鈴凛(・・・ここは、昨日来たところね)

 再会した次の日、亞里亞ちゃんと一緒に訪れた所。(そのシーン飛ばされてるけど・・・)
 そして・・・

咲耶「どけどけどけどけぇっ!!」

 正面から暴れ牛・・・じゃなくて昨日の人がまたもやたこ焼きの入ったプラスチックの容器を大事そうに抱え、まるで戦車の様に豪快に駆け抜けて来る。
 当然、アタシは目に入っていないんだろうな・・・。

咲耶「跳ね飛ばされたくなかったらさっさとどきなさーいッ!」

 ・・・殺られる・・・。

鈴凛「あの、咲耶さん・・・取り敢えず右に避けて下さい」

 二度目ともなるとさすがに冷静―――

咲耶「遅いッ!!」


    ドッガァーーーン


鈴凛「うぐぁっっッ!!」

 アタシは再び暴走特急に轢かれてしまった・・・。
 今、アタシを確認してから加速した様に見えたのきっと気の所為じゃない・・・。

鈴凛「・・・・・・痛い・・・」
咲耶「大丈夫よ。 私は平気だから」
鈴凛「寧ろ“兵器”です」
咲耶「なんか言った・・・?」
鈴凛「別に何も・・・。 そんな事より後ろから誰か追っかけてきますよ」

 商店街の奥から、エプロンをしてて、ロングヘアーで左右の髪の一部を三つ編みしてる女の子が、真っ直ぐこっちに向かって走っていた。

 ちなみに、ピアノを担いで・・・。

咲耶「ちぃっ! もう追いついてきたか・・・!」

 アタシの手を掴んで一目散に走り出す。

鈴凛「またっ? またなのっ?」
咲耶「説明はあとよっ! とにかく走るっ!」
鈴凛「なんでアタシまでっ」
咲耶「昨日たこ焼き喰ったでしょっ」

 迂闊だった・・・すっかり共犯にされてる。

    ・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・・・

 かなりの距離を引きずられたらしく、周りを見渡しても、商店街の雰囲気はまったく残っていなかった。

鈴凛「咲耶さん・・・随分とへんぴな場所に出ましたね・・・」
咲耶「それはそうと、走ったらお腹すいたわね」
鈴凛「早速盗品の確認ですか」
咲耶「何よその言いぐさ!」
鈴凛「でも事実ですよ」
咲耶「いつかまとめてお金払うわ。 ほら、おすそ分けよ」
鈴凛「・・・またアタシを共犯者にするつもりですか?」
咲耶「大丈夫、既に共犯者よ」

 ・・・アタシは本当に迂闊だった・・・。

鈴凛「はぁ・・・分かりました、ありがたく貰います」
咲耶「よろしい」

 そう言ってアタシにたこ焼きを一箱渡す。

咲耶「やっぱり、たこ焼きは出来立てよねー」
鈴凛「ですね・・・」

 幸せそうにたこ焼きを頬張る女の人。
 アタシは受け取った一箱を食べたが咲耶さんは3箱も喰っていた。
 ・・・よく食べるなぁ、とか思いつつ時は過ぎていった・・・。

鈴凛「いい加減帰らないと日が暮れますね」
咲耶「そうね」
鈴凛「・・・・・・」
咲耶「・・・・・・」
鈴凛「取り敢えず商店街に出ましょう」
咲耶「ええ」
鈴凛「・・・・・・」
咲耶「・・・・・・」
鈴凛「だから商店街に・・・」
咲耶「どうやって?」
鈴凛「咲耶さんが帰り道知ってるんじゃ・・・」
咲耶「私こんな所初めて来たわ」
鈴凛「・・・・・・」
咲耶「ひょっとしてアナタも知らないとか?」
鈴凛「地元の人が知らないものを、一昨日引っ越してきたアタシが知る訳無いじゃないですか」
咲耶「え、そうなの・・・?」

 複雑な表情で真っ直ぐアタシを見返す。

鈴凛「当然です。 一日じゃ覚えられません・・・」
咲耶「そうじゃないの、引っ越してきたって・・・」
鈴凛「昔ちょっとだけ住んでた事もあったんです」
咲耶「もしかして・・・・・・鈴凛・・・ちゃん?」
鈴凛「そう、ですけど・・・」
咲耶「そう・・・」
鈴凛「・・・どうしたんですか? 咲耶さん」
咲耶「本当は昨日会った時から・・・もしかしてって思ってたのよ・・・」

