2時間目も後半戦にさしかかった頃・・・。

衛「・・・人がいる」

 後ろの席の衛ちゃんが、シャーペンの腹で背中をつつきながら、小声で話しかけてくる。

鈴凛「人くらいいるでしょ。 学校なんだし」
衛「そうじゃないんだよ」
鈴凛「?」

 曖昧に返事しながら横を見ると亞里亞ちゃんの姿があった。

亞里亞「ぐるぐる・・・」

 なんか回して遊んでいる。

亞里亞「キャンディー・・・おいしい☆」

 “なんか”はキャンディーだった・・・ってそんなもん学校に持ってきちゃダメじゃない!


   くぅ〜・・・


亞里亞「くすん・・・おなかすいたの・・・」

 朝、山のような量を食べたのに(アタシの3〜4倍)まだ食い足りないか!?
 亞里亞ちゃんって、もしかして1日の摂取カロリー普通の人の3倍はあるんじゃないの?

衛「なんか変なんだ」

 なおもシャーペンで背中をつつきながら、衛ちゃんが話を続ける。

鈴凛「・・・確かに、この食欲は・・・」
衛「じゃなくて」
鈴凛「違うの?」
衛「外に人がいるんだけど・・・なんか様子が変なんだよ」

 そう言って窓の下を指さす。
 言われた通り、窓越しに下の方を見てみる。
 そこはちょうど校舎の裏に当たる場所だった。
 一面を真新しい雪に覆われたどこか物悲しい場所。
 人が足を踏み入れた跡さえその場所には残っていなかった・・・。

 一組の小さな足跡を除いて・・・。

鈴凛「・・・・・・」

 その足跡の辿り着く先には女の子がひとり、ただぽつんと立っていた。
 まるで、何かを待っているような、そんなたたずまいだった。

衛「あの人、さっきからずっとあの場所にいるんだ」

 遠くてはっきりとは分からないけど、制服じゃあないようだった。

鈴凛「そのうちいなくなるんじゃ・・・」

 この寒さの中で何時間もじっとしてるわけはないと思った。

衛「そうだよねェ」


    キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン・・・


 チャイムの音が静かな教室に響き、2時間目の授業は終了した。


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


 やがて、4時間目の授業が始まった。
 今日は土曜日なので、これが最後の授業・・・って、なんでこの学校は未だに土曜日にも授業があるわけ?

衛「あの人、まだいるよ・・・」
鈴凛「そうだね」

 窓の下。
 そのずっと下。
 変わらない雪の中で、まったく同じ場所に一人の少女が立っていた。
 あれから2時間くらい経ったかな?
 その間もずっと今の場所に立っている。

衛「大丈夫かな・・・」
鈴凛「・・・・・・」
衛「誰か待ってるのかな?」
鈴凛「何もあんなところで待たなくてもいいでしょ」
衛「その相手が何処のクラスか分からないとかさ・・・」
鈴凛「何それ?」
衛「なんとなくだよ」


    キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン・・・


 不意に、今日の授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。
 その音を待ちかねたように、少女が空を見上げる。

鈴凛「・・・・・・」

 その少女の顔に、アタシは見覚えがあった。
 雪の中で出会って、そして別れた女の子。

鈴凛「アタシ、ちょっと急用を思い出した」

 席を立って走り出す。

衛「あ、ちょっと、まだホームルーム残ってるよ!」
鈴凛「テキトーな学校なんだからそのくらい平気よっ!」

 まだ幼い亞里亞ちゃんが飛び級でアタシと同じ学年とか、
 その亞里亞ちゃんより下の歳でアタシよりも上級生の子がいるとか、
 キャンデーを見ても注意しようともしない教員がいるだとか、
 未だに土曜日でも授業があるとか、
 とにかくテキトーで“ご都合主義”な学校だから大丈夫だろう。

 人通りの少ない廊下をパタパタ走り抜け、そして階段を一気に駆け下りる。


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


鈴凛「・・・寒っ」

 むやみに広い校内の敷地。
 もちろん中庭なんて行ったことない。
 って言うかこの寒さでは、寧ろ、逝ってしまいそうだ。

鈴凛「・・・何やってるんだろ、アタシ」

 やがて校舎裏の風景が視界を覆った。

鈴凛「・・・ここね」

 一面の白。
 積もったままの雪が、この場所に人の出入りがほとんどないことを証明していた。
 ひっそりとその場所に存在する空間。
 雪の絨毯の中心に、ひとりの少女が立っていた。

