キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン・・・


亞里亞「鈴凛ちゃん、お昼休みなの」

 先生が教室を出るのと同時に、亞里亞ちゃんがあたしの席の前に現れる。

亞里亞「今日もひとりでお外?」
鈴凛「そうよ」
亞里亞「・・・どうしてお外なの?」
鈴凛「さぁ、なんでだろ・・・」
亞里亞「ごまかしてる?」
鈴凛「ううん、本当に」

 それは本心からだ。
 鞠絵ちゃんが毎日学校に姿を見せる理由・・・。
 そして、そんな鞠絵ちゃんに毎日つきあっている自分の気持ちさえも分からない・・・。

亞里亞「・・・風邪、気をつけて」
鈴凛「大丈夫、アタシって結構丈夫みたいだから」

 いっつも暴言を吐いて、アタシを精神的に追い込もうとしている(?)亞里亞ちゃんが、
 珍しく心配してくれたのでアタシはちょっと驚いていた。
 まぁ物珍しいし、その言葉は素直に受け取っておこう。

鈴凛「じゃあ、ちょっとカエルの丸焼き食べてくる」
亞里亞「かえるさん・・・・・・じゅるり・・・」
鈴凛「・・・亞里亞ちゃん、よだれ・・・」


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


 いつものように、渡り廊下に通じる扉を開けて外に出る。
 昨日の風景が嘘のように、仰いだ空は澄み渡っていた。
 それでも、昨日の雪が夢でないことは、真っ白に染まった地面を見れば分かる。
 小さな足跡さえない雪の絨毯。

鈴凛「・・・・・・」

 そんないつもと変わらない場所に、いつもの少女の姿はなかった。

鈴凛「・・・・・・」

 時計を持ってないから分からないけど、もう休み時間に入って10分は経過したと思う。
 いつもならアタシより先にこの場所に立っているはずの少女。

鈴凛「遅刻かな・・・」

 しばらく、その場所でじっと空を見上げる。

鈴凛「カエル・・・冷めちゃうよ・・・」

 鞠絵ちゃんのために買ってきたカエルの丸焼きが2串。
 またもや哀しい目でアタシを見ていた。


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


 時間と風だけが過ぎていった。
 でも、アタシはこの場所を動くわけにはいかなかった。


    『来てもいいって言われたら、どんな事をしても来ます』


鈴凛「・・・・・・」

 ・・・・・・。

 後ろからマイクの調子がおかしい時に聞こえるキィーーンッ、という音が聞こえた。

鈴凛「・・・・・・」

 振り返るとアタシの少し後ろの空間が裂けていた。
 ・・・いや、比喩とかそんなんじゃなくてホントに・・・。

鈴凛「・・・・・・」

 裂け目の中はなんだかグニュグニュしてて、よく特撮モノで見るような亜空間とか異次元とかそんな類のものに似ていた。

鈴凛「・・・・・・」

 裂け目の中から赤く染まった手が出てきた。
 続いて腕、肩、と順番に出てきて、それは最終的に一人の少女を形作った。

鞠絵「・・・すみません、遅れました」

 胸元に手を当てて、真っ白な息を何度も吐き出す。
 何度も深呼吸をするように、ストールを羽織ってる肩が上下に動く。

 ちなみに、服は所々破けてたり焦げてたりして、
 ストールには緑色やら紫色やらの奇妙な液体が付着していた。

鞠絵「・・・鈴凛ちゃん?」

 空間の裂け目から出てきた少女、遠慮がちにアタシの名前を呼ぶ。

鈴凛「・・・・ちょっとマテ

 ・・・何からツッコメばいい?

鞠絵「はい?」

 もういちいちツッコンでたらキリがないとは昨日思ったが、
 これはさすがにツッコマせて貰うぞ!

鈴凛「なにコレ!?」

 空間の裂け目を指差して言う。

鞠絵「・・・えっと、“ゲート”らしいです。 わたくしはよく知りませんけど」
鈴凛「なんで手が赤いの!? なんで服ボロボロなの!?
   ストールについてる緑と紫のものは何!? よく知らなくてできるもんなの!?」
鞠絵「それは・・・・・・あ!」

 何かに気づいたようにそんな声を上げる。

鞠絵「早く閉めないと、こっちの世界に瘴気が溢れ出てくるんでしたっけ」
鈴凛「“瘴気”っ!?」

 空間の裂け目から紫色の怪しい蒸気のようなものが出ていた。
 鞠絵ちゃんは何事なかったように空間を閉めた。
 って言うか今どうやって閉めた?