 咲耶さんの体が微かに震えてるのが分かった。

咲耶「名前・・・一緒だし・・・それに変な男の子だし」
鈴凛「アタシは女です」
咲耶「冗談よ。 それより・・・昔の、私の知ってる頃の、ほんとそのままだし・・・」

 ・・・・・・。

咲耶「・・・帰ってきて・・・くれたのね」

 ・・・・・・。

咲耶「覚えてる? アナタ、親の都合の所為で離れ離れになったお姉さんが居た事」

 不意に、記憶の片隅をかすめた風景・・・。
 なんとなく話の雲行きが怪しくなってきたような気がする・・・。

鈴凛「咲耶・・・。 そうだ・・・」

 思い出した・・・。
 数年前にこの街で会って、そして一緒に遊んだ、親の都合で離れ離れになっている実のアネキ・・・
 そしてそのアネキの名前が、確か・・・。

鈴凛「・・・咲耶」
咲耶「ええ。 久しぶりねっ」
鈴凛「そうです・・・本当に久しぶりです」
咲耶「もう、実の姉なんだから敬語なんて使わないで」

 少しづつ、それでも確実に蘇る記憶。
 アタシは、確かに咲耶という名前のアネキと遊んでいた。

 だけど、思い出せるのもそこまでだった。

 どんな人だったかも、どうして会わせてもらえたかも・・・。
 思い出す事ができなかった・・・。

 少なくとも今のようなハチャメチャな性格でなかったことは確かだ。

咲耶「お帰り、鈴凛ちゃんっ」

 雪を蹴って、クラウチングスタートでアタシに猛突進してくる咲耶さん。

 ―――殺られる・・・!

 そう、本能的に感知したアタシは躊躇無く避けた。

咲耶「・・・へっ!」


    ドッシーーーン


 避けた背後には、丁度太い幹の木があった。
 突進の全エネルギーをその木に与える咲耶さん。
 太い幹の木なのにかなり大きく揺れてた。

 ・・・もしまともに喰らってたらアタシの体は無事では済まなかっただろう・・・。

咲耶「なんで避けるのよっ!」

 木にぶつかった咲耶さんはいたって平気のようだ・・・。
 いや、“兵器”のようだ・・・。

咲耶「避けたぁっ! 鈴凛ちゃんが避けたぁっ!」
鈴凛「避けなければアタシの命はありませんでした・・・」


    どさっ・・・


 ちょうどその時、大きな荷物が落ちるような音が木々の隙間から響いた。


    どさっ・・・どさっ・・・


 さらにはっきりとした音。

声「・・・きゃっ」

 物音にかき消されるように、女の子の短い悲鳴が聞こえた、ような気がした。
 咲耶さんの方を見る。

咲耶「・・・・・・」

 私じゃないわ、と首を横に動かす。

 まあ、当然か。
 こんな兵器な人があんな可愛らしい声を出すなんてね・・・。

 でも、その様子から咲耶さんにも同じ声が聞こえたようだった。
 アタシは声のした方向を探して、周りに視線を送る。
 白い衣を湛えた木々の中で、その先に誰かが座り込んでいた。

少女「・・・・・・」

 様々な荷物の散乱した雪の上に、微動だにせずただ視線を地面に注ぐ女の子。
 何が起こったか分からない、といった感じで、頭にのった雪を払う事もなく目をしばたたかせる。

鈴凛「・・・大丈夫?」
少女「え・・・・・・あ・・・」

 目の前に立つアタシと、白い床に散らばるスナック菓子や文房具、
 そして蝋燭やら五寸釘やらわら人形やら頭骸骨の模型(だよね・・・?)などのオカルトグッズの山を視線だけで交互に見つめる。

 ・・・丑の刻参りでもするのか・・・?

咲耶「どうしたの鈴凛ちゃん?」
鈴凛「どうやら雪の固まりが降ってきたみたいです」

 見上げると、ちょうど女の子の真上だけ枝の雪が積もってなかった。

鈴凛「さっきの衝撃で雪が崩れたんだと思います」
咲耶「私が悪いみたいな言い方ね」
鈴凛「事実ですよ?」
咲耶「鈴凛ちゃんが避けるからよっ!」
鈴凛「いや、だって、急に襲いかかって来るから・・・」
咲耶「何よ! 襲いかかってなんかいないわよっ!」
鈴凛「襲いかかる以外のなにものでもありませんでしたよ・・・」
咲耶「感動の再会シーンでしょっ!」
鈴凛「クラウチングスタートでそれをやる人はまずいないと思います!」
咲耶「それより敬語、いい加減にしなさい!」
鈴凛「そんな事言われたって・・・」
咲耶「はい! 『お姉様』」
鈴凛「・・・へ?」
咲耶「『お姉様』、私の事は今度からそう呼ぶ!」
鈴凛「嫌です」
咲耶「なんでよっ!?」
鈴凛「そりゃあ実の姉かもしれませんけど―――」
咲耶「敬語! 次言ったらまた跳ね飛ばすわよ!!」
鈴凛「・・・・・・」

 命がかかってるだけあって慎重に敬語抜きに話さざるを得なくなった・・・。

鈴凛「そりゃ、実の姉ですけ・・だけど・・・・・でも・・・」
咲耶「でも・・・」
鈴凛「ヘンなニュアンスに聞こえ・・て・・・しょうがないんで・・だけど」

 微妙に詰まりながら敬語抜きに話す。

咲耶「なんかぎこちないけど、まあいいわ。 それよりヘンなニュアンスって何よ!?
   アンタ、私のアイデンティティを否定する気」

 『お姉様』はそこまで重要な事なのか?