少女「・・・あ」

 雪にも決して引けを取らないくらい白い肌の小柄の女の子。
 メガネで、三つ編みで、白いストールを羽織って、穏やかに微笑みながら小さく声を上げる。
 間違いなく、昨日咲耶ちゃんと一緒に出会った少女だった。

少女「どうしたんですか? こんなところで」
鈴凛「中庭に生徒以外の人間が入り込んでるから、見に来たの」
少女「そうなんですか? ご苦労様です。 ・・・でも、ちょっと違います」
鈴凛「何が?」
少女「生徒以外、じゃないです。 だって、わたくしはこの学校の生徒ですから」
鈴凛「だったらなんで私服で授業中にこんな所に立ってるの?」
少女「わたくし、今日は学校を欠席したんです」
鈴凛「サボり」
少女「サボりじゃないですよ」
鈴凛「じゃあ何よ?」
少女「最近は体調を崩してしまっていて・・・それでずっと学校をお休みしていたんです。
   昔からあんまり体が丈夫な方でもなかったんですけど、最近、特に体調が優れなくて・・・」

 言われてみれば、どこか辛そうな表情に見えなくもないかもしれない。

鈴凛「こういうこと聞いていいか分かんないけど・・・」
少女「はい、なんでしょうか?」
鈴凛「・・・何の病気?」

 ふいに、少女の顔が曇る。

少女「・・・たいした病気じゃないです」

 小さな声で伏し目がちにゆっくりと言葉を続ける。

少女「・・・実は・・・エボラ出血熱―――」
鈴凛「十分過ぎるほどの重症のたいした病気だね」
少女「冗談です」
鈴凛「・・・・・・」
少女「・・・・・・」
鈴凛「・・・で、本当は?」
少女「風邪です」
鈴凛「・・・・・・」
少女「・・・・・・」
鈴凛「・・・カゼ?」
少女「はい、風邪です」
鈴凛「・・・・・・」
少女「すみません、何かがっかりさせてしまったようで・・・」

 本当に申し訳なさそうに声を落とす。

鈴凛「・・・いや、たいしたことないなら、それでいいんだけど」
少女「えっと、それで最近は学校をお休みしてたのですけど・・・今日は人に会うために、こっそり出てきたんです」
鈴凛「こっそり来なくても、堂々と来たらいいじゃない」
少女「病気には変わりないですから、外出していることが見つかると・・・“彼ら”に喰い殺されます・・・」
鈴凛「“彼ら”って誰っ!?」
少女「わたくしもよく知らないんですけど・・・“あっちの世界”から来て・・・言うこと聞かない悪い子を喰べちゃうって・・・」

 ああ、要するに「悪い子は鬼さんが食べに来ちゃう」って言う感じの“大人の脅し”のアレか。

少女「・・・なので、こっそりと、です」

 しかし、この女の子それを未だに信じているのだろうか?

鈴凛「人に会いに・・・って、誰に会いに来たの?」
少女「それは秘密です」
鈴凛「秘密って言われると、余計気になるなぁ」
少女「そうですよね」
鈴凛「じゃあヒント」
少女「ヒントですか・・・?」

 呟きながら、困ったように眉を寄せる。

少女「・・・実は、わたくしもその人の事よく知らないんです」
鈴凛「・・・は?」
少女「名前も知らないですし、何年のどのクラスかも分からないですし、前世がなんだったかも・・・」
鈴凛「前世は普通分からないでしょ・・・」
少女「そんなことないですよ、わたくしは戦国武将だったそうです」
鈴凛「インチキくさ〜・・・」
少女「でも、言われた時は凄い信憑性があったんですよ」
鈴凛「いや、それはどうでいいから・・・。 で、あった事もないの?」
少女「いくらなんでも、それはないですよ」
鈴凛「まぁ、どうせアタシが知ってる名前じゃないだろうけどね・・・」
少女「・・・・・・」
鈴凛「しかし、風邪なんて大変よね」
少女「でも、病気で長期に渡って休んでいる女の子って、ちょっと小説の話みたいでかっこいいじゃないですか」
鈴凛「自分で言わないの」
少女「もちろん、冗談です」
鈴凛「そう」
少女「カルフォルニアンジョークです」
鈴凛「絶対嘘だ!」
少女「そう言えば、自己紹介がまだでしたね」
鈴凛「アタシの言葉は無視ですか!?」
少女「・・・・・・」
鈴凛「・・・・・・」
少女「そう言えば、自己紹介がまだでしたね」
鈴凛「だから・・・」
少女「そう言えば、自己紹介がまだでしたね」
鈴凛「・・・・・・」
少女「そう言えば、自己紹介がまだでしたね」
鈴凛「・・・アタシは鈴凛、相沢鈴凛」

