」
鞠絵「失礼します」
咲耶「じゃあね〜」
鞠絵「えっと・・・じゃあね・・・です」

 相変わらずツインテールを上下に揺らして、無意味に元気よくゲームセンターに入っていく。
 咲耶ちゃんと別れて、アタシ達はまたふたりに戻った。


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


鞠絵「・・・あ、もうこんな時間に・・・」

 赤く染まる街頭の時計を残念そうに見つめる鞠絵ちゃんの顔も、今ではオレンジ色に染まっていた。

鈴凛「そろそろ帰らないと、真っ暗になるね」
鞠絵「鈴凛ちゃん、今日は本当に楽しかったです」
鈴凛「アタシも面白かった。 特に鞠絵巡査の大量誤射殺事件」
鞠絵「全然面白くないです」

 赤い笑顔のまま・・・。

鞠絵「見ててください、わたくし、密かに特訓して上手になりますから」
鈴凛「鞠絵ちゃん、実は負けず嫌い?」
鞠絵「負けるのが好きな人間なんていません」

 それもそうか。

鈴凛「分かった、期待しとく」

 でも実弾での練習は止めてよね。

鞠絵「本当に上手になりますから・・・」

 真剣な表情で、そして上を向く。

鞠絵「鈴凛ちゃん、また今度ご一緒していただけますか?」
鈴凛「そうねぇ・・・風邪が治ったらね」
鞠絵「・・・・・・」
鈴凛「・・・そうよね、約束よ」
鞠絵「はいっ、約束です。 ・・・そう言えば、来週の火曜日が午前中で終わりって知っていますか?」
鈴凛「午後から休みなの?」
鞠絵「はい。 なんでも、次の日に大きな行事があるみたいでその準備だそうです」
鈴凛「じゃあ、その日にまた遊びに行こうか?」
鞠絵「わたくしは大丈夫ですけど、鈴凛ちゃんは予定ないんですか?」
鈴凛「予定も何も、半日ってこと自体知らなかったんだから大丈夫よ」
鞠絵「それもそうですね」

 楽しそうにふふっと笑う。

鞠絵「それなら、来週の火曜日はデートです」
鈴凛「時間と場所は?」
鞠絵「時間は、今日と同じく1時で構いませんか?」
鈴凛「アタシは大丈夫」
鞠絵「それから、場所ですけど・・・」
鈴凛「・・・ちなみに、デートじゃないからね」
鞠絵「商店街のどこか、にしましょうか?」

 アタシの言葉はいつも通り無視されていた。

鈴凛「うーん、商店街はちょっと・・・。 そうだ、駅前は?」
鞠絵「分かりました。 それでは駅前に1時」
鈴凛「じゃあそこで」
鞠絵「それでは、今日はこれで失礼します」

 ぺこっとお辞儀をして、アタシとは反対の方向に歩いていく。

鞠絵「・・・・・・」

 2、3歩あるいたところで、ふと振り返る。

鞠絵「じゃあね・・・です、鈴凛ちゃん」

 恥ずかしそうに、小さく手を振る。
 そして、そのまま走るように夕暮れの商店街に消えていった。

 


更新履歴

H15・10/13:完成
H17・1/6:更に修正


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