鈴凛「・・・・・・」
咲耶「はい! 『お姉様』言う!」
鈴凛「・・・『アネキ』じゃ、ダメで・・・なの?」

まだ敬語になりそうになるが、命がけなので必死に直す。

咲耶「『アネキ』ぃ〜? 嫌よ! ダサい!」

 ・・・気の所為かなんだかアタシのアイデンティティを否定されたような気が・・・。

鈴凛「じゃあどう呼べって言うの? もういっその事『咲耶ちゃん』にするとか?」
咲耶「・・・いいわね、それ」
鈴凛「え?」
咲耶「・・・・・・不思議だわ・・・なんだかしっくりくる・・・」

 不思議と呼ぶ側であるアタシもしっくりきた。
 何故?

咲耶「じゃあ今度から私の事は『咲耶ちゃん』という事で」

 なんだか丸く収まってしまった。

鈴凛「まあ、それはもうどうでもいいや」
咲耶「どうでもいいわけないでしょっ!」

少女「・・・・・・」

 さっきからアタシと咲耶さん・・・じゃなくて、咲耶ちゃんのやり取りを、まったく同じ姿勢でぽかんと見つめている少女。

少女「・・・・・・」
鈴凛「咲耶ちゃんがヘンなこと言ってるから、呆れられてるよ」
咲耶「私の所為じゃないわよ」
鈴凛「ところで・・・」

 不満そうにこぶしを鳴らす咲耶ちゃんを無視して、改めて雪の上に座ったままの少女に声をかける。

少女「・・・・・・」

 耳からずれ落ちたメガネを掛け直す事もなく、雪の上に散乱した荷物を拾い上げる事もなく、アタシと咲耶ちゃんを交互に見つめる。
 雪の上でもなお映える白い肌が印象的な、メガネの女の子だった。
 アタシより年下・・・かな?

鈴凛「大丈夫?」
少女「・・・・・・」

 声をかけても少女からの返事はない。
 どう反応して良いのか戸惑っている感じだった。

鈴凛「とりあえず、立てる?」
少女「・・・え・・・・・・あ・・・はい」

 不意に我に返ったようにゆっくりと頷く。
 それでも立ち上がる気配はない。
 やっぱ警戒されてるのかな?

 ・・・まあ、暴走特急の仲間だと思われたら警戒もされるか・・・。

鈴凛「この人はどうだか分かんないけど、少なくともアタシは怪しいものじゃないよ」
咲耶「私だって善良な一般市民よ!」
鈴凛「善良な一般市民は、知らなかったは言え、実の妹を轢き殺そうとしたりはしません」
少女「・・・ひきころす・・・?」
咲耶「や〜ねぇ、あれは軽い冗談&スキンシップじゃない」
鈴凛「あんな太い木を揺らすほどの体当たり・・・何処が軽いんですか?」
咲耶「どうでもいいけど敬語! 本気で送るわよ!」

 何処に?、と聞こうとしたけどお空の彼方だと思うので止める事にした。

少女「・・・・・・」

 一方、少女はとても複雑な表情だった。

咲耶「とにかく、荷物拾わなきゃね。 手伝うわ」

 ここで優しい所を見せ、第一印象を良くしようと言う魂胆だろうか?

少女「あ!」

 驚いたような少女の声。
 咲耶ちゃんの手がぴたっと止まった。

咲耶「・・・どうしたの?」

 きっと正体がバレてるからだ。

少女「え・・・いえ、なんでもないです。 自分で拾いますから・・・」
咲耶「そ、そう・・・」
鈴凛「咲耶ちゃんの窃盗は失敗したみたいだね」
少女「いえ・・・すみません・・・そんなつもりで言ったわけでは・・・」
咲耶「分かってるって、私が窃盗なんてする訳ないって、見て分かるもんね」