 少女は引く気はない様なので、納得いかないけど話を進める事にした。

鈴凛「今週転校してきたばかりだけど、ここの2年よ」
少女「わたくしは鞠絵です。 美坂鞠絵。 休んでばかりですが、ここの1年生です」
鈴凛「みさか、まりえ・・・?」

 ふと、その名前にかすかな違和感を感じた。

鈴凛「みさか・・・」
鞠絵「どうしたんですか? イグア・・・難しい顔をしていますけど・・・」
鈴凛「いや、別に・・・」

 って言うかその前の“イグア”って何!?

鞠絵「もしかして、変な名前だって笑ってるんですか?」
鈴凛「いや、そうじゃなくて・・・」

 どっかで聞いた事あるような・・・。

鞠絵「鈴凛ちゃん」

 ふいに名前を呼ばれた。
 あまりに唐突だったから、一瞬アタシに向かっての言葉だとは気づかなかった。

鈴凛「・・・なに?」
鞠絵「今日のところはこれで帰ります」
鈴凛「誰かに会うんじゃなったの?」
鞠絵「今日はもういいです。 元々大した用事ではないですから」
鈴凛「・・・そう」
鞠絵「ご迷惑をおかけしました」
鈴凛「ううん、アタシが勝手に来ただけだから」
鞠絵「えっと、それでは帰ります」

 くるりと振り返って、雪の道を歩いていく。

鈴凛「・・・あ」
鞠絵「・・・はい?」

 アタシの声に、不思議そうに振り返る。

鈴凛「・・・ううん、何でもない」
鞠絵「よく分かりませんけど・・・分かりました」

 自分でも、今何を言いたかったのか分からなかった。
 ただ呼び止めたかっただけなのかもしれない・・・。

鞠絵「それと、わたくしの事は気軽に呼んで下さって構いませんよ」
鈴凛「分かった、アタシの事は遠慮なくおねえたまと呼んで」
鞠絵「・・・そう言うこと言う人、わら人形で呪いますよ・・・」
鈴凛「・・・・・・」

 昨日のアレを見ているから、しゃれになってない・・・。

鞠絵「冗談です」
鈴凛「そ、そう」

 助かった・・・。

鞠絵「それでは、これで」
鈴凛「風邪、お大事に」
鞠絵「イエッサー」
鈴凛「・・・・・・」

 ちなみに「イエッサー」は男の上官に使う言葉だ。

鈴凛「・・・あの子・・・結局、何しにきたのかな?」

 後ろ姿を最後まで見送りながら、ふと思った。
 不思議、というよりおかしな女の子だった。

鈴凛「・・・アタシも帰ろ」


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


亞里亞「ただいま」

 亞里亞ちゃんは制服から着替えるため、そのまま2階の自分の部屋まで、ぱたぱたと階段をかけ上がった。

白雪「あ、鈴凛ちゃん。 おかえりなさい、ですの」

 玄関では、アタシと入れ替わりに白雪ちゃんが鞄を持って出て行こうとしていたところだった。

鈴凛「ただいま。 今からおでかけなの?」
白雪「はいですの。 今、冷蔵庫を覗いてみたら、おかずになりそうなものが全然なかったんですの」

 やっぱ亞里亞ちゃんが毎日あの量を食べてたら冷蔵庫の中のものもすぐなくなるよね・・・。

白雪「ちょっとお夕食は遅くなるかもしれませんけど、それは諦めてくださいですの」
鈴凛「じゃあ、アタシ、代わりに行こっか?」
白雪「いいんですの、帰ってきたばかりで疲れてるはずですから」
鈴凛「そんな事ないって。 ひとっ走りいってくるから、その間に用意始めといて」
白雪「そうですの? では、頼ませて頂きます」
鈴凛「そうそう、遠慮なんていらないって」
白雪「はい、お財布は渡しておきますの」
鈴凛「なに買ってくれば良いの?」
白雪「メカの材料でなければなんでも・・・」
鈴凛「・・・・・・」