鞠絵「それでなんの話でしたっけ」
鈴凛「なんで手が赤いのか? なんで服がボロボロなのか?
   ストールについてる緑と紫のものは何か? よく知らなくてできるもんなのか?
   ついで言うとどうやって開けてどうやって閉めたのかも」
鞠絵「多いです」
鈴凛「アタシもそう思う」
鞠絵「・・・そうですね、簡単に言うと・・・」
鈴凛「簡単に言うと・・・」
鞠絵「今日は抜け出せそうになかったので、多少危険でしたけど姉上様の道具を無断で使って、“ゲート”を開いて直接ここまで跳んで来ました」

 簡単に言われたけど、それでもやっぱり理解に苦しんだ。

鞠絵「言ったじゃないですか。 どんな事をしても来るって」

 言ったけどそんな事までするとは思わない。
 って言うかやり過ぎ。

鈴凛「馬鹿ね」
鞠絵「命懸けで来たのにその言い草はひどいです」
鈴凛「無理はしないで言ったじゃない」
鞠絵「それほどでもないです」
鈴凛「命懸けって今言ってたでしょ」
鞠絵「大丈夫です」
鈴凛「何が?」
鞠絵「これくらい、真冬に雪をぶっ掛けられることに比べたら全然大したことじゃないです」
鈴凛「どう考えても大したことよ。 って言うか自覚あるならバーチャル海ごっこなんてやるな!」
鞠絵「それくらい、海は好きですから」
鈴凛「やっぱ馬鹿よ」
鞠絵「そんなこと言う人、両眼を抉り取りますよ」
鈴凛「カエルの丸焼き買ってあるんだけど・・・」
鞠絵「あ、だったら今の嘘です」
鈴凛「もう、あんまり時間ないよ」

 苦笑しながらカエルの丸焼きをを手渡す。

鞠絵「それでもいいです」
鈴凛「そうね・・・」


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


鞠絵「・・・大丈夫ですか? 鈴凛ちゃん」
鈴凛「・・・気分が悪い」

 どうやら、アタシの心はまだカエルを食べると言う行為を受け入れていないようだ。

鞠絵「でも、今日はどうしたんですか?」
鈴凛「何となくアタシもカエルの丸焼きが食べたくなったのよ・・・」

 そう答えて、もう一口カエルを口に運ぶ。

鈴凛「・・・・・・」

 味は・・・ササミみたいだった。

鞠絵「おいしいですよね?」
鈴凛「かもしれない・・・」

 食べる上で気持ちというものがいかに重要かという事を再認識した。

鈴凛「・・・なんか、お腹も痛くなってきた」
鞠絵「・・・大丈夫ですか?」
鈴凛「なんで鞠絵ちゃんは平気なの・・・」
鞠絵「わたくしは、カエルの丸焼きが好きですから」

 どういう経緯で好きになったか是非教えて欲しいものだ。

鞠絵「そう言えば・・・時間、あとどれくらいなんでしょうか?」
鈴凛「昼休みの事? 時計持ってないから分からないけど、もうそんなにないと思うよ」
鞠絵「だったら、早く食べてしまわないとダメですね」
鈴凛「気が重い・・・」
鞠絵「がんばりましょう」
鈴凛「がんばりたくない」
鞠絵「お薬ならたくさんありますから」
鈴凛「薬じゃないのも混じってるでしょ・・・」
鞠絵「飲み薬の他にも、貼り薬、塗り薬、生卵、麻や―――」


    キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン・・・


鞠絵「あ・・・チャイム・・・」
鈴凛「今、最後に何て言おうとした!?」

 昨日の物に比べると大した事はないが、あれは冗談らしいので信憑性がある分こっちの方がヤバイ気がした。
 と言うか最後の一個前は何だ?

鞠絵「休み時間、終わっちゃいましたね」

 また無視かよっ!

鞠絵「カエル・・・まだ、残ってるんですけど・・・」(←普通に食べるのが遅い)
鈴凛「アタシだって半分以上残ってる」(←気持ちの問題で食べるのが遅い)
鞠絵「大急ぎで食べてしまいましょうか?」
鈴凛「・・・そうね」
鞠絵「はい」
鈴凛「あれ? 今日はイエッサーじゃないの?」
鞠絵「あ、忘れてました」
鈴凛「・・・・・・」

 ・・・しまった、墓穴だった。


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


鞠絵「今日はありがとうございました」
鈴凛「何のこと?」
鞠絵「わたくしが来るまで待っていてくれたことです」
鈴凛「帰ろうとしたら急に空間が裂けたのよ」
鞠絵「ふーん・・・」
鈴凛「何、そのふーんって」
鞠絵「何でもないですっ」
鈴凛「もう待たないからね」
鞠絵「そんな事言う人、生卵ぶつけますよ」

 微笑んで、そしてくるっと振り返る。
 リアリティがあってホントにやられそうで嫌だった。
 なんせ生卵は今持ってるらしいし・・・。

鞠絵「えっと、冗談です・・・」

 後ろを向いたまま、思い出したように言葉を繋げる。
 良かった! 冗談でホントに良かったっ!!

鞠絵「だって、わたくし、鈴凛ちゃんの事が好きですから」

 一度だけ振り返って、そしてポケットから短刀を取り出し何もない空間を切る。

鈴凛「・・・・・・」

 ・・・裂けた。
 なるほど、こうやって裂いたのか・・・。

鈴凛「・・・・・・」

 鞠絵ちゃんが亜空間の中に入り、空間の裂け目が消えるまで、同じ場所で見送る。

鈴凛「アタシも戻ろ・・・」

 どうでもいい事だけど、“ゲート”の開いていた場所は溢れ出た瘴気の影響でか、
 地面の雪は全部溶け、剥き出しになった土は腐っていた。
 ・・・ホントに危険は多少なのか?


更新履歴
03年10月5日:完成
03年10月16日:微修正


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