 たこ焼き窃盗してたじゃない・・・。

 なんてアタシが考えてる間に、少女はひとつひとつ確認するように拾い上げながら立ち上がる。

少女「・・・ちょっと寒いです」
鈴凛「そりゃあね」

 あれだけの時間、雪の上に座り込んでいたんだから体だって冷える・・・。

咲耶「レシート落ちてるわよ」

 雪に半分以上埋もれてたレシートの端っこを指差して、咲耶ちゃんが呟く。

少女「・・・すみません、拾っていただけますか?」

 たくさんの(怪しい)荷物を抱えたまま、咲耶ちゃんの方を向いてそうお願いする。

咲耶「はい」

 雪に埋もれてたレシートをつまみ上げ、女の子に渡す。

咲耶「でも、随分とたくさんの買い物ね」
少女「わたくし、あまり外に出ないので、時々まとめ買いするんです・・・」
咲耶「へぇ、そうなんだ」
鈴凛「お金は払っているから問題は無い―――」

 ―――のか?
 わら人形や五寸釘や頭蓋骨(模型?)や・・・

咲耶「なによ、まるで私が悪人みたいじゃない!」
鈴凛「事実でしょ」
咲耶「私は善人よ」
鈴凛「善人は『どけどけ』言って爆走しないし、どかなきゃ跳ね飛ばすなんて事しないと思うけど」
咲耶「所詮この世は弱肉強食! 弱いヤツからくたばっていくのよ・・・」
少女「・・・・・・」

 メガネの女の子は、アタシ達のやり取りにどう反応していいのか分からず困っているようだった。

鈴凛「ほら、咲耶ちゃんの所為で戸惑ってる」
咲耶「鈴凛ちゃんがヘンなこと言うからよっ」
鈴凛「全部事実じゃない」
咲耶「・・・夢でも見てるの?」

 なんでそんな哀れみの目で見るの!?
 なんて人だ・・・この人に罪の意識ってものが無いの!?
 ああ、この人と家族の人は可哀想・・・。
 ・・・・・・
 ・・・アタシって可哀想・・・(涙)

咲耶「どうしたの、急に」
鈴凛「いいのアタシは所詮こんな人の妹なんだから・・・」
咲耶「・・・ふふふ」
鈴凛「ど、どうしたの? 急に笑って・・・」

 思わず「気持ち悪い」と続けるとこだった・・・。

咲耶「昔の事、思い出したのよ」
鈴凛「昔の事?」
咲耶「そう言えば、鈴凛ちゃんって昔からこんな男の子だったなぁって、ね」
鈴凛「だからアタシは女だって!」
咲耶「冗談よ」

 憎たらしくもケラケラと笑う咲耶ちゃん。
 その笑顔を、紙袋を抱えた女の子が複雑な眼差しで見つめていた。
 恐らくアタシと咲耶ちゃんの関係を計りかねてるんだろう。

鈴凛「・・・とりあえず、気にしないでね」

 アタシだって目を背けたいんだから・・・。

少女「えっと・・・よく分かりませんけど、分かりました」
咲耶「運命よね」
少女「うんめい?」
咲耶「少なくとも、私はそう思うわ」
鈴凛「アタシは前世からの呪いだと・・・」

 じゃなきゃこんな過酷な運命、受け入れたくない・・・。

少女「・・・もうすぐ、日が暮れますね」

 メガネの少女が、ぽつりと呟く。
 見上げると、確かにずいぶんと日は傾いていた。
 日没もそう遠くないか・・・。

鈴凛「・・・そろそろ帰らないと」
少女「・・・・・・」
鈴凛「日がくれると大変だからね」
少女「・・・そうですね」
咲耶「・・・ええ。 そうよね」
鈴凛「じゃあ、アタシ達はそろそろ行くから」
少女「あ・・・はい」
鈴凛「どこも怪我とかしてないよね」
少女「大丈夫だと思います」
鈴凛「ごめんね」
少女「・・・いえ。 多分平気ですから」

 一言二言、簡単に言葉を交わしてアタシと咲耶ちゃんは女の子と別れを告げる。
 手を振って、少女に背中を向けて、そして歩き出す。

少女「・・・あの」
鈴凛「ん?」

 そんなアタシ達を背中から呼び止める。

少女「・・・・・・いえ、何でもないです」
鈴凛「・・・? じゃあ、本当に帰るから」
少女「・・・さようなら」
咲耶「じゃあね〜」

 手を振りながら別れを告げる咲耶ちゃんを見ていて、アタシはふと大切な事に気がついた。

鈴凛「ちょっと待って!」
少女「・・・はい?」

 歩き出した少女を引き留めて、大切な用件を切り出す。

鈴凛「ひとつ訊ねたいんだけど」
少女「・・・はい」
鈴凛「商店街って、どっち?」
少女「・・・え?」
 


更新履歴
03年9月9日:完成
03年9月20日:修正
03年10月16日:また修正


このシリーズのメニューSSメニュートップページ

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送