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


 門を出たところで、アタシは足を止めた。
 今、角の先に動くものが見えたのは気のせいだと思うけど・・・。
 まるでアタシの姿を見て、慌てて姿を消したようにも見えたから、よけい気になった。

鈴凛「・・・・・・」

 しばらくじっとしていても、ただ寒いだけだから、気にしないで、アタシは歩き出す事にした。



 さて、何を買って帰ろうか、と悩みながら商店街へ入る。
 新しいメカの部品を、と考えてしまったと言うのは内緒のしみつである。

鈴凛(何より食えないし・・・)

 ・・・・・・。

鈴凛「・・・・・・?」

 商店街に入ってから、誰かにつけられているような気がしていた。

 亞里亞ちゃんが、ちゃんと食べ物を買うか見張ってるんだろうか・・・(あの子食べ物の事になると人変わりそう・・・)
 あるいは昨日今日知り合った、書くのがめんどくさくてかなりシーンを飛ばされて出番の数少ないクラスメートか?
 親しくはなくとも、なんとなく顔見知りの気がした。
 特にイギリス帰り。
 それに、出掛けに見た人影も気になる。

 振り返っても、夕飯時の前に賑わいを見せる通りに、その姿を見つけだすことはできなかた。
 判然としないまま、アタシはジャンクショップのドアを・・・って、間違えた・・・。
 判然としないまま、アタシはスーパーの自動ドアをくぐった。


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


 そして惣菜を数点と、誘惑に負けて買ってしまったメカのパーツを見繕って出てくると、目の前にそいつは居た。
 待ち伏せていたのだろう。
 全身を使い古した毛布のような布で被い、顔も確認できない。

鈴凛「誰よ、アンタ。 ずっとつけてたでしょ」
少女「やっと見つけマシタ・・・」

 だが意外にも声は少女のものだった。
 というか喋り方が少し気になった。
 少女は纏っていた布を投げ捨てた。

少女「チェキ!!」

 一体どんな見知った顔が暴かれるか、と思っていたら、
 まったく見覚えのないイカレタ怪盗ファッションのコスプレがでてきた。

鈴凛「勘弁して・・・」

 思わずそう言葉がこぼれた。

少女「チェキチェキチェキチェキ!」

 言動とは裏腹に少女の目が真剣で冗談でそんな事をやってるのではない事が分かって、アタシは少し引いた・・・。

少女「姉チャマのハートをチェキよー!」
鈴凛「え? 姉チャマ?」

 突撃してくる怪しい怪盗ファッションのコスプレイヤーが、ポケットからデジカメを取り出し、間合いを一気に詰めた。


    さっ


 アタシは思わず身をかわした。


    かしゃっ


 少し遅れてシャッターの音が聞こえてきた。
 恐らくは撮り損ねただろう。
 しかし、すかさずデジカメのレンズをこちらに向ける。


    


 再びかわす。


    かしゃっ


 またもや少し遅れてシャッターの音が聞こえた。


    さ、かしゃっ

    さ、かしゃっ

    ささ、かしゃっかしゃっ

    さっ、さっ、さっ、かしゃっ、かしゃっ、かしゃっ


 ・・・・・・。

怪しいコスプレイヤー「はーー・・・ぜーー・・・ぜーー・・・!」
鈴凛「なにやってるの、アンタ?」

 (多分)真剣な言動とは裏腹に、少女はあまりにもカメラ慣れしておらず、その腕は素人とも思えるものだった。

少女「何故デスか・・・? 何故この名探偵が・・・」
鈴凛「探偵って・・・寧ろ怪盗にしか見えないけど・・・」

 探偵と怪盗じゃ正反対だ。

少女「し、しまったデス! 今は名探偵ではなく、びしょ〜じょ怪盗クローバーデシタ!」
鈴凛「美少女怪盗クローバー?」
少女「チェキ〜・・・なぜデス? どうしてコンナ初歩的なミスを・・・?
   ・・・あ! そうデス! きっとお腹が空いてるからデス!」
鈴凛「ちょっとぉ・・・」

 なんだか自分の中で勝手に話を進めている・・・。

少女「あ、チャンスデス。 スキあり! チェキ!」


    かしゃっ


鈴凛「あ、しまった!」

 とは言ったけど、別に写真くらい撮られたってどうだっていいか・・・。

少女「や、やりました・・・ついに・・・」


    ぽてっ


 美少女怪盗クローバー(?)は、そこまで言ってアタシの胸に倒れこみ、そのままずるずると顔を擦らせながら落ちていった。

鈴凛「え、ちょっとっ」

 抱え上げてあげると、気を失ったように眠りこけていた。
 よっぽど疲れてたのか、あるいは本当に気絶するほどお腹が空いていたのか・・・。
 それで目的を達成したから力が抜けて・・・

鈴凛「・・・・・・」

 そして冷静になって辺りを見回すと、通行人の視線を一手に集めていた。
 その目は、まるでアタシも一緒に街中を平気でコスプレして歩き回る人だと、皆が一様にアタシを仲間だと言っているような気がした。

鈴凛「あはは・・・」

 笑顔で訴えながら、アタシは少女を背中におぶってそそくさと退散を決め込んだ。
 もしこのまま放っておいて、デジカメのデータを見られようものなら、アタシも仲間だと間違いなく思われる。
 いや、もう既に思われてるかもしれないけど・・・。

 アタシは、ここに来て初めて、写真を取られた事の重大さにやっと気づいた。


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


鈴凛「ただいまーっ」

 見知らぬコスプレイヤーを背負ったまま家に帰り着くと、そのまま居間へと直行した。

亞里亞「人肉は嫌い〜・・・」
鈴凛「喰ったことあるの?」

 亞里亞ちゃんなら食べてそう、白雪ちゃんなら作ってそうで怖くなった。

鈴凛「とにかく布団用意してくれない?」
亞里亞「いえっさ〜・・・」
鈴凛「・・・・・・」

 一応もう一回言っておくけど、「イエッサー」は男の上官に使う言葉だ・・・。

 なんて考えてたら亞里亞ちゃんと入れ替わりで白雪ちゃんが現れた。

白雪「人肉料理は、ちょっと・・・ですの・・・」
鈴凛「ねぇ、やったことあるのっ!?」
白雪「冗談ですの。 それにむしろ姫が食べら・・・げふんっげふんっ・・・なんでもないですの・・・」

 最後の方の何かを誤魔化すような咳払いがやや気になった。

鈴凛「・・・・・・とりあえず寝かせてあげて。 訳は後で話すから」


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


鈴凛「実は・・・いきなりチェキチェキ言ってアタシの写真を撮るなり気絶・・・・・・って訳なの」
亞里亞「よくわからな〜い」
鈴凛「って言ってもホントにそれだけだし・・・」

 謎のコスプレイヤーをちゃんとした布団に寝かせた後、食卓を囲んで、アタシはわけを話していた。
 ちなみにあの格好のままじゃあ寝苦しいだろうからふつうのパジャマに着替えさせた。

白雪「・・・それよりも、鈴凛ちゃん」
鈴凛「なに?」
白雪「どうしてお夕食の材料にメカの材料が?」
鈴凛「・・・・・・」
白雪「・・・・・・」
鈴凛「・・・ゴメンなさい・・・」

 バレる前に部屋に隠して持っていく計画があの珍妙なコスプレイヤーの所為で台無しだ!!(←オイ)


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


鈴凛「・・・・・・」


 辺りの様子はいまだ真っ暗い中、アタシは目を覚ました。
 暗い中、目を凝らして時計を見てみると時刻は午前1時を指していた。

鈴凛(目が覚めたんだし・・・ついでにトイレにでも行っておこう・・・)

 立ち上がり、部屋を出た。
 1階へ降りると、まだ慣れないトイレの場所まで暗い中を歩いていく。


    ごそごそ・・・


鈴凛「・・・・・・?」


    がさごそ・・・


 台所から物音がする。
 それもかなり大きい音。
 アタシは物音の正体を探るべく、居間の方から回り込み、台所の入り口の方へと立った。


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


声「チェキ〜・・・お腹空いたデス」

 声が聞こえてくる。
 誰かが冷蔵庫をごそごそを漁っている。
 ・・・亞里亞ちゃんか。

声「勝手に美少女怪盗クローバーの正装から着替えさせられてマスし・・・」

 アタシの4倍は食べてたはずなのに・・・まだ足りないの?
 絶対成人病になるわね・・・。

声「チェキ〜っ・・・お腹がGouGou言ってマス・・・」
鈴凛「なんだそりゃ?」
声「チェキいいいいいいいいぃぃぃぃぃーーーーーーーーッッ!!」


    ゴロゴロゴロゴロゴロチェキゴロゴローーーーーーッッ!!


    ズドンッッ!! ガシャアァァーーンッッ!! チェキ!


鈴凛「え? えっ!?」

 ただ声をかけただけなのに・・・。
 って言うか変な効果音が聞こえたのは気のせい?
 とにかく大騒ぎになってしまったため、ドタバタと2階から足音が聞こえてくる。
 パチパチと電気が灯る。

白雪「こんな夜更けに、ご近所迷惑ですの」

 白雪ちゃんが心配顔で台所に現れる。
 その後ろには亞里亞ちゃんもいた。

亞里亞「ぐるぐるです・・・」
鈴凛「なにが? って言うか、それ以前に亞里亞ちゃんって分身の術が使えるの?」
亞里亞「分身魔球を投げてくれるなら」

 意味不明。
 それはそうと、振り返ると、今大騒ぎをしていたのは亞里亞ちゃんではなく先程運んできたあの少女だった。

少女「ウウウ・・・死ぬほどビックリしマシタ・・・」
鈴凛「いや、普通に声かけてだけじゃない・・・」
少女「ちぇき〜・・・お腹が空いていただけデシタのにぃっ・・・。 姉チャマはひどいデス」
白雪「お腹が空いてますの!?」

 お腹が空いたという言葉に反応して、白雪ちゃんの目が光った。

少女「チェキ〜・・・」

 なにをためらっているのかは分からないけど、しばらく悩んだ後、少女はこくん!と大きく頷いた。

白雪「じゃあ何か作ってあげますの! ムフン!」

 夜更けにも関わらず、白雪ちゃんはエプロンを巻いて、キッチンに立った。
 相変わらず料理の事になると気合が入るなぁ・・・。

亞里亞「うごくバナナはキライ〜・・・」
鈴凛「亞里亞ちゃん。 今、間違いなく夢の世界でしょ?」


    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・


鈴凛「で、アンタ、名前は?」
少女「びしょ〜じょ怪盗クローバー」
鈴凛「嘘つかない!」
亞里亞「怪盗さんだ〜」
鈴凛「信じない!!」

 亞里亞ちゃんはいつの間にかきちんと起きてるし。

鈴凛「だから本名・・・」
少女「それが・・・なんにも思い出せないのデス」
亞里亞「記憶・・・喪失?」
鈴凛「適当なこと言わないの!」
白雪「それよりも・・・鈴凛ちゃんの事を姉チャマとか言ってませんでした?」
少女「ハイデス、姉チャマの妹なのです」
白雪「まあ、鈴凛ちゃんの妹でしたの」
亞里亞「びっくりです☆」
鈴凛「ちょっと待ってよ! アタシこんな子知らないよ!」
少女「ウウウ・・・酷いデス・・・姉チャマは薄情デス・・・」
鈴凛「そんな事言われたって・・・第一クローバーなんて名前の日本人が居る!?」
少女「美少女怪盗クローバー!!」
鈴凛「・・・・・・」

 どうやら、“美少女怪盗”というのは重要なパーツらしい。

少女「仕方アリマセンね・・・ここは記憶が戻るまでこの家に置いてあげるしかないデスよ」
鈴凛「自分で言うな! ここはアンタの家じゃないでしょ!」
白雪「鈴凛ちゃんのお家でもないですの・・・」
少女「でも・・・しょうがないデスよ。 姉チャマは・・・唯一の道しるべデスから・・・」
鈴凛「道しるべ」
少女「たくさんの事を忘れてマスけど、ただひとつだけ覚えていたことがあったのデス。
   それを姉チャマの顔を見たときに思い出したマシタ。 姉チャマをチェキしなければ、って」
鈴凛「チェキって・・・」
少女「『Check It』、という意味デス」
鈴凛「いや、そういうことを言いたいんじゃなくて・・・」

 大体さっきから見ていてそれの使い方を思いっきり間違ってる気がする。

鈴凛「えーっと、つまり、アンタはアタシを知っているってことなの?」
少女「多分・・・」
鈴凛「でもアタシはアンタを知らないし、妹が居るとも聞いた事が無い」

 認めたくないが姉は居る・・・
 ・・・・・・。
 まさかまたその時のパターン!?
 いきなり目の前に連れてきて、「お前の姉妹だ」って・・・

鈴凛「・・・・・・」
白雪「どうしましたの?」
鈴凛「妹の可能性が否定できなくなった・・・」
白雪「まぁ、鈴凛ちゃんの両親ですものね」

 アタシの親には前科がある・・・あの時は姉だったけど・・・。

少女「という事はつまり・・・」
鈴凛「いや、ちょっと待って! 可能性はある! 確かにあるけど・・・でもそうじゃない可能性の方が・・・」
少女「じゃあ確かめればいいデス!」
鈴凛「・・・でも、ちょっと事情があって、しばらくは両親と連絡が取れない様になってるのよ・・・」
白雪「そうですの」
亞里亞「妹かもしれなかったら・・・亞里亞の親戚〜」
少女「そうなると合法的に居てもいい事という事になりマスね!」
鈴凛「いや、でも・・・!」
亞里亞「白雪ちゃん、どうするの?」
鈴凛「ダメ! 白雪ちゃんってなんでも了承しちゃうもん」
白雪「了承ですの」
鈴凛「ほら、1秒で了承しちゃったじゃないの・・・」
亞里亞「良かったの、怪盗さん」
少女「ハイデス」



鈴凛「ところで名前くらい思い出せない?」
少女「だからびしょ〜じょ怪と・・・」
鈴凛「そんな名前の訳ないでしょ!」
少女「でも他にはなにも思い出せまセン・・・」
鈴凛「便宜的にでも決めておかないと不便よね・・・」

 いちいち美少女怪盗クローバー、美少女怪盗クローバー呼ぶのはハッキリ言ってめんどくさい。

鈴凛「それじゃあね・・・」
少女「ドキドキ・・・」
鈴凛「チェキ子さん」
少女「なんかイヤデス」

 言ったアタシも、自分の妹の名前かもしれないと思ったら物凄く嫌だった。
 仕方ない、まともに考えよう。

鈴凛「え〜っと、じゃあ・・・」

 なにかをヒントに考えるか・・・。
 例えば・・・この子は美少女怪盗クローバーって名乗ってたんだし・・・

鈴凛「・・・クローバー・・・って、四葉のクローバーの事?」
少女「さあ?」
亞里亞「じゃあ、四葉ちゃんにけって〜」
鈴凛「え!?」
少女「そうデスね、四葉も気に入りました」
鈴凛「って、早速使ってるよ・・・」

 しかしアタシは、またまた不思議としっくりときていた。
 何故だ!?

鈴凛「・・・ま、いいか別に。 便宜的にだし」
四葉「姉チャマ、素敵な名前アリガトウデス」

 決めたのはほとんど亞里亞ちゃんな気もするけど・・・。

鈴凛「あのさ、その姉チャマって言うのだけど・・・止めてくれないかな?」
四葉「どうしてデスか?」
鈴凛「妹じゃないかもしれないから」
四葉「妹かもしれないじゃないデスか!」
鈴凛「じゃあ妹だったらそれで良いから・・・ハッキリするまでは姉チャマって呼ばないで」
四葉「チェキぃ〜・・・」
鈴凛「・・・・・・」
四葉「いいデショウ! この名探偵が、必ずや鈴凛ちゃんとはキョウダイであるという決定的な証拠を見つけてみせまショウ!」

 四葉ちゃんはなぜか熱く燃え上がってしまったが、アタシとしては納得してくれればそれでいい。

四葉「ところでどうしてそんなに嫌なんデショウか・・・?」

 最後にそんな四葉ちゃんの呟きが聞こえた。
 それはもちろん・・・あんなコスプレイヤーを自分の妹と認めたくないからだ・・・。
 もし本当にそうだった場合は・・・その時は己の不幸を呪おう・・・。
 凶暴暴走特急の姉と怪盗コスプレイヤーの妹を持つ不幸な普通の女の子(?)として・・・。
 


更新履歴
03年9月14日:完成
03年9月20日:修正
03年9月24日:微修正
03年10月16日:また修正


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